結束早すぎない?
グロッサ王立学園武術大会から1日。
アイトたち生徒は普段の学園生活に戻っていた。
『何負けてんのよっ!!』
『‥‥‥(ふるふる)』
『アイトくぅ〜ん、残念でしたね〜‥‥‥』
アイトは自分の試合に負けた後、マリアたちと合流して男子の部の試合を見た。
(ユリア王女‥‥‥やっぱり勘付いてる)
ユリアだけは少し深みのある笑みを浮かべていて、アイトは少し気苦労が増えていた。
(やっぱり、あの王子は別格だな‥‥‥)
そして、男子の部で優勝したのはルーク。それは大会が始まる前から、誰もがそうだと思っていた。
そしてギルバート・カルスは10位だった。まだ1年生で10位に入った大剣使いの彼は、当然注目されていた。
「ーー!おい、ちょっと付き合え」
「え? 俺?」
放課後。
アイトは話しかけられていた。絶賛注目の的である、ギルバート・カルスに。
「そうだ。ついて来い」
「あ、ああ。わかった」
アイトは席から立ち上がって、先を歩くギルバートについて行く。
着いた先は、グロッサ王国の平原だった。
(あれは‥‥‥確か同じクラスの)
そこには、アイトと同じクラスである藍色髪の少女がいた。彼女は杖を持っている。
「クラリス、頼む」
「はいはい‥‥‥【ミラージュ・サークル】」
「!?」
アイトは身構えた。いきなり、女の子が魔法を発動したためだ。
「落ち着け。攻撃じゃない。ただの隠れ蓑だ」
「ちょっと!? 頼んでおいて何よその言い草!!」
アイトは2人のやりとりを聞きながら、周囲を確認する。どうやら3人の外側を‥‥‥透明な円形で覆っているようだった。
「これで外からオレたちのことは見えねぇ。さあ話してもらおうか。昨日の件を」
「昨日の件? 何だよそれ」
アイトは目を丸くして聞き返す。何を言われているか分からなかった。
そして、ギルバートが大声で捲し立てる。
「とぼけるな! オレの目は誤魔化せねぇ!!」
「‥‥‥何が?」
「お前、わざと剣を投げ捨てたじゃねぇか!!!」
◆◇◆◇
それは、昨日の試合で起きた‥‥‥一瞬の出来事。
(ーーー速い!!)
キィンッッ
金属の衝突音が響く。
アイトはギルバートの想像以上に速い動きに、つい身体が反応し咄嗟に大剣を捌いていた。
それも、ほとんど完璧に弾き飛ばした形で。ギルバートが、目を大きく見開きながら狼狽えている。
(やばい! 止めたことに気づかれる!!)
そこでアイトは捌いた自分の剣が、後ろに流れていることを活かすことにした。
「ーーー!」
剣が吹き飛ばされたように見えるよう、咄嗟に投げ捨てたのだった。
◆◇◆◇
(! まさか、気づかれていたとは)
アイトは決して表情には出さず、心の中で驚きを見せる。そして『意味が分からない』と言わんばかりに、肩を竦めながら口を開いた。
「‥‥‥何のことだ」
「安心しろ。別に誰かに話す気はねぇ。興味ないからな。オレは本気のお前と再戦したいだけだ」
「‥‥‥はあ?」
ギルバートの言葉に、アイトは思わず呆れながら声を返してしまう。
「もし誤魔化したまま再戦しないなら‥‥‥今回のことを、そうだな。ブラコンで有名なお前の姉に話してやる」
「!? お、おい。言っていい事と悪い事がーーー」
「ならオレと戦え」
(な、なんだこの戦闘狂。カイルや姉さんみたいな脳筋性格じゃないか)
もし昨日の件を姉に話されたら、アイトにとって地獄が待っているのは確実。それが王子であるルークにも伝われば、まさに平穏の終わり。
「‥‥‥わかった認めるよ。本気で戦えば良いんだな? そうしたら、誰にも言わないよな?
アイトは戦う事を選んだ。ギルバートの漢気を信じて、本気で戦うことを。
「ああ、二言は無え。クラリスも言わねえよ」
ギルバートが歯を見せて笑うと、後ろで控えていたクラリスと呼ばれる少女も頷く。
だが、アイトは必死の形相で念押しした。
「なぁ、特に姉さんには言わないだろうな!? 本当だろうな!?」
「だから言わねえっての。興味ねえし」
「本当に言わないだろうな!? 嘘だったら承知しないからな!!?」
「しつけえよッ!!?」
まるで罵り合いでもしているかのような、2人の大声がぶつかり合う。
「‥‥‥そんなに気にするなら、こいつに証人になってもらうさ。それでいいだろ、クラリス」
「そうね。別に構わないわよ。それで良いかしら、ええ〜っと‥‥‥あ、自己紹介しないと」
少女が少し落ち着かない様子で、手を動かしながら口を開く。
「あ、あ、あたしはクラリッサ・リーセル。よ、よろしく」
「あ、どうもアイト・ディスローグです。よろしくお願いします」
「あっ、う、うんっ‥‥‥よ、よろしく」
クラリッサが急に顔を真っ赤にして視線を逸らす。アイトは不思議そうに首を傾げている。
「何クラスメイトに人見知り発揮してんだ。ほんと直んねえよな、お前」
「っ!!」
ギルバートが答え合わせと言わんばかりに呟くと、クラリッサがキッと睨み付けていた。
「ほらよ、アイト。さっさと始めようぜ」
そんな事はいざ知らず、ギルバートが左手に持っていた物を、軽く投げる。
「‥‥‥準備がいいな」
アイトは飛んできた物を右手で掴む。それは、刃がない鉄製の剣だった。つまり、昨日の試合と同じ。
「昨日お前が使ってたものと同じ物だ。もちろんオレの大剣も同じ物」
ギルバートが右手の大剣を見せ付けると、アイトは剣を振りながら尋ねる。
「ルールは?」
「昨日と同じで構わねえ。それじゃあクラリス、合図してくれ」
簡潔な言葉と共に、両者が武器を構える。アイトは右手に剣を持ち、ギルバートが両手で大剣を掴んでいる。
「それじゃあーーー始め!!」
そして、クラリッサから開始の合図が宣言された。
「ウラァァァァァァ!!!」
昨日の試合と同じように、ギルバートが全力で突進する。まさに重戦士の特攻である。
(昨日俺が剣を投げ捨てた時の速度か。魔法じゃないけど【血液凝固】も反則だろうな)
アイトは淡々と剣を構えながら、迫り来るギルバートを待ち構えた。
キィィィンッ!!
昨日と同じく、金属音が鳴る。だが、昨日よりも音は大きい。
アイトは真っ向から大剣を弾いたため、より音が響いたのだ。
「やるじゃねえか! やっぱり手を抜いてたな!!」
「‥‥‥」
ギルバートが大剣の重量を物ともしない速さで、すかさず連撃を繰り出す。アイトは武器の重量では負けているため、攻撃を受け流していく。
「くっ、やっぱり重いな。脳筋かよ」
「褒め言葉だと受け取っておくぜ!」
「ああ、褒めてるよ」
その後もギルバートの攻撃をアイトが全て受け流す。その攻防がしばらく続いた。
やがて、審判をしているクラリッサな、冷や汗を流していた。
「ギルの攻撃を真っ向から受け流すなんて‥‥‥あの男子、いったい何者なの??」
彼女の口から、無意識に言葉が漏れる。予想外の試合展開に、驚きが隠せていない。
「はあっ、はあっ、はあっ。当たらねぇ!!」
「‥‥‥大剣の重量だ。それだけ振り回せば疲れてくるだろ」
ギルバートの息は肩が上下するほど乱れているが、アイトの息は全く乱れていない。まさに、
「でも、さすがに少し疲れてきた。終わりにしよう」
アイトは迫り来る大剣の縦振りを躱した直後、一歩踏み出してギルバートの襟元を掴む。
(大剣はリーチが長い分、これだけ接近されると大変だ。こんな風に掴まれたら大剣を振れない)
「ちっ!? ッラァァッッ!!!」
ギルバートが雄叫びを上げながら、咄嗟に頭突きを繰り出す。
(それに大剣だと軽い武器に比べて、体術を使う機会が極端に少ない。いや、使えないのかもな)
アイトは慣れた動きで右足を踏み込んで、彼の両足を難なく払う。
「グハッ!!」
足を刈られたギルバートが声を上げて地面に倒れた。
「‥‥‥」
アイトは倒れた彼の額に剣を向け、衝突する直前でぴたりと止めた。
「これで良いかな?」
そう呟いたアイトは、淡々とギルバートを見下ろしていた。
「はあっ、はあっ、はあっ‥‥‥ああ、完敗だ!!」
ギルバートが降参を宣言し、勝敗が決した。
アイトは剣を下ろして手を差し出し、ギルバートを立ち上がせる。
「お前超強えな! 見直したぜ!! 今までは女侍らせてる軟派なやつだと思ってたが、 今日で意見が変わった! やるじゃねえか!!」
「え? 俺、そんなふうに思われてたの‥‥‥?」
アイトは少しショックを受けた。自分がそんな評価をされていると流石に傷ついた。主に、姉のマリアが元凶であるが。
「いやオレの個人的な意見だ。そんなことより、なんで実力隠してるんだ?」
「えっと、それは‥‥‥」
アイトは思わず視線を逸らして小声で呟く。なんて答えればいいか分からない。
だが、ギルバートの話が続いていく。
「オレたちとお前が手を組めば、魔法に頼り切った優等生気取りのAクラスをぶっ倒せる!!」
「いやぶっ倒すって‥‥‥」
「1年の頂点に立って、天下取ってやろうぜ!!」
ギルバートが話も聞かずに突っ走っていく。アイトは苦笑いを浮かべながら首を振った。
「いや取らないよ。それに、こっちにも事情があるんだ。言わない約束だろ?」
「ちっ、もったいねぇ!」
ギルバートが悔しそうに言った後、気を取り直したように前を向く。
「じゃあ、オレと友達になってくれ! それなら良いだろ! お前、面白いからな!」
そして、右手を差し出しながら彼がそう言った。
「良いの!? ぜひこちらからお願いするよ!」
アイトからすれば、それは願ってもない提案だった。同じクラス内での初めての友人‥‥‥そんな甘美な響きに、アイトは笑顔で右手を差し出す。
「よっしゃ! これからよろしくなアイト!!」
「こちらこそよろしくギルバート!!」
そして、2人は熱い握手をする。その後、2人は‥‥‥なぜか肩を組み合っていた。
「「はっはっはっはっはっ〜!!!」」
「あんたたち、結束早すぎない‥‥‥? 男って本当バカよね‥‥‥」
そんなアイトたちを、クラリッサが呆れた様子で見つめる。
「あっ、わ、私も友達になってあげるから!」
「! ほんと!? ありがとうリーセルさん!」
「ふ、ふんっ!」
こうしてアイト・ディスローグは、同じクラス内の友人ができた。




