その時は
アイトは再び、1人で鍛錬を行う事になる。
(1人だと張り合いがない‥‥‥)
前まではそれが当たり前だったのに、アイトはすごく寂しく感じていた。エリスにはこれまで支えられてきたと強く実感していた。
(エリスは今もがんばってるんだ。俺もがんばらないとっ‥‥‥!!)
エリスに負けないよう、アイトは自分を鍛える。平穏の生活を掴み取るために。
そして、1年半が過ぎた星暦869年。
アイトは1年半の間に色々な出来事を経験した。
「大丈夫? 君、どこから来たの?」
人身売買を目撃し、連れて行かれそうになっていた少女を救出。
「あんたに見せたのは血液を集めて身体機能を向上させる秘術だ。知りたいなら、あてがある」
希少な宝石が優勝賞品の闘技大会に出場したら因縁をつけられ、戦闘。
「大丈夫!? まさかこんな所に閉じ込められてたなんてっ!! とりあえず外に出るよ!!」
とある迷宮の最下層で、捕らえられてる人を救出。この他にも多くの出来事があった。
「え? う〜ん‥‥‥そうだな」
そして恩返しがしたいと言う人がまあまあいたが、アイトはさすがに自分の家に内緒で住まわせることに限界を感じていた。
「それなら良い所があるんだ。ついてきて!」
そのためアイトは‥‥‥自分にとって唯一コネがある『ルーンアサイド』の本拠地に連れていくことにした。
暗殺組織であるが、アイトには他の候補がなかった。広い敷地、何人も所属するような大組織は。
「お〜久しぶりラルド。また連れて来たんだけど、いいかな」
「久しいなレスタ殿! もちろん構わないぞ。貴殿が目にかけた者なら文句は無い!」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
アイトは困ってる人を連れていく時だけでなく、何かの役に立つと思って武術や体術。
「呑み込みが速いなレスタ殿は。教え甲斐がある」
「ラルドの指導が良いからだよ。さすが何人にも教えてきただけあるよな」
「そのような言葉っ、感無量であるぞっ‥‥‥!!」
「なんで泣いてるの!?」
そして組織に伝わる秘術【血液凝固】を教わりに、アイトは定期的に本拠地へ訪れていたのだ。
「そういえばエリスは?」
「今は遠出の任務をこなしていてな。すまぬ、レスタ殿」
「‥‥‥そっか」
だが、エリスと会うことは一度もなかった。
そして、アイトはついに15歳になった。
「入学、か‥‥‥そういえば姉さん元気にしてるかなぁ」
現在は3月の終わり。あと5日後にグロッサ王国の王立学園に入学する。
入学するのは貴族としての義務であり、入学試験はない。事前に入学前に受けたのは、クラス分けの試験だった。
「姉さん一度も帰って来てないし、学園生活ってそんなに大変なのか‥‥‥?」
そして学生寮に引っ越すための荷作りも終わり、あとはもう引っ越すだけとなった。
「ふっ、ふっ、ふっ」
夜になると、アイトはいつも通り自主練を始める。今では30kmに及ぶランニングが習慣となっていた。 その習慣を始めようと、アイトは家の外に出る。
「ーーーアイト様!!」
すると、正面から何者かに抱きつかれる。その人物の声、髪色。アイトは確信した。
「エリスっ! 久しぶり!!」
金髪美少女、エリス。彼女が出て行って以降、一度も会ってない。つまり、2人が会うのは1年半ぶりだった。
「大きくなったな〜!」
再会したエリスは、大人っぽくなっていた。昔は幼さが残っていたが、今ではもう立派な女性と言える。
(この気配‥‥‥間違いなく1年半前とは比べ物にならない)
アイトは見ただけで、彼女の努力を悟った。嬉しさが込み上げ、思わず彼女の頭を撫でる。
「‥‥‥本当に成長したな。それに、前よりも更に綺麗になったし」
「あ、ありがとうございます‥‥‥アイト様も成長されましたね。すっごくカッコよくなってます‥‥‥!」
(え、そこまで変わってないと思うけど)
アイトは頬をポリポリと掻きながら苦笑いを浮かべる。
「急で申し訳ないのですが、アイト様。今から来てもらいたい場所があります。あ、それと変装してほしいです」
「え? うん、いいけど。何かあるのか?」
「それは‥‥‥着いてからのお楽しみです♪」
銀髪と目元を隠す仮面。1年半経っても、この変装は変わらなかった。
「どこに行くんだ?」
「いえ、ここからで大丈夫です」
そう言ったエリスは見たことない黒色の鉱石を取り出す。そしてアイトの手を握る。
「ーーー
エリスが何かを唱えると、視界が真っ白になる。
そしていよいよ、その時はやってくる。
◆◇◆◇
「ーーーは????」
アイトは、絶句せざるを得なかった。
着いた場所は‥‥‥とてつもなく大きい、まるで1つの王国だった。
「組織の拠点です。別空間に拠点を作り、そこに転移できる特殊な道具があれば、場所を特定されないと思ったので!」
「‥‥‥‥‥‥?」
「空間を作る魔導具を手に入れるのに、すごく苦労したんですよ!」
「‥‥‥組織の、拠点??」
唖然としたアイトには、最初の言葉しか聞こえていない。
暗殺組織『ルーンアサイド』の拠点を移したのかと、アイトは感じていた。いや、そう思い込んでいた。
「??????」
だが、なぜ構成員でもない自分に話すのか分からない。なぜ、エリスが嬉しそうに話すのか分からない。
アイトは困惑を強める間も、エリスが笑顔で話を続ける。
「今日はですね。成績発表なんですよ」
「‥‥‥成績発表??」
アイトは復唱する。頭を突き抜けていく言葉を、無意識に。
「私たち訓練生330人の成績がこれから発表されるんです。魔法、武術、体術、座学、特技、実戦」
「さ、330‥‥‥」
「全6種目の試験での総合成績上位10名だけが‥‥‥アイト様直属の精鋭部隊に所属できるのです」
「‥‥‥は?」
遂に‥‥‥アイトは開いた口が塞がらない。
自分の直属の精鋭部隊が作られようとしていること自体、まったく意味がわからない。
「1年半っ、本当にがんばったんです!」
ちなみにエリスは、絶句するアイトの反応に少しも疑問を抱いていない。
「そんな唖然とするほどの拠点を作る事ができて、私は本望です!!」
むしろアイトの反応を見たことで、規模が想定以上だったと勘違いし、勝手に嬉しく思っていたのだ。
だが、現実はその真逆。
「‥‥‥なぁ、エリス。先に行っててくれ。少ししたら俺も向かうから」
そう言って背を向けたアイトは、こめかみ辺りを激しく抑えていた。
(ごめん全く話についていけない。頭冷やしたい)
全く意味が分かっていない。アイトはとりあえず、距離を置いて考えたかった。
「わかりました。それでは訓練場の裏で!」
何も知らない彼女に、笑顔で送り出されてしまう。
(俺が組織のトップって‥‥‥何がいったいどういうことだってばよ???)
アイトは変装した状態で拠点を歩く。まさに王都さながらの規模と華やかさだった。
「あ、あれって!!」
「レスタ様じゃないか!?」
「え、まさかそんなわけ‥‥‥えっ!!」
すると、周囲にいた人々に大声を挙げられるアイト。
「!?」
まるで有名人が目の前に現れたかのような歓喜の声に包まれる。
(は、はあ? マジでどういう状況だよ!?)
アイトは狼狽して、必死に周囲を見渡す。少しでも情報が欲しいと躍起になる。
「あ! 変な人だ〜!」
まるで罵倒するような子供の声。アイトは心覚えがあった。
「ーーーヨファ!!」
1年前の誘拐事件での被害者、ターナの弟であるヨファがいた。彼は成長していたが、大元は変わっていないためすぐに気づいた。
(そうだ、この子なら何か知ってるはず!!)
知人の出現に喜んだアイトは、左手に魔力を集める。
「【照明】!」
そして周囲に、容赦なく眩しい光を燦々と放つ。大勢が呻き声を上げて目が眩む。
「ヨファくん、こっち!!」
「え? な、なに?」
周囲の人々の目が眩んでいる間にヨファを掴んでその場を離れた。
「これがレスタ様の魔法っ!!」
「なんて神々しい光ッ!!」
(何言ってんの怖っ!!?)
そんな絶賛を浴びて、ますます混乱しながら。




