うそ!? ホント!!
アイトとエリスは互いに競争相手が出来たことで、愚直に特訓を繰り返した。
そして、さらに3ヶ月が過ぎた頃のとある日の夜。
「あの、アイト様」
「ん〜なに?」
アイトが日課のランニングを行っている時に、隣のエリスが話しかける。
「そろそろ、活動しませんか?」
「え、活動?」
「もう、とぼけないでください。資金調達ですよ資金調達っ!」
「‥‥‥ああ〜資金調達ね。そういえばあったね」
それはアイトの記憶にある、約1週間前の夜。
『ーーーーーーーーーーーーーべきです! ーーーーーーーーーーーーーーお方! ーーーーーーーーしましょう! ーーーー、ーーーーーーーーーー思いますよね!?』
朝と昼は両親の目があるから話せないとは言え、夜でしかも特訓が終わった後での長話。ひたすらに眠かったアイトは、承諾してしまう。
『ああ、うん。良いと思うよ?』
『では近いうちに行動しましょう!』
『それがいいな』
たぶんこのような会話が、アイトの脳内で微かに残っていた。
「それでは基礎特訓が終わったので、今からすぐに行きましょう」
「ぇっ? 今から?」
「早めに行動あるのみです。暴れてる迷惑な魔物を狩って、その素材を売り捌きましょう」
「言い方ひどくない?」
アイトが戸惑っている間も、エリスは話を進めていくのだった。
ディスローグ家からかなり離れたとある山。
アイトとエリスは魔物退治に来ていた。アイトは髪色を銀髪にして仮面をつけた格好で。
「これ着ると気合い入りますよね〜」
「エリスが気に入ってくれて何よりだよ」
服装は2人とも冒険者のような格好。それはアイトが、何回か王都に立ち寄った際に買ったもの。
「アイト様も似合ってますよ、その仮面!」
「へ? そ、そう?」
染色と仮面は何かあった時に正体がバレないようにするためだった。エリスには2人きり以外の時はレスタと呼んでほしいと頼んである周到ぶり。
アイトは完全に自分の正体を隠すのに必死だった。
『用意周到ですね! さすがです!』
ちなみにエリスは目を輝かせてさせて褒め称えたという。
こうして冒険者衣装のアイトたちは、ひたすら山道を歩いていく。
「なんでこんな遠くにまで来たんだ?」
「それはですね、ここには鉱石がありまして。それを売り捌いて資金を集めようと」
「質が悪いのは売っていいけど、良いやつあったら残そう。何かの役にたつと思うし」
「そうですね。武器にも使えますよね! 空を飛んで魔力を消費しましたし、山を散策しましょう!」
アイトはエリスから教わった魔法に、風魔法があった。それを応用することで、空を飛ぶこともできる。
だが自分の体を空中に浮かせ、さらに飛ぶため膨大な魔力を消費する。
そして、魔力の自然回復にはかなりの時間がかかる。
「よし、いつも通りやろう」
「はいっ! 色々見つけましょう!」
その時間を、アイトたちは散策時間にあてた。暫くした後、エリスが両手で様々な鉱石を抱えている。
「見てくださいいっぱい取れました! それではアイト様、お願いします」
「ん。はい」
アイトは左手を伸ばし魔法を発動。
そこにはなんと‥‥‥異空間が現れる。これもエリスから教わった魔法、空間魔法である。
「時間かけずに詰み込みますからっ!」
異空間を作って荷物を詰め込む。あまりにも便利な故に、魔力の消耗も激しい。
「よし、これで全部詰め込んだな。また機会があれば王都に売りに行こう」
アイト自身、まだ13歳でお金儲けが出来るなら、この恒例行事を特に断る理由もなかった。
「そうですね。今日のところはこれで帰りましょう」
「うん、おつかレェェェ!!?」
急にアイトの語尾が変になったのは、彼自身がおかしくなったからではない。
(いきなりの不意打ち!?)
極細の針が、背後から飛んできたからである。
アイトはその気配を感じとって腰を逸らして躱す。飛んできた針は、正確に首あたりを狙ってきていた。
「レスタ様! 大丈夫ですか!?」
「あ、危なかった。今の確実に首を狙いにきてた」
アイトたちは周囲を確認するが、暗くて何も見えない。奇襲者だけが、自由に闇の中を動く。
「ーーー弟を返せ」
そして、そんな声で聞こえた刹那ーーーー。
「! 来るぞ避けろ!」
「はい!」
一寸先の闇から飛んでくる無数の針が、アイトたちを襲った。2人はしばらく、回避に全神経を注ぐ。
だが夜の山で足場が悪く視界も悪いため、投擲物を避けるのも一苦労。
エリスは勇者の魔眼による予知があるため対処は簡単だが、アイトは針が実際に近くまで飛んでこないと判別できない。当然、少しも気を抜く時間はない。
(仕方ない、あれやるか。あまり目立ちたくないけど命が最優先っ!)
好転しない状況に、アイトは渋々決意する。襲ってきた謎の襲撃者と、戦うことを。
「あれをやる! 打ち上げるぞ!!」
「! 了解です!」
アイトは左手の指を丸めて輪っかのような形を作り、できた穴に右手を差し込む。そして右手の指から魔法を発動させた。
「【打ち上げ花火】」
すると指から飛んだ魔力が赤く光り、勢いよく打ち上がって破裂音を響かせ‥‥‥閃光が炸裂する。
(良い音だ)
これはアイトが初めて自分で考えて作った独自の魔法。その細部は火魔法と光魔法の合体。
アイトは中級程度の基本属性魔法なら扱える。だが上級以上の高威力を誇る魔法や希少属性は全く扱えないことを悟り、自分の素質の限界を知った。
(やっぱり混ぜる方が性に合ってるな)
そのため、アイトは属性魔力同士を融合することにした。そうすれば反発作用で威力が膨れあがり、何かと効率が良かった。
(直視しなくても眩しい‥‥‥まだ改良が必要だな)
だがまだ開発途中であるため前世の花火と違い、この花火は爆発する際に凄まじい光を放つ。つまり、まともに見ると目が眩む。
エリスに打ち上げると言ったのは『目を瞑って眩しいのを回避しろ』という意味だった。
「ーーーぐあっ!?」
爆発直後に呻き声が聞こえ、周辺がかなり明るくなり‥‥‥そして襲撃者の位置が照らし出される。
「なんだっ、今の魔法はっ‥‥‥!?」
狼狽える襲撃者は、フード付きの黒いローブ姿のため顔は分からない。だが、体は大きくない。
そして何より、相手は苦しそうに悶えて手で目を押さえていた。
「逃がすか!!」
アイトは地面を蹴って走り出し、襲撃者との距離を詰めていく。
「うおっ!?」
だが襲撃者も負けじと、ここぞとばかりに無数の針を飛ばす。ここでアイトは疑問を生じていた。
(あれ? 目が眩んだはずなのに)
正確に急所を狙って飛んでくる針。それが連続して続くため花火が不発だったのかと思い始める。
だが襲撃者を見て、そうではないことに気付く。
「意味不明な魔法を使いやがって‥‥‥!!」
襲撃者は片手で顔の右半分を押さえていた。そして左目は閉じて、右目だけ開けていたのだ。
(マジかっ!)
アイトの【打ち上げ花火】の発動を見て何かあると襲撃者は警戒し、両目を瞑っていてはその間に攻撃を受ける可能性がある。
だからそれを踏まえて、襲撃者は片目だけ閉じるという選択を取った。
(なんて頭の回転の速さと思い切りの良さ!)
アイトは感心しながらも、咄嗟に顔を傾けて針を躱す。刺されば確実に重傷だった。
「うえぇ!?」
そして次は短剣が飛んでくる。だがあまり数がないのか短剣は2本だけ。何より、形状的に針の方が脅威に感じていた。
「よいしょっと」
アイトは咄嗟に指と指の間で2本の短剣を両手で挟み込む。それを見た相手が驚く間にも、その2本の短剣の柄を掴み直す。
「さあ、ご臨終!!」
そんな言葉を言い放つアイトは、ついに襲撃者と距離を詰める。
「おっと!?」
すると襲撃者が腰のホルダーから別の2本の短剣を構え、的確に急所を狙って振り下ろす。
「あぶなっ!?」
相手の懸命な攻撃を、アイトはその場凌ぎの両手短剣で全て捌いた。
「うそ!?」
「ホント!!」
襲撃者の声に対してアイトは反射的に返事する。そして片方の短剣を至近距離で、手首の反動で相手の頭へ投げ飛ばす。
「くッッ!?」
それを襲撃者は苦しそうな声を出しながら、首を傾けて避ける。急に首を動かしたため、フードが外れて顔が露わになる。
「ご臨終!!」
だが避けさせることが、アイトにとって真の狙いだった。アイトはわざと相手から見て頭の少し右側を狙って短剣を飛ばした。
「ちッ!!?」
すると相手は避けやすい左へ首を傾ける。そこに親指で押さえつけている中指が、避けた相手の額にあったとしたら。
(襲撃者、あとはもうわかるよな?)
アイトは、またも独自に作った魔法を発動し、指に力を込める。
「【デコピン】」
振動魔法と音魔法を合わせることで、指から額に伝わる衝撃を大幅に増やした。これで脳まで振動が届いて意識を奪うという戦法である。
「ふぅ、なんとかなった」
こうして、襲撃者は意識を失ってその場に倒れた。無事に勝利したアイトだったが、ここで1つだけ言いたいことがあった。
「ーーーさすがですね。レスタ様」
(拍手してないで手伝ってくれよエリス!?)
それは今も笑顔で称えてくる、一部始終を傍観していた金髪美少女に。




