3-2
「この町にはもう誰も住んでいないのかなぁ」
『だとしたら何があったんだろうね。町の様子を見ると、人がいた頃からそれほど長く時間が経っていないように見えるけれど』
シリウスは眉間に皺を寄せて言う。
最近まで人のいた廃墟のような町。そう考えると、ちょっと怖い気もする。
「何があったのかしら。なんだか怖いわね、シリウス」
『まぁ、大精霊シリウス様が一緒なんだから大丈夫だよ』
「……そっか。そうね! シリウスが一緒なら平気ね」
私が答えると、シリウスは誇らしげな顔になる。
シリウスはそんなに強い攻撃魔法や防御魔法は使えなかったと思うけれど、一緒にいてくれるだけで心強い。
なんでも多分大丈夫だという気がしてくる。
シリウスと話しながら歩いていると、道の前方で人影のようなものが動くのが見えた。
はっとしてシリウスと顔を見合わせる。
「シリウス! 今向こうで何か動いたわよね?」
『うん。見えた。絶対何か動いてた』
「行ってみましょう!」
『気をつけて近づきなよ』
私はシリウスに注意された通り、足音を立てないように気をつけて何かが動いた場所へそろりそろりと近づいていく。
「あ、ここお店みたいだわ。入ってもいいのかな」
『いいんじゃない? 店主はいないけど』
人影が見えたのは、クリーム色の壁に茶色の屋根の、二階建ての建物だった。
扉が大きく開いていて、中に雑貨の並んだ棚が並んでいるのが見える。
「ちょっと中を見てみるわ。シリウスは隠れていて」
『僕のことが見える人間なんてそうそういないだろうけどね』
シリウスはそう言いつつ、私のフードの中に潜り込む。
シリウスが隠れたのを確認すると、私はお店らしき建物に向かって足を踏み出した。
扉をくぐり、お店の中に入る。中は縦に長くて、奥の方がよく見えなかった。
そろそろ中を歩いていると、明るいオレンジ色の髪の黒い服を着た長身の男性が、建物の中を見回している後ろ姿が見えた。
あの人が先ほど見かけた人影だろうか。
そんなことを考えていると、男性は突然ぐるりと後ろを振り返った。
「あ……っ」
「えっ!? はっ!?? なんでここに人がいんの!!??」
驚いて小さく声を上げると、私より数倍驚いた顔でその人は叫んだ。
私は慌てて頭を下げる。
「勝手に入ってごめんなさい! ちょっと人がいないか探していて……」
「いや、この店は俺のじゃないしそれはいいけどさ。よくこの町に入って来れたね。苦しくないの?」
「苦しい? いいえ、全く……」
不思議に思いながら言葉を返すと、男性はさらに驚いた顔になる。
正面から真っ直ぐ見てみると、その人は私とそれほど年が変わらないように見えた。
明るいオレンジの髪に水色の目。
私はエリオット様の顔が世界で一番美しいと思っているけれど、この人も負けないくらい綺麗な顔をしている。
服は真っ黒で、騎士服のような、文官の制服のような、ちょっと不思議な恰好だった。
この人は誰なのだろう。
ここの住人ではないらしいけれど、制服のような服を着ていると言うことはラピシェル帝国の役人か何かなのだろうか。
先ほど家を見回していた様子からもそんな気がする。
「君は一体どこから来たの?」
向こうも同じ疑問を持ったようで、まじまじとこちらを見て尋ねてきた。
なんて答えようかと、シリウスと顔を見合わせる。
サフェリア王国から死んだことにして逃げてきた王太子の婚約者だなんて、正直に話すのはまずいだろう。
答えに迷う私に、男性は真剣な顔で近づいて来る。




