悪くない悪くない、むしろ良い
一方、生徒会室。
「ルーク先輩! どうして手配は2人だけなんですか? ルーク先輩が逃がした人たちは、どうして手配しなかったんですか!?」
マリアが生徒会長のルークに詰め寄っていた。今は生徒会室に2人しかいない。
「どうしてって、昨日も説明したじゃないか」
「! 今捕まえると処刑されるからですか!?」
「そうそう。マリアは遭遇してないからわからないと思うけどなかなかの逸材ばかりだった。その中の1人は少しの時間だったけど僕に張り合ってきたからね」
ルークは自分の動きを模倣した、無色眼の銀髪少女を思い浮かべる。
「! そ、そのような者が」
「さすがにレスタという銀髪仮面男と謎の女は、手配せざるを得なかった。父が知っていたからね」
「‥‥‥」
「それとレスタが放った『破滅魔法』級の魔法についてだけど」
ルークは一息付いて、紅茶を飲んだ後に話を再開する。
「父には言わなかった。彼の魔法の件については、他言無用で頼む。他の隊員にも伝えておいた」
「それは、国の情勢を考えればわかりますが‥‥‥もし私たち以外の誰かにあの魔法を見られたら‥‥‥大騒動になります。早くレスタとかいう者を始末しないと」
「うん、その通りだね」
口ではマリアの意見に同意しつつ、本心は彼を自分の部下にする気満々のルーク。
今そのことを言っても怒られるとわかっているため、ルークは話を合わせた。
「レスタや謎の女の正体はわからないけど、探し出せる余地はある」
「本当ですか!?」
ルークはニヤリと口角を上げ、こう言った。
「学園の生徒の中に、レスタの仲間がいる」
◆◇◆◇
『マーズメルティ』から学生寮に戻ってきた後の夜。
「あ〜学生ってこんな感じだよなぁ〜」
アイトは自室のベッドに寝転んでいた。やる事を終えた後の自由時間は、最高に素晴らしいと噛み締めている。
『聞こえるかレスタ殿、夜遅くに申し訳ない』
すると持っていた魔結晶から、聞き覚えのある声が響いた。
「ラルドか? どうした?」
さすがに無碍にはできず、教官ラルドに返事をする。
『貴殿がメルチ遺跡に放った魔法を、映像で見せてもらった。本当に素晴らしかった!!』
「‥‥‥は?????」
アイトの頭は、真っ白になった。
昨夜、アイトは魔法のやらかしを気にしていて、注意が散漫としていた。そのため、エリスが魔結晶で撮っていたことに気づいていなかった。
『構成員たちにも見てもらった。とてつもない魔力量、そして魔法制御力! 皆が貴殿の魔法を【終焉】と敬称している!』
「しゅ、終焉?」
『魔法名が決まってなければ使ってもらいたい。まさに神の如き魔法! さすが私たちの代表である!!』
「‥‥‥神のごとき??」
アイトは思わず口にしていた。
(魔法制御力‥‥‥? 確かに魔力量は自信があるけど、制御力なんて何も特訓してないぞ?)
自分の両手を確認する間も、ラルドの絶賛が続く。
『10個の魔法を同時に発動するだけでなく、それを融合してのける桁違いの魔法制御力‥‥‥感嘆に値する!!』
「‥‥‥あ」
アイトは彼の話を聞いて、気づいてしまった。自分が気づいていなかった、突出していた能力に。
(‥‥‥もしかして)
アイトは宝石集めを含め、多くの趣味を持っていた。その1つが、花火。
『全然上手くいかないな〜』
魔法で花火を作る際、最初の頃は当然苦労していた。手で2つの魔法を同時に発動すると、何故か衝撃が起こって魔法が発動しなかった。
『でも花火を見るためだ。がんばろ!』
それでもアイトは魔法で花火を作りたかったため、挫折することなく試行錯誤を重ねた。それも毎日毎日、飽きることなく熱心に。
『よしっ、いい感じの光具合!』
自分の趣味であるため、一切苦しいとは思わなかった。むしろ、楽しみながら熱心に取り組んでいた。
『やった‥‥‥できたぁぁッ!!』
数年間ほぼ毎日行い続けたことで、魔法を同時に発動できるようになっていた。それも、本人が全く気づいていない間に。
(マジで?)
今では、10個の魔法を同時に発動。
アイトにとっては、当たり前になっていた。
「‥‥‥ラルド。魔法の同時発動、何個できる?」
アイトは思わず、連絡中のラルドに尋ねる。
『む? 私なら2個が限界だな。そもそも魔法の同時発動なんて危険極まりないものだ。常人なら2、3個が限界だろう』
「2、3個‥‥‥」
アイトは、乾いた笑みを浮かべていた。
『だからレスタ殿の魔法制御力は、すでに私たちとは別次元にある。エリスもそう言って喜んでいた』
「‥‥‥へぇ〜」
アイトはなんとか返事をする。必死に意識を強く保って。
(エリスが昨日の魔法を見て驚いていたのは、威力だけじゃなくて魔法制御力もだったのか!?)
アイトはようやく、エリスが驚いていた理由に辿り着くことになった。
『ともかくだ。レスタ殿への敬意は前よりもさらに大きいものとなった!! この私も含めてな!』
「え? なんで??」
『これからも、共にがんばっていこうぞ!! ではレスタ殿、夜遅くに失礼した!』
ほとんど一方的にラルドが話して連絡を切る。
「‥‥‥‥‥‥」
アイトは真顔のまま、ベッドへ横になる。
(‥‥‥俺への敬意が上がってどうすんだよ!?)
そして、両手で頭を抱えて悶え始める。
(俺、できるだけ穏便に代表を譲ろうと思ってたのに!!)
アイトの視線が天井にさまよう。ぼんやりしながら両手を胸の前に寄せて各指で魔法を発動。
「‥‥‥‥‥‥」
そして乱れた精神状態でも‥‥‥10個の属性魔力を、余裕で制御してみせる。
(【終焉】‥‥‥カッコいい名前つけてくれるじゃん。あの魔法の名前を考える時間を省略できた)
笑っていたアイトは、ふと青ざめる。
(でも‥‥‥もう【終焉】は使いたくない!!)
そして指で発動していた魔法をやめて、手を元の位置に戻す。
(‥‥‥そうだ。起きてしまったことを後悔しても、全く意味がない。今は前向きに考えよう!)
アイトは、必死に現実逃避を始める。
(今まで何度も勘違いや誤算があった! 今回もそのうちの1つで大したことない‥‥‥要は俺がレスタだとバレなければ何の問題もない!)
現実逃避は、続く。
(エルジュの活動は、お酒をより美味く感じるための仕事みたいなもの!)
まだ続く。
(それに自分が生活しやすいように国を守るのも良いじゃないか! そう考えると新組織『エルジュ』悪くないかも!? 悪くない悪くない、むしろ良い!)
アイトは誰かに言い訳しているかの如く。前よりもひたすら前向きに考えるようにした。
そして、眠る直前。
「‥‥‥‥‥‥」
アイトはぼんやりしながら、こう考えていた。
(いつ、この地位から離れよう‥‥‥)




