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【40万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
終章 王都奪還

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鏡越しの記憶

 システィア・ソードディアスが姿を現す。


「システィアっ!? なんであんたがここにっ!?」


「‥‥‥そうか。覚悟を決めて飛び出してきたわけか」


 それに驚くマリアが大声を出すのに対し、喉を押さえたルークは微笑む。


「ーーーお前に会いに来たの。話、聞いてくれないかしら」


 そしてシスティアは2人を無視し、今も黙り込む黒髪青年ジャックの左腕を力強く掴み続ける。いつもの強気な態度で、一歩も引かずに。


「なんだお前? 今日はよく銀髪っ子に呼び止められるな」


 ジャックは心底めんどくさそうに呟き、彼女の顔を見つめる。すると、少し気になった様子で目を凝らしていた。


「‥‥‥ん? お前‥‥‥どこかで見た気が」


「それはたぶん、私の姉だと思う。吸血鬼騒動の時に会ったんじゃないかしら?」


 システィアがすかさず詳細を話しかけると、ジャックは納得しながら手を叩いた。


「あ〜! あの長い銀髪が綺麗なヤバい女! その妹‥‥‥だから見覚えがあるわけか」


「姉貴はヤバい女だけど、改めて言われると少し心外だわ」


 システィアは少し不機嫌そうに呟くと、彼を掴んでいた手を離す。


「私の名前はシスティア・ソードディアス。グロッサ王立学園の1年よ」


「ソードディアスって、あの帝国の名家? なのにこの国の学生? よく分からんなぁ。ま、別にどうでもいいけど」


 ジャックは目を丸くして笑った後、少しだけ好意的に話しかけていた。


「んで、俺に何か用か? お前銀髪だし、話くらいなら聞いてやる」


 だが、頼みを引き受けるつもりはない。ジャックはそんな意味合いが籠もった言葉を送る。何も言われても、軽く突っぱねよう‥‥‥そう考えていた。



  「‥‥‥イーサンという名に心当たりはある?」



 それは一見、何を言っているか分からない発言。実際、ルークとマリアは意味が分からず困惑する。


           「っ!!」


 だがジャックは本気でシスティアの胸ぐらを掴み掛かっていた。


「なんで、お前がその名前を知ってる。なんで知ってるんだ‥‥‥答えろッ!!」


 飄々としていた彼が、初めて大声を出して冷静さを欠いていた。それを目の当たりにしたマリア、そしてルークさえも困惑したまま様子を伺っている。


「‥‥‥イーサン・ソードディアス。私の父親よ」


 システィアはどこか嬉しそうに微笑みながら言葉を返す。


「ーーーは??」


 ジャックは今までにないほど狼狽していた。まるで頭を木槌で殴られたように、よろめきながら数歩後ろへ引き下がる。


「そしてお前の父親も‥‥‥イーサンでしょ? やっぱり、お母さまの言った通りだった‥‥‥」


 システィアは感慨深そうに息を吐くと、動揺を隠せないジャックに言い告げた。


「あなたは‥‥‥私たちの腹違いの兄よ」


 ◆◇◆◇


 時は遡り、吸血鬼騒動が落ち着いた直後。

 王都の西地区の住宅街にある、ソードディアス家。


「お母さまが欲しかった魔導具、ちゃんと手に入れてきた」


 スカーレットは飄々と机に小さな鏡を置き、母親のセレーナに見せつける。セレーナは深呼吸して鏡を触る。


「これが『鏡越しの記憶(ミラー・メモリー)』‥‥‥ありがとうスカーレット。この頑張りに免じて、あなたがついた嘘は許してあげるわ」


「ーーーえ?」


「アイトくんと交際してるっていう見え透いた嘘。私が気付かないとでも思ったの?」


 セレーナが飄々と言ってみせたことで、スカーレットは面食らっていた。


「自分勝手な嘘で騙した罰ね」


「そ、そうなの!? アイトさんが兄さんになってくれると思ってたのに!」


 それを隣で見ていた妹のシスティアが意地悪く笑い、弟のカレンが声を出して驚く。


「そんなことは置いといて‥‥‥これで、()()()()顔を見れるわ」


 セレーナはどこか落ち着かない様子で息を吐くと、鏡に魔力を込めて両目を閉じる。


「‥‥‥お母さま、ちょっと待った」


「えっ。何するの、もうっ」


 だがそれをスカーレットが鏡を奪い取って阻止し、両目を閉じて魔力を込める。


「お母さまに‥‥‥1つ聞きたいことがある」


 そして自分自身の記憶を鏡に映し出した光景を、セレーナへと見せ付けた。


「!! こ、これはっ」


「お母さまが探してるのは、もしかしてこの男か?」


 鏡に映っているのは、柔らかい黒髪でキザな青年。年齢は20半ばで、左手には痛々しいほどの包帯が巻かれている。


「ーーーこの人を見かけたのっ!? どこで!? 話しなさいスカーレットっ!!」


 質問に答えるより早く‥‥‥セレーナは勢いよくスカーレットの肩を掴み、何度も上下に振った。


「こっ、交易都市で見かけたんだよっ。あの雰囲気だと暫く滞在してるようだったっ」


 スカーレットは観念した様子で早口で話す。やがてセレーナは彼女から手を離し、鏡に映る男を見つめる。


「ああっ、やっぱり‥‥‥生きてたのねっ」


 そして涙を流すセレーナ。そんな彼女にシスティアは恐る恐る話しかける。


「ね、ねえお母さま。この男なら私も交易都市で見たわ。確かにイケてると思ったし、心なしか誰かに似て、る‥‥‥」


 システィアはふと1箇所に視線を向けた。視界に入っていたものに、吸い寄せられたから。


「えっ、な、なに‥‥‥?」


 それは気の強い姉に見つめられて、おどおどしている弟のカレン。背は小さめの、柔らかい雰囲気の黒髪少年。

 システィアは無意識に、鏡に映る男とカレンが似ていると感じた。


「カレンにも似てるが、私が感じたのは違う気が‥‥‥」


 また姉スカーレットの目も、一直線にカレンへと向いている。だがシスティアとは異なり、別の違和感を感じている。


「‥‥‥本当、あの人にそっくり」


 そしてセレーナは、懐かしむように目を細めて涙を流した。状況が分かっていないシスティアたちに対して、遂に説明を始める。


「この人は、私が愛した夫であなたたちの父親‥‥‥イーサンが残した忘れ形見よ」


「えっ‥‥‥」


「お父、さんの?」


 彼女の発言は、システィアとカレンに凄まじい衝撃を与えるには十分だった。


「‥‥‥そうか。どこかで見た気がすると思ったら‥‥‥幼い頃に見た親父の顔、か」


 ただ長女のスカーレットは、どこか腑に落ちた様子で母のセレーナの肩に手を添える。


「ええ‥‥‥あなたたちには、兄がいるの」


 セレーナの発言は、子どもたちに静寂をもたらした。


 ◆◇◆◇


「俺が、お前らの兄だと‥‥‥? あのクソ野郎の血が、俺の他にも‥‥‥嘘だ」


 ジャックはこれ以上ないほど目を見開き、息を荒くして動揺する。


「お母さまに詳しく聞いた‥‥‥父のこと。それと、あなたのこと」


「っ、話せ!!」


 ジャックが声を荒げて続きを促すと、システィアは話し始める。


「イーサンは特異体質を持っていたから、忌み子として嫌われていた。愛情を知らずに育った彼は、やがて似た境遇の女性と一緒になった」


「‥‥‥それが、俺の母親か」


 その問いかけにシスティアは頷くと、話を続ける。


「でも、その女性は盗賊に襲われて、幼いあなたも身売りされた。それもイーサンがいない時に」


「‥‥‥ああ。目の前で殺されたのは、母が周囲に疎まれてたからか」


「‥‥‥彼女も、イーサンのように特異体質だったんでしょ?」


「そんなの知らねえよ。だが悪いのはあの男だ。あいつはいつも家を空けてて、病がちの母を放りっぱなしだったからな」


「違うわっ。それはーーー」


「いいから続きを話してくれ。もう話さないなら、俺は行く」


 淡々と呟くジャックに促され、システィアは納得していなかったが話を再開する。


「家族を失ったイーサンは自暴自棄になった。そんな時に私たちの母‥‥‥セレーナ・ソードディアスに会ったそうよ」


「‥‥‥」


 ジャックは何も言わずに黙り込む。システィアは一呼吸置いて口を開く。


「お母さまの一目惚れだったらしいわ。やがてイーサンも言い寄ってくるお母さまの愛を受け入れて‥‥‥私たち3人が生まれた」


「‥‥‥そうか。それであの野郎は、お前らと一緒に暮らしてるのか?」


「‥‥‥1番下のカレンが生まれた直後、いなくなった。その理由を、お母さまはどうしても話してくれなかった。今どこにいるかも‥‥‥教えてくれない」


 システィアが僅かに顔を下げて足元を見る。その素振りから、知っていることは全て話したようだった。


「なるほどな。つまりあの男は俺の母を見捨てて、別の女と仲良くやってたってことだろ。あげくお前たちも捨てて、どこかに飛んでいったわけだ」


 そして話を聞き終えたジャックは、自虐気味に笑って呟く。


「ーーーふざけんなッ!!!」


 するとシスティアは、勢いよく彼の両肩を掴んだ。何度も揺さぶり、必死に訴えかける。


「私は父親の記憶なんてほとんど無いし、クソか聖人かなんて心底どうでもいい!! でもねっ‥‥‥お前には私の他にも妹と弟がいるのよ!?」


「っ‥‥‥」


「お母さまなんて4年前の大災害の直後‥‥‥王都ローデリアでお前を見かけた時から、今までずっと探してたそうよ!?」


「は‥‥‥?」


「お母さまから見れば、前妻の子で血は繋がってないお前を!! この前全て話してくれた時、お母さまは『会って話したい』ってずっと泣いてたわ!!」


「‥‥‥んだよ、それ」


 システィアの言葉は、ジャックの動揺を誘うには充分すぎた。下を向いて唇を噛んでいるのは、彼の心が激しく揺さぶられてる証拠だった。


「姉貴やカレン、お母さまは今も包囲された王都で助けを待ってる‥‥‥以前にも会った姉貴や、まだ顔も知らない弟にっ‥‥‥会いたくないの!?」


 システィアは必死に肩を揺らして、ジャックの胸に頭を押し付ける。


「家族を助けてよ‥‥‥兄貴っ」


 それはシスティアの方から無意識に飛び出した、彼女の本心だった。先の見えない不安の中、兄という存在が心強かった。


「‥‥‥今さら、俺に家族なんて」


 ジャックは戸惑いを隠さずに呟く。視線を逸らし、どこか怯えているようだった。


「ーーー本当に驚きました。謎の多いあなたに、まさかよく知っている後輩と血縁があるなんて」


 すると彼の背後で、ルークが立ち上がって口元を拭う。


「‥‥‥お前が、こんな手を用意したのか」


 ジャックが突拍子も無いことを言って責めようとする。気持ちの整理がついておらず、ただの八つ当たりなのは誰の目にも明らかだった。


「まさか。そもそも彼女は僕と同じ、学園の交流戦として隣のアステス王国に滞在してました。身の安全を考慮して、大人げなく忠告もしました」


「‥‥‥ルーク先輩の言う通り、あの言い分は腹が立ったわ。だからここにいるのは、完全に私の独断。むしろルーク先輩とマリア先輩がいたことに驚いてる」


 素直に肯定したシスティアは、口をへの字に曲げて目を細める。


「ていうか、なんでこんな所にいるの? 意味分かんないんだけど」


「それはこっちの台詞よ!! まさかアイトたちも離れてるんじゃないでしょうね!?」


「どうかしらね〜。頭の良いマリア先輩なら分かるんじゃないの?」


「このっ、スカーレットに似て腹立つわねっ‥‥‥!!」


 2人が言い合いを始める中、ジャックは渋々納得する。本当に渋々といった感じで息を吐きながら。


「それともう1つ。彼女の姉であるスカーレットも、グロッサ王立学園の学生です」


「‥‥‥知ってるよ。前にここで会った時に本人が学生だって言ってた。お前が媚びても何も変わんねえよ」


 ジャックは呆れた様子で一蹴した。心の底からルークとは話したくもないと言わんばかりに。


「じゃあ、これは知ってますか? 彼女はスカーレットと同学年。しかも親友といえる間柄です」


「ルーク先輩っ!? 何を言ってるんですか!!」


 するとルークは無責任にも、会話の主導権をマリアに託す。すがすがしいほどの笑顔で。


「うっ、わ、わかりましたよ‥‥‥」


 当然マリアは恨めしげに驚きながらも、渋々と息を吐いて口を開く。


「‥‥‥スカーレットとは1年の頃からの腐れ縁で、自己中で強気な態度には本当に腹が立ちます。あいつは本当に強くて、私は絶対に負けたくなかったから張り合うようになってました」


「‥‥‥」


「3年から違うクラスになったけど、交流は全然減らなかった。正直、あいつがこのままいなくなると寂しい‥‥‥あんな奴、他にいないので」


 そして心底言いたくなさそうに呟くが、マリアの両手は強く震えていた。


「それにあの戦闘狂は‥‥‥おそらく魔物相手に嬉々として立ち向かってるはずです。この都市で起きた吸血鬼騒動で負傷したらしい右腕が、まだ完治していないのに」


「‥‥‥姉貴なら、あり得る。というか絶対そう。カレンやお母さまがどれだけ心配してるか分かってないのよ」


 彼女の言葉に、思わず賛同したシスティアが声を漏らす。表情は曇り、本当に心配しているのが分かる。


「銀髪の子が好きなんですよね‥‥‥? でしたら目の前にいる、この子を気にかけてあげてください」


 そこでマリアは少し意地悪な言い回しをして、システィアの肩を優しく叩く。後は託したと言わんばかりに。


「だから‥‥‥お願い。私たちの家族を‥‥‥助けて」


 そしてシスティアは、自然と涙を溢れさせて頭を下げた。普段の強気な彼女は見る影も無く、不安と恐怖が拭えきれない弱々しい姿。


「‥‥‥‥‥‥ったく、ずるいな。初対面で妹とか言って、勝手に兄貴呼びしやがって。そもそも話だけじゃ、何の根拠も無えし」


 ジャックは静かに息を吐いて、頭を掻く。頭を下げ続けるシスティアに近づき、ゆっくりと見下ろす。


「‥‥‥でも、その与太話に乗っかってやってもいい」


 そして‥‥‥システィアの頭を撫で、初めて穏やかな表情を見せた。


「お前の家族に会って、話を聞いてみたくなった。だから今死なれたら、困る」


 その言葉の意味を、その場にいた全員が理解した。


「っ‥‥‥!! ありがとうっ、兄貴っ‥‥‥!!!」


 顔を上げたシスティアの涙腺が崩壊し、ジャックに勢いよく抱き着く。アステス王国から今まで、ずっと隠してきた不安が、少しだけ解消される。

 目の前には、兄がいる。その事実が、システィアの心に大きな安心感を与えている。


「ーーーそれに、どこぞのクソ王子と違って超絶可愛いしな。一目見た時から最高って思ったし、しかも銀髪。俺にも遂に運が回ってきたか」


 するとジャックは目を細めて嫌味全開で呟いた。クソ王子ことルークが穏やかに微笑んで歩み寄る。


「僕も銀髪にすればよかったですか?」


「ぶっ殺すぞッ!!!」


 ジャックの暴言を華麗に無視したルークは、右手を差し出す。


「僕やグロッサ王国のためじゃなくて構いません。どうか守りたい存在のために、力を貸してください」


「勘違いすんな。別に力は貸さねえ。お前らはこいつの家族を助けるための、ただの囮だ。少しでも魔物の標的をずらすための格好の囮」


 ルークが差し出した手を、ジャックは当然のように無視。完全に敵対しているような言葉をぶつける。


(本当に口が悪い‥‥‥さすがスカーレットやシスティアのお兄さんだわ)


 その一部始終を、マリアは心底呆れた様子で眺めていた。そしてルークは表情を崩さずに右手を下ろす。


「それで構いません。一緒に来てくれるなら」


「その顔やめろ。あ、これは大きな貸しだからな? 騒動が収まったら、ちゃんと利子付きで返せ」


「力を貸してくれないのに、なかなかの暴論ですね」


「口答えすんな。お前と一緒にいるだけで寿命が縮む」


 もはや2人は犬猿の仲。システィアに抱き付かれているジャックが、真っ向からルークと対立するという謎の状況。


(実力は申し分ないけど‥‥‥ちゃんと協力くれるのかしら‥‥‥)


 マリアは遠い目をして、少しだけ好転した今の状況にどこか息を撫で下ろす。


「本当にありがとうっ‥‥‥兄貴っ」


「‥‥‥一応その呼び方はやめてくれ」


「いやっ」


 銀髪少女システィアに抱き付かれ、ジャックは面倒くさそうに息を吐くのだった。

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