俺が受け止める
秘密組織『エルジュ』の本拠地、転移場所からすぐ近くの大広場。
「あのレスタ様から話があるって‥‥‥」
「とにかく喜ばしいことよ! レスタ様が目の前に現れるんだから!!」
「あのエリス様を始めとする最高幹部を従える、序列第0位の絶対的な存在っ‥‥‥」
カンナたちの指示で本拠地集まっていた、全構成員が集まっていた。物理的な距離の問題で戻ってこれない者もいたが、それを除いても‥‥‥450人は下らない。
彼ら構成員の少し前に立つのは、カンナたち序列10位以内の最高幹部『黄昏』たち。今いるのはカンナ、アクア、ミア、リゼッタ、メリナの5人。
すると後ろに並んでいた構成員たちは、突然大歓声を上げる。
「レスタさまぁぁぁぁッ!!!!」
「目の前に、代表がいるっ!!!」
組織の代表‥‥‥『天帝』レスタが、姿を見せたからだ。大歓声を浴びながら、カンナたちの前で足を止める。
「レスタくん‥‥‥いや、代表。本拠地にいる構成員、全員が集まりました」
カンナが普段とは違い敬語で話しかけた。大人数がいる場所で、馴れ馴れしく話すことを避けているのだ。
「‥‥‥ああ」
魔石のペンダントを首に掛けていて、象徴ともいえる銀髪と仮面。アイトは‥‥‥『天帝』レスタとして皆の前に立っている。
これほどの大勢の前に立つのは、組織結成の挨拶以来。その時の光景が、脳裏によぎる。
「まずは突然の召集、本当に申し訳なかった。だがどうしても、君たちに力を貸してほしいことがある」
アイトは声を張って話し始める。すると構成員たちが意気揚々と話を聞く。今にも合いの手をしそうなほどだった。
「みんな知ってると思うが、グロッサ王国の王都ローデリアが魔物たちに占領された。ルーク王子を始めとする王国の主戦力が、学園行事の『同盟国交流戦』でアステス王国に向かっていたからだ」
アイトは簡潔に状況を説明する。構成員は、血眼になって耳を傾けている。
「俺は‥‥‥王都から敵を殲滅し、今までのようなグロッサ王国に戻って欲しい。だが当然、俺だけで犠牲無しに王都を解放するのは不可能だ。必ず、多くの死者が出てしまう」
会話の流れから、構成員は集められた理由を悟った。それは『魔物たちを掃討するため、力を貸してほしい』。皆は全力で代表の頼みに応えるつもりだった。
「その前に‥‥‥皆に伝えたいことがある。それはこの組織『エルジュ』が結成された経緯についてだ」
だが突然に話の展開が変わったことで、殆どの構成員が困惑する。それは彼らの前に立つカンナたち最高幹部‥‥‥『黄昏』も同様だった。
周囲が少しざわつき出す中、アイトは話し始める。
「まず俺は‥‥‥皆が思っているような存在じゃない。特別な才能や使命を持って生まれたわけじゃない。俺は普通の家庭で生まれ育った‥‥‥一般人だ」
突然の話に、多くの構成員が困惑の声を上げる。中には「はぁ!?」と声を荒げる者もいた。
するとアイトは、右手に10個の属性魔力を融合させた黒魔力を作り出す。
「この魔力もそうだ。俺はただ幼少期に生活を楽しくしたい一心で魔力を必死に練り続けた結果‥‥‥魔力制御が付いただけ。おそらく昔から俺と同じ事をしていれば‥‥‥たぶん誰でもできるようになる」
アイトの自白の連続に、構成員たちの不満が徐々に募っていく。
自分たちの代表が、特別じゃない‥‥‥それは『天帝』レスタの神格的な威厳が、音を立てて崩壊していくには十分過ぎた。
「でも、それが俺の力なんだ。特別じゃなくても、俺の力の大部分を占めている」
最初は好奇心だった。ただ地道に、小さなことを繰り返した。別に強さを求めていなかったから、苦しいという自分自身の壁にぶち当たらなかった。
元から特別ではなく、誰もやらない事をやり続けたから‥‥‥特別に見える力を身につけた。それが、主人公の原点だった。
「そんな俺がこうして代表になったのは‥‥‥主にエリスが要因だ。俺の力を見て何かを成す器だと勘違いし、仕えるといってきたのが始まりだ」
アイトは詳しく話をしていくうちに、当時の思い出が蘇っていく。偶然エリスを助け、彼女が勇者の末裔だったことに驚いた事。
当然、構成員たちのざわめきは大きくなっていく。
「それから偶然‥‥‥暗殺組織『ルーンアサイド』と衝突することになり、俺がラルドを死に物狂いで倒したこと。エリスとラルドが、新組織立ち上げのために俺の知らない間で動いていたこと」
その言葉を聞いた教官のラルドは、思わず眉を下げて思いを馳せていた。
「レスタ殿に野心が無かったのは、そういうことだったのか‥‥‥これは儂とエリスの、重大な過失‥‥‥」
勘違いとは知らず、自分が見込んだ少年に代表という立場を背負わせてしまった事を後悔している。
「カンナやミアのような困ってた人を放っておけずに助け、保護してもらうために『ルーンアサイド』の拠点へ預けてしまった事。新組織立ち上げを知らなかったから、無関係のカンナたちを巻き込んでしまった事」
アイトは隠さず、過去にあった歪みを話す。まるで、その歪みを少しずつ修正していくかのように。
「レスタくん‥‥‥そんな自分を責めないでよっ‥‥‥」
「っ‥‥‥おにいちゃんは何も悪くないッ!!」
カンナとミアが必死に訴えかけるが、アイトは静かに首を横に振ってから話を続ける。
「それで暗殺組織ルーンアサイドから‥‥‥今の組織『エルジュ』となって、俺が代表になってしまったんだ。俺は、本当の事を言えなかった‥‥‥怖かったからだ」
アイトは当時を思い出して、その時の気持ちを今代弁する。
「でも、犯罪組織『地獄行』を滅ぼしたいのは本当だ‥‥‥自分が平穏に日々を過ごしたいために。だから、代表という立場を利用した」
もはや『天帝』レスタの威厳は、どこにもなかった。話を聞いている構成員たちの中には怒りを露わにする者もいる。
「これが皆に話したかった全て‥‥‥俺の罪だ。こんな事になったのは、全て俺のせいだ」
アイトは、一切言い訳をしなかった。
「新組織立ち上げの時、エリスやラルドと意思共有を怠った俺のせいだ。代表挨拶の時に、本当の事を言えなかった俺のせいだ。代表としてエリスたちと何かするのが楽しかったと感じ、現状に甘んじた俺のせいだ」
これまでの全ての過ちは、自分にあると皆の前で言い切る。
「俺は弱い。到底、皆の前に立つ器じゃない。偽りから始まった『天帝』レスタという存在だったけど、全てが嘘じゃない。楽しかった事も本当だ」
アイトは寂しく笑う。当然、仮面で目元は見えていないが、カンナたちには微笑んでいるように見えた。
「本当の俺を知って、もう指示を聞けない者も当然いるだろう。それなら無視してくれて構わない。無理強いはしたくない」
アイトは、両手の拳を強く握りしめて前を向く。
「偽りの仮面を被った俺の指示で、命を賭けさせるような事をさせたくなかったんだ」
「ーーー何を今さらッ!!!!」
誰かが投げた魔結晶が、アイトの頭に直撃する。その衝撃で少しよろめき、目元の仮面が外れて床に落ちる。
「だから本当の俺自身で、皆に頼む‥‥‥王都を魔王軍から救うために力を貸して欲しい」
そしてアイトは‥‥‥素顔を曝け出した状態で深々と頭を下げた。
「っ、おい本当に普通の少年だぞっ‥‥‥」
「何か高尚な傷があるから顔を隠してると思ってたのにっ」
「俺は火傷でもしてたのかと思ってた!」
「うそっ、画面で隠す必要ないくらいカッコいいじゃんっ‥‥‥」
構成員たちの反応は各々で違う。だが大勢が反抗的な目付きをしていたのは確かだった。
「‥‥‥そうだよな。長い説明と言葉だけじゃ、納得いかないよな」
暴動が起きかねない中、アイトは自分から爆薬を投下する。
「不満や怒りがあるなら、かかってこい。その全てを‥‥‥俺が受け止める」
そう宣言したアイトが頭を上げた瞬間ーーー精鋭揃いの構成員たちが、一斉に襲いかかる。
「待っておにいちゃん!!! ミアが歯向かう奴ら全員ーーー」
「待つんだミア!!」
すかさず助けに入ろうとするミアの肩を、背後に立っていたメリナが掴む。
「はぁ!? なんで助けにいこうとしないの!?」
「‥‥‥これは代表の覚悟なんだ。全てを1人で受け止めると言い切った彼に、ミアは泥を塗るつもり?」
「っ‥‥‥」
ミアは歯を食いしばり、これから起こる光景から目を逸らしそうになる。
「これが、レスタくんなんだよ‥‥‥みんなを騙し続けて指示を出せばよかったのに、それをしなかった」
カンナは少し顔を下げて他の『黄昏』たちに声を掛ける。
「レスタくんの気持ちを尊重するのも‥‥‥私たちの役目だと思う」
カンナの言葉に、動こうとしていたミアたちの足は完全に止まった。
「だって、この組織の代表は‥‥‥レスタくんなんだから」
そして焦る気持ちを抑えながら、アイトの勇姿を見届けるのだった。
「‥‥‥来い!!」
アイトVSエルジュの構成員、勃発。




