過大に評価する時なんてありません
勘違いが重なり合った末、アイトに部下が出来た。
それも、自分とは存在が違う勇者の末裔。平穏に過ごそうと考えていた、アイトに。
(と、とりあえずこれから考えよう‥‥‥なんとか穏便に事を納めるんだ)
アイトとエリスは、ディスローグ家に到着した。
時刻は間もなく、夜が明ける頃。もちろんアイトは仮面を外し、髪も元の黒髪に戻している。
「ここが俺の家だけど‥‥‥」
「アイト様が住んでる家‥‥‥普通ですね」
エリスが無自覚に、何か心に刺さりそうなことを呟く。
「あ、ああ普通の家だよ。両親が起きるまでに作戦を実行する。エリス、手伝ってくれ」
「は、はい!」
アイトは内緒でエリスを住まわせるために、1階の自分の部屋の真下、地下に新しく部屋を作ることを計画。
それは当然、魔法が無ければ短時間で終わるわけがない計画。
(家族に内緒で女の子を地下に住まわせるって‥‥‥字面ヤバくないか??)
エリスに教わった魔法のおかげで、1時間もかからず地下に部屋を作成成功。
またアイトの部屋の床に隠し扉を作り、階段を繋げることも成功。これでエリスも一緒に過ごすことが決まった。もちろん全てアイトの独断。
(親にバレないように注意してエリスの服や生活用品をどっかでこっそり買ってこよう‥‥‥ついでに食材も買ってくるか。宝石売れば、その資金も作れるし)
アイトは突然降ってきた問題を、なんとか一つずつ解決していく。血の涙を流しながら、宝石の一部を売り捌く事によって。
「『スプーリ』」
エリスが近くで過ごすようになってから、数日。
アイトは息をするように、寝ている両親と妹に睡眠魔法をかける。
「うん。今日もぐっすり寝ててくれ」
何度も習慣的に繰り返してきた今のアイトには、この行為に対する罪悪感なんてものは存在しない。
「ふぅ、これでもう大丈夫だよ」
アイトの声で、地下部屋からエリスがひょっこり出てくる。
「あの、なぜもう寝ている3人に更に睡眠魔法を?」
「それは夜に特訓する時、みんなが途中で起きてこないようにしてるんだよ。今では起床時間も調節できるから、寝坊することなく起きられると思う」
「す、すごい‥‥‥さすがアイト様です。これを6歳の時から続けてるなんて、すごい計画性‥‥‥頭脳まで完璧だなんて」
「俺に対して過大評価が過ぎない?」
「ご謙遜を。アイト様を過大に評価する時なんてありません。いつも完璧なんですから」
アイトは正直に発言してるが、エリスはそれを全く理解しない。勇者の魔眼で見てしまった彼の未来を、頑なに信じているためだ。
「そ、それじゃ特訓してくる。おやすみエリス」
「まっ、待ってください!」
「グェェッ!?」
アイトは襟元を掴まれて呻く。この時アイトは、勘違いに気づいて怒ってきたのかと本気で焦ったという。
「わ、悪かった!! 別に俺は君をーーー」
「なんで私を置いていくのですか?」
「‥‥‥へ? なぜって、言われても」
「特訓には私もお供します。いいえ、いっしょに特訓させてください!」
「特訓、したいの?」
「はい、アイト様に少しでも近づきたいんです」
ズイッとアイトの顔の前にエリスの顔が近づく。前のめりな彼女の気持ちに、アイトは断れなかった。
「わ、わかった。それじゃあついてきて」
「はい!」
こうしてエリスも夜に行う特訓に参加するようになった。今まで姉妹や家庭教師に対して手を抜いて行うことしかできなかった実戦形式。
「まずはランニングだ!」
「はい!」
それをある意味、自身の事情を知っているエリスと本気で出来るというのはありがたかった。
アイトは実戦を繰り返して、エリスについてわかったことがあった。
(この子、戦闘センスが高すぎる。成長速度が段違いだ。さすが勇者の末裔だ)
アイトは内心でベタ褒めし、彼女の眼を無意識に見つめていた。
「? アイト様?」
それはエリスが持つ『勇者の魔眼』。相手の本質や実力、動作の予知を可能にすると言われる聖者の力。
アイトの名前や髪の色が違うことに気付いたのも、この魔眼の力である。
(このままだと、すぐに俺よりも強くなりそう)
さすがに平穏主義のアイトでも、目の前で自分より強い者が現れる事に良い気分はしない。
(エリスには負けられない‥‥‥!!)
以上の理由で、アイトは更に自分を鍛えることに積極的になっていく。
(絶対、追いついてみせる‥‥‥!!)
そんな彼に追いついこうと、必死に努力を重ねるエリス。天才である彼女はいっさい驕らず、全く手抜きしない。
仲間でもあると同時に、2人は互いに競争相手としても意識していた。そうやって、瞬く間に半年が過ぎていく。
「アイト様って、王立学園に入学されるのですか?」
「うん、姉さんも既に学生だしね」
アイトの王立学園入学まで、残り1年半。
『天帝』誕生まで、残りーーー。




