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【40万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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幕間 聖なるバレンタイン、中編

 アイトが教室に戻って自分の席に着く。すると机の引き出しが少しはみ出ていることに気付く。


(あれ、そんなに物入れたっけ)


 そんなことを思いながら引き出しを確認すると、真っ先に視界に入ったのは小さな箱と、綺麗に折れ畳まれた小さな紙。今日という日が関係しているのは明白。


「え、まさか‥‥‥」


 アイトはごくりと唾を飲み、紙をゆっくりと開くと‥‥‥文字が書かれていた。


『面白い反応するわね、人気者』


 明らかに愛の告白などではなく、揶揄った言葉。アイトは無意識に周囲を見渡す。やがて、視線が留まる。


「‥‥‥」


「良かったじゃない。良い気分を味わえたでしょ?」


 その視線の先には、隣で意地悪い笑みを浮かべたユニカ・ラペンシア。


「なんでこんなことを」


「自分の心に問いかければ分かるんじゃないかしら」


 ユニカは少し語気を強めて呟くと、早々に立ち上がって歩き出す。


「その巻き込まれ体質、何か対策してほしいわね」


 そう言い残し、彼女は顔を背けて頬杖を突いた。最大限の譲歩とも言えるヒントを聞き、アイトはふと思う。


(もしかして‥‥‥交易都市での騒動があったから心配してくれてたのか)


 吸血鬼騒動の前後、現地にいたカンナたち以外とは誰とも連絡を取っていなかったことを。10日以上音沙汰が無ければ、誰だって心配する。


「心配かけてごめん、ラペンシア」


 アイトは小声で謝罪を述べる。


「‥‥‥謝る相手は私じゃないわ。()()()によ」


 そう呟いてユニカが立ち上がると、どこか落ち着いた表情をして教室を出ていく。


「それと、チョコありがとう」


 そしてアイトは、受け取ったチョコを丁寧に鞄へ入れた。



「ーーーずいぶん探したぞ」


「ちょっ、なんであんたまでついてくるのよ!!」


 その後‥‥‥食堂でギルバートと昼食を取っていた最中。アイトの隣で2人の女性が足を止める。


「す、スカーレット先輩に姉さん‥‥‥」


「なんで私よりこいつを先に呼んだの!!?」


 不敵に微笑むスカーレット・ソードディアスと眉間に皺を寄せる姉のマリア・ディスローグ。どちらも4年生で、1年生のアイトからすれば上級生にあたる。


「おいアイトっ‥‥‥マリア先輩は分かるがスカーレット先輩もなんてよ」


 対面に座っていたギルバート・カルスが身を乗り出して小声で話す。彼が驚いているのも無理はない。唯我独尊を貫くスカーレット・ソードディアスが()()()()()()に男子へ話しかけているのだから。マリアが話しかけるのは姉弟であるため周りは何も思わないが。

 4年生、いや学園全体の中でも2人の人気はトップクラス。そのため、食堂内にいる多くの学生がアイトたちを注視していた。


「いやこの2人に限ってあり得ないでしょ‥‥‥あと姉さんは分かるってどういうことだよ」


 アイトは顰め面で呟いた後、気を取り直して立ち上がる。


「あの、いったい何のご用でしょうか」


「そんなに謙遜しなくて良いぞ。さすがに今日という日を茶化そうとは思っていない」


 アイトの言葉に応えたスカーレットが、制服の胸ポケットから綺麗に包装された箱を取り出す。


()()()のお詫びと私からの気持ちだ。受け取ってくれないか」


「!?」


 それは正真正銘、チョコだった。アイトは呆気に取られ、箱を手渡された両手が小刻みに震え出す。


「ふっ、そんなに喜んでくれるなんてな。生まれて初めて渡す相手が君で良かったよ」


 スカーレットが澄ました顔で、とんでもない爆弾を次々と投下していく。周囲は既に阿鼻叫喚だった。


「あ、ありがとうございます‥‥‥」


 アイトは驚きと不安感が拭えない。『いったい何のつもりだ』という失礼な考えが過ぎるほど、スカーレットの真意が読み取れていない。


「ちょっ、誤解を招く発言しないでよ!!」


 するとマリアが指を差して彼女に割り込んだ後、咳払いしてアイトに向き直る。


「‥‥‥はい! お姉ちゃんからのバレンタインチョコ! 前から準備して作ったんだからね!」


「えぇ‥‥‥」


 そんなマリアの発言を聞いた事で、アイトはますます困惑を強めた。まるで本命と言わんばかりのチョコ。それを姉から貰うなど、異世界でもなかなかの辛さである。


「もう、何か貰った時に言うことは?」


「あ、ありがとう‥‥‥」


 そしてアイトは打診された感謝の言葉を、まるで機械のように呟く。


「んじゃね、後でちゃんと食べるのよ!」


「そのチョコの意味を、どう捉えるのかは君次第だ」


 そう言ったマリアとスカーレットは嵐のように去っていた。残ったのは唖然とするアイトと、「すげーな」と呟くギルバート、そして痛いほど刺さる周囲の視線。


(今日はいったいなんなんだ!?)


 バレンタインである。そんな分かりきった事を取り乱すほど、2人の襲来はアイトの精神を掻き乱した。


「お、おい喉詰まるぞ」


 その後、一刻も早くこの場から逃げたいアイトは目にも止まらぬ速さで学食を食べたのだった。



 やがて昼休みを終えて、午後の授業が過ぎていく。


(まさかこんなにチョコを貰えるなんて‥‥‥姉さんとスカーレット先輩は完全に予想外だった)


 アイトの鞄には溢れんばかりのチョコ。他のクラスメイトからも色々貰って盛り沢山。当然嬉しいに決まっているが、真意が分からない者からのチョコは困惑も強い。鞄の中に入っているチョコと、その人物を思い浮かべていく。


(ポーラとクラリッサは友達で、義理なのは分かる。でもクジョウさんは‥‥‥いったい何だ? システィアさんは‥‥‥そもそもどういう概念なんだ?)


 ポーラ・ベルとクラリッサ・リーセル。2人は仲の良い友人で、恋愛感情とは別物。ちょうど良いお手頃なチョコの感じが義理だと証明していくれている。

 だがアヤメ・クジョウとシスティア・ソードディアスからのチョコは状況が突発的過ぎて、理解が追いついていない。前者はとてつもなく大きく、後者はとてつもなく小さいチョコ。


(ラペンシアは仲間だし、姉さんはまあ姉さんだし‥‥‥一番の謎はスカーレット先輩か)


 ユニカ・ラペシンアのチョコは感謝と信頼が感じられる綺麗に包装されたチョコ。姉のマリアは手作り確定ということで笑えない。

 そしてスカーレット・ソードディアスから貰ったチョコは少し大きい箱で、どう見ても高級な雰囲気が感じられる。普段の彼女の佇まいとのギャップに、いったいどういう意図があるのか分かったものではない。


(貰って悩むなんて、贅沢だよな‥‥‥)


 アイトは考えるのをやめた。せっかく貰ったチョコに意味を求めるなんて邪推だ、ただ感謝して戴こうという気持ちになる。


「それじゃあ用事あるから先に帰る!」


 アイトは満を辞して立ち上がると、まるでその時を待っていたかのようにユニカとポーラも立ち上がった。


「じゃあ帰りましょうか」


「はい! 今日は用事があるので!」


 そう言った2人はクラリッサの方を向く。ユニカは意味ありげに微笑み、ポーラは親指を立ててウインクをした。


「ちょっ、2人とも!?」


 そしてクラリッサの言葉を華麗に無視し、2人は早々に教室を出て行った。


「どうしたんだあいつら、あんなに急いでよ」


 そう呟くギルバートに対し、アイトは苦笑いを浮かべて歩き出す。


「それじゃあ俺も行くから。また明日」


「ちょっ、アイトまでぇ!?」


 クラリッサの叫びも華麗に背中で聞き流し、アイトは教室の扉を。開けて廊下を歩き、下駄箱を開ける。


「‥‥‥え」


 アイトは靴の上に乗っていたものに目を見開いた。そこにあるのはチョコ‥‥‥ではなく、ある紋章が刻まれた手紙。

 それを手に取って慎重に開ける。冒頭のユニカの悪戯が完全に尾を引いていた。


『アイトくん、突然のお手紙ごめんなさい。どうかお城まで来ていただけませんか。門番さんにこの手紙を見せると、中に入れますので』


 その内容を確認しながら、素早く目を通していく。


『一緒にお茶会したいんです。おねがいします』


 そして1番下には、ユリア・グロッサと刻まれていたのだった。

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