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【40万PV突破!】いつ、この地位から離れよう。〜勇者の末裔を筆頭に、凄い人たちで構成された組織の代表です〜  作者: とい
10章後編 崩壊都市ベルシュテット

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遠い存在

「‥‥‥んぅ〜、ぐがっ」


 秘密組織『エルジュ』、序列第14位のネルは呻くように寝息を立てていた。

 西地区での男吸血鬼との戦いに、ターナに協力して魔力糸の生成。めんどくさがりの彼女にとっては、身体が悲鳴を上げるほどの非常事態だったのだ。


「‥‥‥て。ネル、起きてっ」


 だがそんな彼女を起こそうと、身体を揺さぶる存在がいた。


「‥‥‥も〜なにぃ? 寝かせてぇ‥‥‥」


 夢心地だったネルは意識が半覚醒し、機嫌を悪くする。めんどくさがりの怠け者気質の彼女は、当然朝に弱い。


「ネルっ!! もう朝よ!!」


 だが相手が頑なにネルを起こそうと激しさを増す。眠りを邪魔されたネルは半目を開くと、無造作に右手を伸ばして魔力を集める。


「うるさいぃッ」


 そして作り出した糸を弾丸のように飛ばした。だが壁に衝突した音しかせず、次の瞬間には両脇の間に手を入れられて掴まれていた。


「ネル!! レスタ様とカンナさんもいるの!! 危ないでしょうが!!」


 そして無理やり起こされたことで、ネルは次第に相手の顔を認識する。


「ディルちゃぁん‥‥‥昨日はがんばったんだから寝かせてよぉぉ‥‥‥」


「ダメっ、これから大事な話し合いがあるの!!」


 思わず文句を呟くが、ディルフィはそれを許さない。ネルの額にデコピンすると、洗面台へと連れて蛇口を捻る。


「冷たっ!! もぉ〜っ、ディルちゃぁん!」


 そしてネルの顔に水をかけると、さすがに目が覚めたのか不機嫌そうに目を細める。


「ターナさんもいるのに、そんなだらしない姿見せてどうするの!?」


 だがディルフィは一歩も引かず、ネルの身支度を始める。ネル自身が顔を洗っている間に、ボサボサとなっている茶色の長髪を丁寧にとき、後ろ手に結ぶ。


「はい、これでよし」


「朝のディルちゃんが1番うざいぃ‥‥‥」


 そして茶髪ポニテが特徴的な、いつものネルが完成する。


「ディルフィ‥‥‥徹夜明けなのに凄いなお前は」


 その一部始終を眺めていたターナが、若干引いた様子でコーヒーを飲み干すのだった。


 ◆◇◆◇


 その後、ニーナが訪れてターナたちと合流。


「あの、カンナ様とレスタ様の容態は‥‥‥」


 ニーナの口から真っ先に飛び出たのは、2人を心配する言葉だった。


「‥‥‥2人とも命に別状はない。安静にしてれば順調に回復していくだろう」


 壁にもたれて両腕を組むターナが率直に応えるが、どこか暗い。


「だが‥‥‥」


 そして彼女が仰向けに眠るカンナの方を見つめると、ニーナはその意味に気付く。


「そんなっ‥‥‥」


 カンナの両眼を覆い隠すように、痛々しいほどの包帯が巻かれている。


「よほど無茶な模倣をしたんだろう。両眼が完全に破裂していた。高度な治癒魔法でも、治すのは至難の業だ」


 ターナは悔しそうに呟く。ディルフィとネルも声が出ない。両眼が見えないという事が、どれだけ深刻かは想像を絶する。


「あの、レスタさまの方は」


 ニーナは咄嗟に話を切り替えた。そうでもしないと空気の重さに耐えられなかったからだ。


「気軽に大丈夫、とは言えない‥‥‥全身の筋肉が想像を絶するような痙攣をしていた。おそらく最低でも数週間は目を覚まさないだろう」


「そんなにっ‥‥‥」


「でも休めば、必ず元気になるさ」


 そう言って笑うターナを見て、ニーナは少しだけ気分が落ち着いた。だが、やはりカンナの両眼の方が頭から離れない。


「私、何か方法が無いか考えてみます」


 その結果、ニーナはすぐに外へと飛び出していく。ターナたちに彼女を止める気は起こらなかった。


「なんでレスタさまって仮面付けてるのかな〜。普通にカッコいいのにねー」


 するとネルが腰を下ろして、ベッドで仰向けに眠るアイトの顔を凝視する。

 カンナから貰った魔石のペンダントを掛けたままであるためアイトの髪は銀髪のままだが、仮面はさすがに外している。


「ななな何やってるのネル!? そんなレスタ様のご尊顔をじっくりと観察するなんてっ!!」


「なかなか気持ち悪いよディルちゃんー」


 顔を真っ赤にして注意するディルフィだったが、ネルに一蹴されてしまう。


「こんな機会じゃないとレスタさまの素顔見れないよー? ねぇ憧れなんでしょー、見なくていいのー?」


 それどころかネルに勧められて、ディルフィの気持ちは傾いてしまう。無意識にターナを見て、何かを確認するかのように。


「なんでボクのことを気にしてる。別に好きなだけ見ればいいだろ」


 ターナから呆れた様子で許可(?)が降りたため、ディルフィは生唾を飲んでネルの隣で腰を落とす。勢いよく黒髪のおさげを揺らすほどに。


「れ、レスタさま‥‥‥」


 そして眼鏡越しに、はっきりとアイトの顔を見つめる。アイトは意識が無いため、当然何も反応しない。


「あ、あああっ」


 するとディルフィは真っ赤に染まった顔が恥ずかしかったのか、勢いよく両手で覆い隠してしまう。


「えーなにその反応、こわー」


 その反応に隣のネルが若干引いていると、壁にもたれていたターナが口を開いた。


「こいつ、年相応の顔してるだろ? ボクたちと変わらない年齢で代表をしてるんだ」


 そして彼女は、懐かしむように話し出す。


「たった2年くらいしか経ってないのに、こいつが吸血鬼を倒すほどまで力を付けるなんてな」


「私も倒したよー。だから褒めふぇ?」


 ネルが空気を読まない発言をした直後、ディルフィが音速で口を塞ぐ。それを見たターナは苦笑いを浮かべ、話を続ける。


「最近のこいつは代表としての器を感じさせるものがある。半年前とは大違いだ」


「あの‥‥‥私から見れば、レスタ様は遠い存在で‥‥‥最初から凄いのではないんですか?」


 そんな彼女に、ディルフィが慎重に尋ねる。ターナは目を丸くし、やがて吹き出すように笑った。


「ふっ‥‥‥世代では抜きん出た力を付けていても、悩みや苦しいこともある。お前たちの期待が大きすぎるから見せられないだけかもしれないぞ」


「そんなっ、私たちがレスタ様に負担を‥‥‥?」


「私だったら代表なんて絶対いやー」


 ディルフィとネルがそれぞれ反応を示す。ターナは「せっかくの機会だ、レスタについて話す」と前置きを置いて、口を開く。


「こいつは自分のためと言いながら仲間を放っておけない。敵以外の無関係な人たちも放っておけない甘い男さ」


「‥‥‥今回の一件でも、無関係な人たちを助けようとしてましたもんね」


 ディルフィが同意するように呟くと、ターナは目を閉じて微笑んだ。


「器用に見えて、実は相当不器用な奴なんだよ‥‥‥ボクたちの代表は」


 そしてアイトの顔を見つめると、彼の額に付いていた汗を近くの布巾で拭う。


「でもそんな奴だからこそエリスやミア、いや多くの人間が関わりたいと思う。そんな男だ」


「‥‥‥はい。私も今回初めてレスタ様と話して、不思議な魅力を持つ人だと思いました」


「私まだ話したことないー」


 不満げに呟いたネルの反応に、ターナとディルフィはどちらからともなく笑う。だが、ターナはやがて笑うのをやめて下を向く。


「‥‥‥でも、これから、どうすればいいんだろうな」


 彼女の一言は、ディルフィとネルを黙らせてしまうほどの雰囲気だった。


「ーーーまだ分かりませんっ!!」


 するとその空気をぶち壊すように、扉が勢いよく開かれる。そこには先ほど外に出ていったニーナ。


「地下室‥‥‥どおりで魔力反応が地面より下にあったんだ」


 そして輝く金髪と白い翼が存在感を際立たせる‥‥‥シャルロット・リーゼロッテも現れたのだった。

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