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「シャノン公爵、公爵家の令嬢を預かっておきながら行方不明にさせてしまったこと、申し訳なかった。謝罪させて欲しい」
殿下は悲痛な顔でそう言って頭を下げる。
エリオット様はなぜか私たちシャノン家の人間を嫌っているようで、夜会で会ってもいつもいまいましそうな顔を向けるだけだった。
そんなエリオット様が今日は深刻な顔で謝罪している。
お父様はエリオット様に向かってにこやかに言葉を返した。
「頭をお上げください、エリオット殿下。王子殿下が気安く頭を下げるものではありません。娘の方こそ、勝手な真似をして大変なご迷惑をおかけしたようで申し訳ありませんでした」
お父様は、つい先日娘が行方不明になった父親とは思えないほど落ち着き払った声で言う。
エリオット様に気を遣っているわけではないことを私はよく知っている。
お父様はセラフィーナがいなくなろうがどこかで死のうがどうでもいいだけなのだ。
どうしてわかるのかと言ったら、私も同じ気持ちだから。
「いや、七年前に公爵家から無理矢理連れ出しておいて、セラフィーナを行方知れずにしたのはこちらの落ち度だ。本当に申し訳なかった。必ず見つけ出すと約束する」
「いいえ、殿下。殿下に謝罪を受けるようなことではありません。セラフィーナが自分で決めたことなのですから、そういう運命だったのでしょう」
お父様はにこやかにそう告げる。
エリオット様の顔が、若干引きつるのがわかった。
お父様、ここは娘を亡くしたばかりの父親として、演技でも神妙な顔をしておいたほうがよかったんじゃないかしら。
声に出すわけにはいかないので、心の内でだけ窘める。
あ、でもそういえばさっきは私も妹を亡くしたばかりの姉なのに、とびきりの笑顔で挨拶してしまったわ。
だからさっきはエリオット様に微妙な顔をされたのかと納得する。
次は注意しようとひそかに決意した。
そんなことを考えていると、お父様が早速本題に入った。
「エリオット殿下、セラフィーナのことは残念ですが、見つからないのであれば仕方ありません。どうでしょう。我が家にはもう二人娘もいることですし、婚約者を変更なさっては。こちらにいるデイジーなどはいかがですか?」
お父様が紹介してくれたので、私は身を乗り出すようにして言った。
「エリオット様! 私はセラフィーナと違って精霊をちゃんと見られますし、操れますわ! 妹と違って、ちゃんと人型の契約精霊もおります! どうか私を新しい婚約者にしてくださいませんか?」
「い、いや……」
どうにか好感を持ってもらおうとアピールしたら、エリオット様は困惑顔になってしまった。
先ほど演技でも神妙な顔をしていようと決めたことを思い出してはっとする。
「いえ、突然そんなことを言われても困りますわよね……。妹がいなくなったショックで、つい気が動転してしまったのです……。お許しください……」
精一杯悲しそうな表情を作って言い訳する。しかし、エリオット様は不審そうな顔をするばかりだった。
「……すまないが、婚約者を変更するつもりはない。そもそもセラフィーナが死んだと決まったわけではないのだぞ。それを行方不明になって一週間ほどで婚約者を変更するなど性急ではないか」
エリオット様は不機嫌そうな声で言う。
お父様は少し慌てたように言葉を返した。




