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「まぁ、そんな簡単に人の考えを変えられたら苦労しないよね。解決策は後々考えるとして、今日はそろそろ帰ろっか。そうだ、セラちゃんさっき言っていた食堂に寄って行かない?」
「えっ、いいんですか? 行きたいです!」
「行こ行こ! 奢ってあげるから好きな物食べていいよ」
「え、それは悪いです……!」
「あはは、レピドの町に精霊を呼び戻してくれたお礼だから気にしないで」
ルークさんはあっさりした態度で言う。
お礼と言っても、報酬も宿も用意してもらったのに、そこまで甘えてしまっていいのだろうか。
迷ったけれど、ルークさんが邪気なく笑ってくれるので、とりあえず今回は甘えておくことにした。その分、レピドの町の仕事で頑張ろうと決めて。
そうして私はルークさんに連れられ、人生で初めての食堂へ向かった。
***
ルークさんと食堂に行き、宿に戻ったのはすっかり辺りが暗くなったころだった。
部屋に着くなり、私はベッドに倒れ込む。
「楽しかったぁ。町を見るのも楽しかったし、食堂のご飯もおいしかったわ。ティエルの町っていいところね!」
『そうだね。精霊を全然信じてない点は腹立たしいけど』
そう言いながらシリウスは、ベッドで寝転ぶ私の顔のそばに来て丸くなる、
『ねぇ、セラ。サフェリア王国は今頃どうなってるだろう。みんなセラのこと探してるかな』
「どうかしら。私がいなくなっても問題はないだろうけれど、王太子の婚約者がいなくなったら一応捜索はしないといけないのかしらね。あまり兵士の方々の手を煩わせないといいんだけど」
『あの国の兵士のことなんて気にする必要ないだろ。どこまでお人好しなんだよ』
私が兵士さんたちにかけてしまったであろう苦労に思いを馳せていると、シリウスは呆れた声で言う。
「だって勝手に逃げてきてしまって申し訳ないわ」
『そもそもエリオットがセラがいなければアメリアと結婚出来るとか言い出したのが悪いんじゃん。エリオットのやつ、少しは反省したのかな』
「エリオット様は何も悪くないわ。私よりアメリア様を選ぶのは当然よ。今頃邪魔な私がいなくなって、アメリア様と婚約できたかしらね。さすがにこんなに早くは無理かしら」
『悲しくないの? セラ。僕には全くもって理解できないけど、セラはあいつが好きなんでしょ』
「悲しいけれど、エリオット様が幸せならそれでいいの。私がエリオット様に出来ることなんてそれくらいなんだから」
私が答えると、シリウスは納得のいかなそうな顔になる。
それから私の頬に顔を摺り寄せてきた。
『理解できないけどセラがそう言うんならそれでいいや。セラのお人好しが治らないなら、僕が利用されないように守ってあげるだけだし』
「まぁ、ありがとうシリウス!」
私はシリウスを思いきり抱き締めて、一緒に布団の中へもぐった。
強く抱きしめ過ぎたのか、シリウスの呻き声が聞こえてきたので、慌てて手を緩める。解放されたシリウスにはぶつくさ文句を言われてしまった。
私はとても幸せだなと思った。シリウスがずっとそばにいてくれて、逃亡生活もこんなに順調で。
エリオット様も幸せでいてくれたら嬉しい。
もう二度と会うことはないのだろうけれど、どこかで笑顔でいてくれるならそれで十分だ。




