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【40万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
終章 王都奪還

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百戦錬磨の猛者

 とある蒸気機関車内。


「ルーク王子が‥‥‥?」


 アイトは小声で呟いた。到底信じられないと言わんばかりに息を呑む。


「本当に‥‥‥ルーク王子がそこにいるのか」


 アイトは驚きのあまり立ち上がり、別号室へ歩き始めながら再度問いかけた。


『はい、間違いないです。最低限の変装はしてましたが、記事でさんざん見た整いすぎている顔立ち、何よりあの瞳‥‥‥見間違えとは思えません』


「‥‥‥聖騎士の魔眼か」


 連絡相手のニーナがはっきりと答えたことで、アイトは確信を得る。聖騎士の聖痕が刻まれた両眼を、ニーナが見逃すはずがないと。


『それともう1人、ルーク王子と同行していた女性がいました。かなり大人びて綺麗でしたが、おそらくマリア・ディスローグかと。ルーク王子同様、髪色は異なっていましたが』


「‥‥‥銀色だっただろ」


 アイトは確認するように声を出しながら新たな座席に腰を下ろす。マリアが先にアステス王国から出発する際、本人に聞かされていたからだ。

 それを知らないニーナが『さすがですね』と呟き、話を続ける。


『ルーク王子は今回の騒動における最重要人物ですよね‥‥‥一応見張らせてますが、どうしますか?』


 ニーナが事細かに問いかける。アイトのことを完全に信頼しているからこそ、言われた通りに動きたいという口ぶりだった。


「‥‥‥ニーナ。頼みがある」


 そしてアイトは両目を閉じ、少し間を置いた後に続きを話し出す。


『ーーー分かりました。必ず成功させます』


 その内容を聞いたニーナは、快く頼みを引き受けたのだった。


 ◆◇◆◇


 交易都市ベルシュテット、南地区の路地裏。


「ったく、あんなにしつこいと店にも迷惑だろうが。ほんと我儘わがままなクソガキだな」


 ルーク・グロッサとマリア・ディスローグは、壁にもたれながら話す黒髪青年と対峙する。


「それになんだその髪は? まさか俺のマネして変えたんじゃないだろうな」


「ただの変装ですよ」


 そう言ったルークが魔結晶を懐に入れると、真っ黒だった髪が瞬く間に変化していく。色が抜け、眩いばかりの金髪に。


「ほんとだ。もう視界にも入れたくないお前に戻ったな」


「ルーク先輩‥‥‥この口の悪い人は誰なんですか」


 マリアが少し訝しげに睨みつけながら、魔結晶を胸ポケットに入れる。銀髪から地毛の黒髪に戻ったことで、青年は感心した様子で口を開いた。


「おー綺麗だねぇ。まあ俺は銀髪派だけど」


「なんなんですかさっきから!? 王子であるルーク先輩に失礼なことばかりーーー!!」


 マリアが声を荒げて近づこうとするが、隣のルークが腕を伸ばして止める。


「彼の名前はジャック。年齢はたぶん25歳。 4年前まで、グロッサ王国軍に所属していたんだ」


「え‥‥‥軍人って事ですか?」


 マリアが眉を下げて言葉を返すと、ルークは頷く。


「それもただの軍人じゃない。グロッサ王国軍の精鋭部隊『ルーライト』の‥‥‥()()()()さ」


 ルークは淡々と、事実を簡潔に話す。グロッサ王国の()()()()を、軽々と。


「もっ、元副隊長っ!!? それってまさかっ‥‥‥あの『白面』と呼ばれた伝説の!?」


 マリアは無意識に後退していた。その驚きは、まるで雷が落ちたかのような衝撃。


「知らねえってことは、お前は4年以内の新参らしいな」


 黒髪青年ことジャックは、眉を顰めて息を吐く。


「そもそも顔バレしたくないから白い仮面付けただけなのにな。何が『白面』だよ厨二くせぇ」


 グロッサ王国の精鋭部隊『ルーライト』。王国が誇る精鋭で構成される最強と名高い部隊。その元副隊長という肩書きは、まさに百戦錬磨の証。


「てか、なんで俺がここにいた事を知ってる。今の俺を見て気付く奴なんて中々いないだろ」


 ジャックは訝しげに目を細めて呆れる。めんどくさいという感情を少しも隠さない。


「吸血鬼騒動の時、()()に会ったでしょ?」


 ルークは素直に質問に応えた。少しばかりの遠回りをしながら。


「あ? さっさと誰か言え」


「シャルロット・リーゼロッテ。『使徒』と呼ばれる伝説の魔法使いですよ」


「ああ、あの金髪ねーちゃんか。けっ、余計な事しやがって」


 その発言を聞いたマリアが絶句する。「なんて呼び方を‥‥‥」と声に漏らしていた。


「おい、それじゃあ答えになってないだろ。あの女とお前がどうして繋がってる」


 ジャックはますます訝しげに目を細めていた。やたら情報を小出しにされて苛ついている。


「彼女はあなたを探していた。彼女の旧友であり『ルーライト』総隊長であるアリスティア・ルーライト‥‥‥その右腕を務めた『白面』をね」


 現在はルークが『ルーライト』隊長を務めているが、4年前は違った。


「アリスティア・ルーライトの話を聞きたくて、彼女はあなたを探していたんです」


「つまりお前は俺の情報を売ったわけだな。ほんと癪に障る奴だ」


「あなたの事はシャルロットさんだけでなく、僕も探していましたから。見つけたら教えてもらう条件で話しました」


「はいはいよかったな。伝説の魔法使いを利用して俺を見つけられてよ」


 ジャックは手を振ってため息を吐くと、話を聞いていたマリアが口を開く。


「あ、あのっ! 4年前の『ルーライト』って、どんな感じだったんですか‥‥‥?」


 それは詳しく知らない、精鋭部隊の過去。当然、ジャックは呆れた様子で口を曲げる。


「あ? なんでそんなこと話さないとーーー」


「わ、私! 伝説の『白面』に興味があって‥‥‥それに隊員として、部隊の歴史は知っておきたいんです!」


 マリアが必死に力説したのが、功を奏したのか。


「ったく、そんなことも教えてねえのか王子様よ」


 ジャックは頭を掻いて小言を呟きながらも、話し始めた。


「俺の他にも大層な実力者ばかり。気難しい奴も多かった。でも全員が総隊長様に惚れてた。男女問わずな」


 総隊長、アリスティア・ルーライト。彼女の存在はまさに全てを超越していた。


「そ、それほどなんですか‥‥‥?」


「あの若さで魔王を倒した人だぞ? まさに最強‥‥‥みんながあの人に好かれたくて必死だった。ーーーそこにいる王子様もな」


「えっ‥‥‥!?」


 マリアの視線は今、隣の彼に向いている。いつもの飄々とした姿ではなく、少し唇を噛むルーク・グロッサを。


「こいつは大層な魔眼を持ってたからな。それを見込まれて入学早々『ルーライト』に仮入隊し、俺たちにボコられて現実を知った。あ、ジルとエルリカは新参だったから苦戦してたな」


「え、あのジル副隊長とエルリカさんですか!?」


 マリアは思わず声を弾ませる。ジル・ノーラスとエルリカ・アルリフォン。頼りになる2人の先輩が話題に上がったから。


「ん? ジルの野郎、俺の後を継いだのか? それにエルリカは今も隊員か。どうやら相当人手不足らしいな。まあハユンもシズカも死んだから仕方ねえか」


「えっ‥‥‥」


 すぐにマリアの悲痛な声が響くが、ジャックは気にせず話を続ける。


「それで4年前の()()()、総隊長はいなくなった。その後に俺も抜けた。そして今の『ルーライト』ができたんだろ?」


 以前は『久遠』アリスティア・ルーライトが精鋭を束ねた、文句無しの最強部隊だったのだ。そう、以前は。


「俺がどれだけ呆れてるか分かるか? 隊長さんよ」


 言い終えたジャックの冷たい視線は、今の隊長ルークへと向けられていた。


「‥‥‥ここまで言う資格が、あなたにはある。あなたは元副隊長‥‥‥文字通り、アリスティアさんの右腕だった」


 ルークが自分にも言い聞かせるように説明する。一瞬でも、忘れたことはないと再確認するように。


「あの『久遠』と呼ばれた最強の、右腕っ‥‥‥!」


 マリアは思わず生唾を飲んでいた。そしてルークがわざわざ足を運んだ意味を理解した。


「確かにそうだったよ。あの時は最高だったなぁ‥‥‥俺の人生の最高潮だった」


 世界でも5本の指に入るといっても過言ではない、この男に手を借りたい。


「でも別に、今はそんなのどうでもいい」


「どうでも、いい‥‥‥?」


 だが、決して一筋縄ではいかない事は彼の言動から既に痛感している。


「ああ。それよりも‥‥‥お前がこれ以上、()()()の名前を口に出すな」


 目を細めたジャックが、周囲に凄まじい風圧を発生させる。それは、彼が体内の魔力を練った時の副反応。いわば自分の魔力を起き上がらせただけ。


「な、なんて魔力の密度なのっ‥‥‥これが元副隊長っ」


 だが初対面のマリアは、顔を青ざめて全身を震え上がらせるほどの恐怖を感じ取った。彼の濃密な魔力が顔を見せただけで、格が違うと本能で分からされてしまったのだ。


「お前のせいであの人はいなくなった。まさか忘れてないよな?」


「えっ‥‥‥」


 さらに、マリアは言葉でも絶句してしまう。そんな彼女を置いていくかのように、ルークとジャックの対立は深まっていく。


「何が『ルーライト』の隊長だ? 何が現王国最強だ?? 笑わせんな。俺がいる限り、一生ありえないだろ」


「っ」


 そして、まだ衝撃は終わっていなかった。マリアは遂に足が竦み、尻餅を付いてしまう。ジャックの言いぶりで、別格の強さであることを理解してしまったのだ。


「‥‥‥4年前と、僕が何も変わってないとでも?」


 ルークは顔色一つ変えずに言い返す。それは痩せ我慢か、冷静な態度か。だが対峙するジャックが、嘲笑うかのように口角を上げる。


「変わってねえよ。お前は自分が暮らす場所すら守れない、駄々を捏ねて融通が効かないクソガキだ」


「っ、ルーク先輩の気持ちも知らないでッ!!」


 マリアは歯を食いしばり、力の差をわかっていながらも2人の間に割り込もうとする。


「知らねえよ。そんなのどうでもいいんだよ。ただ俺は、これまでの恥も外聞も捨てて助力を乞うてきた‥‥‥そこの世間知らずな王子様が許せないだけだ」


 そう言って目を細めたジャックが壁から背中を離すと、ゆっくりと歩き出す。


「帰れ。二度とその面見せんな」


 そしてルークとすれ違いざまにそう言い捨てると、彼は我関せずと歩き去ろうとする。


「僕は、王国を救うために行動しているんです」


 ルークが振り返り、ジャックの背中へと訴える。


「あなたが協力してくれたら、これほど心強いことはありません。僕は王都奪還のため、自分に出来ることを全うするだけです」


 ルークが真剣な表情で話した瞬間ーーー彼の額から血が零れた。


「ッ‥‥‥」


「ルーク先輩ッ!!」


 瞬時に距離を詰めて胸ぐらを掴み掛かったジャックが、勢いよく頭突きをかましたからだ。マリアの悲鳴に似た叫びが、狭い路地裏に響く。


「自分にできる事を全うする? お前が俺を説得できると思ってんのか?? お前の言葉は何も響いてこないけどな」


 ジャックが首を絞めかねない勢いで右手に力を入れ、ルークの胸ぐらを掴み上げる。


「背もあんまり伸びてねえな。そもそもお前の才能は血筋だけ。お前と同じ境遇なら、そう難しくない」


 ルークも背が高い方だが、ジャックに至っては190近くある。その身長差により、胸ぐらを掴まれているルークの踵が浮く。


「お前が今死んだら、王都を占拠した奴らの仕業に出来るよなぁ? だったら俺にとって好都合だわ」


「ッ〜〜〜あんたねぇッ!! 元副隊長として恥ずかしくないの!?」


 痺れを切らしたマリアが果敢に、ジャックの右腕を両手で掴む。だが、彼の右腕はびくともしない。


「気の強い女は好みだが、今は機嫌が悪いんだよ。部外者は引っ込んでろ」


「部外者って何よ‥‥‥私は『ルーライト』の隊員で、ルーク先輩の後輩よ!! 王国奪還は王国軍の使命っ‥‥‥元副隊長なら分かるでしょうが!!?」


 マリアは全力で力を入れるあまり、両手を振るわせながら歯を噛み締める。だが、ジャックには何も響いていない。


「悪いな、俺の動機は不純でね。王国なんて心底どうでもいい。俺はただ1人に尽くしてたんだよ」


「それがアリスティア総隊長ってこと‥‥‥?」


「そういうこと。俺が全てを捧げてもいいって思ったのは‥‥‥今までもこれからもあの人だけだ」


 ジャックは淡々と呟き、やがて目を細める。


「だが、あの人は今いない。この4年間、どれだけ探しても見つからなかった」


「え‥‥‥ 4年前に起きたあの大災害で、亡くなったんでしょ? 私はちょうど学園の見学会で王都に滞在してたから、あの災害の凄さは充分に分かってるわ」


 そう呟いたマリアは、自分の発言を後悔した。


「‥‥‥何も分かってねえよ。お前もう黙ってろ」


 今までにないほどの怒りと魔力の圧を、全身に浴びせられたからだ。


「っ〜〜〜」


 マリアは歯を噛み締めて身体の震えに立ち向かう。気を強く持たないと、失禁してしまいそうになるほどの恐怖だったのだ。


「ーーーそういうわけで。お前らに何か言われようと、俺には動く気が湧かない。これで十分に分かったろ」


 ジャックは少しバツが悪そうに飄々と呟くと、ルークの胸ぐらから手を離す。そして咳き込む彼と支えるマリアを見下ろす。


「反抗しなかったのは褒めてやる。ま、しようとしてもさせなかったけどな」


 ジャックは飄々と呟くと、踵を返して歩き出した。


「ーーーぁ?」


 だが突然、ジャックは左腕を掴まれて顔を向ける。彼を止めたのは咳き込むルークでも、恐れ慄くマリアでもない。


「見つけたわよッ‥‥‥! やっぱりこうなる運命だった!!」


 それは都市に入って間もない‥‥‥システィア・ソードディアスだった。

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