いつ、この地位から
「‥‥‥ヨファくんよ。お兄さんに納得のいく説明をしてくれないか?」
建物の裏に隠れたアイトは、一緒に連れてきたヨファに情報を求める。
「え? なにを?」
だが、ヨファは全く現状が分かっていない。アイトは諦めずに聞き続ける。
「なんでもいいんだっ、この拠点で起こってることならなんでも!!」
「うーん、急に言われても‥‥‥あ、お姉ちゃんは上司になる変な人に、テストされてるんだった!」
「上司、変な人‥‥‥まあなんでもいいか、とにかく教えて?」
情報ならなんでもいいと言わんばかりに、アイトはぐいぐい彼に詰め寄った。ヨファが屈託の無い笑顔で話し始める。
「え〜とね‥‥‥お姉ちゃんが言ってたのは」
「言ってたのは!?」
「『自分のため、平穏のため、そしてレスタが代表として動く組織』!」
「は??」
アイトは素っ頓狂な声を出す。
「『レスタが組織の代表で気に入らない』!」
「お、おう」
アイトは苦笑いを浮かべ。
「『発案者はエリスとボス』!」
「ふぁ!?」
アイトは困惑の声を漏らした。
「う〜ん、たぶんこんな感じだと思う!」
「‥‥‥あ、ありがとう」
自信満々に話を終えるヨファ。
アイトは感謝を告げることしかできない。
「じゃあ僕行くね〜! またね〜!」
「あ、はい。情報ありがとう」
もはや敬語になってしまうほど、アイトは情緒が壊れてしまった。
ヨファの一言一言は、まさに情報の嵐。
(‥‥‥俺のためって何!? いったい何が理由で何のためになんで!?)
結局、アイトはますます頭を抱えることになった。
訓練場。
(とりあえず、言われた通りに来たけど‥‥‥)
渋々と足を運んだアイトは、見覚えのある男が視界に入る。
「おお!! 久しいなレスタ殿!」
それは1年半前、誤解したまま死闘を繰り広げたラルド・バンネールだった。
アイトはやけに慕われてると困惑しながらも、なんとか挨拶を返す。
「う、うん久しぶりラルド。ところでーーー」
「訓練場の上で見つからずに待機しててくれ!私の合図で訓練場へ入ってきて欲しい!」
「あ、おいラルド!?」
だが再会の余韻はすぐに終わり、待機してほしいと指示を受けた。
全く意味の分かってないアイトは、訝しげに中の様子を覗き見る。
(‥‥‥うげっ!? なんだあの人数!?)
そこには軍隊と見間違えるほどの光景が広がっていた。隊列を組んだ人たちは、ザックリ数えても3桁は確実に超えてそうな人数だった。
「これより、成績上位10名の発表を行う。呼ばれたものは前に並ぶように!」
すると、ラルドが大きな声を出して司会を務める。
(何が始まるんだよ‥‥‥)
アイトは自分に幻影魔法をかけて透明になっていて、意味不明な大きさをした訓練場の上に浮かんで待っていた。
(絶対っ、碌な事じゃないっ)
そして、間違いなく嫌な予感を感じていた。
彼らに成績発表を行うのは、教官であるラルド。
(あんた教官だったのね!?)
アイトは教官がラルドであることを、今まで全く知らなかった。
「それでは‥‥‥『エルジュ戦力序列』上位10人を発表する!!」
(なんだその仰々しい言葉の羅列はっ!?)
アイトはツッコミが止まらない中、10人が発表される。
「第10位‥‥‥メリナ!」
(茶髪のおさげである女の子。初めて見る子だな)
アイトは感想を呟く。
「第9位‥‥‥ミスト!」
(君、この組織の訓練生だったの!? でも、あの水色ショートの髪は見間違うはずがない)
アイトは感想を呟く。知っている子だった事で驚きが増している。
「第8位‥‥‥リゼッタ!」
(以前会った紫髪のロングの幼い女の子だ。見間違えるはずがない。元気だったんだな!)
アイトは感想を呟く。まるで近所のお兄さんのような立ち位置の言葉を送る。
「第7位‥‥‥オリバー!」
(緑髪の小柄な男。初対面だな)
アイトは感想を呟く。
「第6位‥‥‥ミア!」
(相変わらず白と黒のまばら髪の長い女の子。元気そうで良かった。なんかこっち見てくる。え、もしかして幻影魔法解けてる?)
アイトは感想を呟く。そして目が合っている。
「第5位‥‥‥カイル!」
(赤髪の筋肉隆々の男。頭には2本の角。前会った時よりも強そうだし怖そう)
アイトは感想を呟く。少し怖気付きながら。
「第4位‥‥‥アクア!」
(どこか眠たそう。知ってる子だ。あの長い青髪は印象に残ってる)
アイトは感想を呟く。釣られて欠伸しながら。
「第3位‥‥‥カンナ!」
(銀髪ツインテールの女の子。名前を呼ばれてすごく嬉しそう。あれ、前会った時と髪色が違うな。でも活発なのは変わってないだろうな)
アイトは感想を呟く。どこか違和感を覚えつつ。
「第2位‥‥‥ターナ!」
(ターナ!? あいつも訓練生だったのか。ん、待てよ、もしかして1位は‥‥‥)
アイトは感想を呟く。驚きつつも、何かを悟る。
「第1位‥‥‥エリス!」
(‥‥‥やっぱり。この人数で1番って、がんばったんだなエリス‥‥‥)
アイトは感想を呟く。完全に保護者のような目線で。
そしてエリスたち上位10名が、訓練生の前に横1列で並ぶ。
「以上の10名を、エルジュの精鋭部隊、『黄昏』に任命する!!!」
(は、はあ‥‥‥? なんだそれ? エルジュって‥‥‥あ!!あれか!)
聞き覚えがある単語を聞いて、アイトは『エルジュ』という言葉を思い出していた。
◆◇◆◇
エリスがまだ、アイトの家にいた時の話。
「アイト様。好きな言葉って何かあります?」
「ん? 好きな言葉? ‥‥‥そうだな。ジュエルいや、『エルジュ』かな」
それは、宝石好きなアイトが考えた言葉。
ジュエルと言いかけたが、それでは捻りがないと思ってエルジュと言ったのである。
「うん、『エルジュ』って良い響きだよな」
どちらであっても、捻りがないのは言うまでもない。
◆◇◆◇
(そのまま組織名になってるじゃねえか!?)
アイトのツッコミが、普段よりも冴えている。いやそんなことを言ってる場合ではない。
(それに精鋭部隊『黄昏』って‥‥‥俺に直属の、精鋭部隊‥‥‥!?)
そして、アイトは心の中ですら絶句した。突拍子の無い事の連続で、頭が麻痺してきている。
「序列10位に入った者はもちろんのこと、ここにいる全員、今までよくやった!! 私の訓練に長期間耐えたのだ!! 誇りに思って欲しい!!!」
訓練場では、ラルドが力強い言葉を紡いでいる。まさに教官としての立ち振る舞い。
「君たち1人1人は素晴らしい力を持っている!! そしてこれからも努力を重ね、『エルジュ』に貢献してもらいたい!! 私も、全力で支えたいと思う!!」
訓練場にいる訓練生が歓声を上げた。するとラルドが、その歓声に負けないほどの声量で話し出す。
「そして‥‥‥エルジュ戦力序列第0位、エルジュ代表のレスタ殿から皆に話がある!!!」
(ハアっっ!!!?)
アイトは決して過言ではなく‥‥‥人生で1番の衝撃を受けた。
(ちょいちょいちょいちょい!?)
勝手にラルドの訓練を受けた精鋭たち。そんな組織の代表に選ばれている。そして、なぜか多くの人たちから歓声を受けている。
「レスタ殿、さあご登場を!!!」
気づけば成績上位10名の前に、表彰台のような物が置かれている。つまり、アイトはあれの上に立てと示唆されていた。
(絶対いやだッ!!!?)
アイトは頭が沸騰し始める。
(なんだこの空気っ、いつの間に組織なんて作ってたんだ!! しかも俺が代表の組織ってなんで!? ていうかこれ登場しないとダメ!?)
だが、逃げ出すわけにはいかない。理由は下にたくさん並んでいる。
(ラルドが鍛え上げた精鋭っ、しかも人数っ‥‥‥絶対に無理だっ!!)
ここで逃走すれば、大勢の訓練生に殺されるのは明白。
(下手をすれば‥‥‥エリスにすら)
最悪、彼女に消されるという未来を想像した。
もはや、アイトに取れる選択肢は1つしかなかった。
「ーーーー」
アイトは、自分にかけていた幻影魔法を解く。そして凄まじい速度で表彰台の上に着地し、その瞬間に振動魔法と音魔法を発動させて、衝撃音を鳴らす。
少しでも、威厳と存在感を見せ付けるために。
「‥‥‥‥‥‥」
アイトは遂に、訓練生全員と対面した。高校の集会の表彰式の光景と同じ。
「‥‥‥代表のレスタだ」
そう話した瞬間、ものすごい歓声が上がる。
(初対面だよ!?)
アイトは素直に恐怖を感じている。なぜこんなにも熱烈な視線を向けられているのかと。
(変な齟齬があるとバレてしまう。なるべく、穏便に‥‥‥)
なるべく素の態度で話そうと心に決めた。威圧して不満を買えば後が怖かったからである。
(そうだっ、別に俺自身がバレたわけじゃない! レスタという架空の人物を見せつければ‥‥‥)
『エルジュ』代表レスタは、自分の仕事だと思うことにした。正直、そうやって前向きに考えなければ、アイトは発狂しそうだった。
(暫くは俺で、その後は向いてそうな人に‥‥‥!)
だが少しずつ今の地位の後継者を匂わせ、誰かに譲ろうと決めた。それしか活路は無いと強く確信した。
そして、全く知らなかった少年の演説が始まる。
◆◇◆◇
謎の組織‥‥‥『エルジュ』。
グロッサ王国で暗躍し、精鋭揃いの実力者集団と噂される‥‥‥まさに謎に包まれた存在。
「‥‥‥‥‥‥」
その代表が、平凡であるはずがない。
代表である男は今‥‥‥大勢の前に立っている。その姿、まさに威風堂々。
「‥‥‥‥‥‥」
そして、多くの構成員と向かい合っている。
銀髪、目元を仮面で隠す‥‥‥そんな彼の雰囲気は、どこか異質で近寄りがたい。
そんな彼に‥‥‥構成員330人が注目している。
「きゃあァァ!!!!!! 本物よぉぉ!!!!」
「こ、これは夢か!? 夢なのか!?」
「カッコいいぃぃぃぃぃ!!!!」
人数に比例する声が、幾度にも響き渡る。まさに音の弾幕。これでは、まるで声がーーー。
バツンッ
突然、彼は音魔法を放った。周囲に静寂が訪れる。まるで、それを狙ったかのように話し出した。
「‥‥‥落ち着いたか。先に言っておくことがある」
淡々と話す彼の言葉に、全構成員が注目している。全ての視線を、独り占めしている。
「まず、これは俺を崇める組織じゃない。自分たちのために戦う集団なんだ。俺を崇める必要なんてない」
そんな中で、彼は淡々と話し始める。自由性を説き、皆を諭すように簡潔に。
「今は俺が『エルジュ』の代表だが、すぐにでもこの座は降りることになるだろう。君たちのような、心強い仲間がいるのだから」
この地位には固執しない。彼はそんな口振りで、話を終えた。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
湧き上がる歓声。それを聞いても微動だにしない彼は、まさに代表の器なのか。
「さすがレスタ様です」
「ふん」
「レスタくんカッコいい!」
「うるさ〜。眠いんだけど〜」
「ハッ、代表の座は俺がいただくぜ」
「おにいちゃん最高〜♡ ミア、今が1番幸せ〜♡」
「これがエリスさんの主‥‥‥さすがの貫禄ですね」
「レーくん、すごすご」
「熱狂しすぎですよぉぉぉッ!!」
「やっぱり代表ってすごいね」
大勢の前に並んでいる、個性豊かな10人。
330人の中から選ばれた、文字通りの精鋭たち。
彼女たちは声に出して、代表の男を讃えていた。
「‥‥‥‥‥‥」
そして『エルジュ』の代表、レスタ。
組織の頂点に立つ彼の実力、知略、カリスマ性など‥‥‥どの分野でも、他に並ぶ者無しと言われる。
そんな彼は‥‥‥今こう思っていた。
(‥‥‥いつ、この地位から離れよう)




