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プロクラトル  作者: たくち
氷の世界
89/205

Sランク冒険者

 アイナの自室へと向かう為、翌日にセレスとの約束をしたシン達は予定通りに冒険者ギルドでセレスを待っていた。


 アイナに会う事は不可能だろうが、何かきっかけが掴めるかもしれない。

 前日の話ではアイナの封印が施された部屋の前に長く滞在するのは危険であるとの事なので深く捜索出来ないが仕方ないだろう。


「皆様、お待たせしました」


 昼過ぎと言う時間ぴったりに現れたセレスは昨日までの防具を着込んだ格好でなく、普段着で現れた。

 やはりシンが初対面でリリアナと同じような品の良さをセレスに感じさせたのは間違いではないらしく、その普段着からは高貴さを感じられる。


「私達の自宅はここから少し遠いですがご了承ください」


 セレスの案内でシン達はスーリアの街を進んでいく。

 スーリアに来たばかりの頃は冒険者ギルドを探していたので街を散策していなかったが、こうしてゆっくりと歩いてみると今まで訪れた砂の世界と森の世界よりも文明が進んでいるように見える。


 雪が降り積もる氷の世界でスーリアの街には一切雪が舞い落ちてこない。

 スーリアを覆うように薄く透明な膜が張り、降り注ぐ雪はスーリアの街を避けているかのように動いていた。


 レンガで出来た建築物と石畳の街道はまるで映画の世界に迷い込んだかのような感覚を与え、交通を支えている4足歩行の地竜達はは大きな街道で慌しくスーリアの街を駆け回っていた。


 雪の大地を生業としている商人にとって、積雪を物ともせず走る氷の世界の地竜はなくてはならない存在であり、武力を持たない商人にとって地竜は外敵に対する防衛手段でもある。


「私達のような冒険者はスーリアの街に専用のホームを持つんです。冒険者用の居住区ですね」


 全世界から冒険者が集まるスーリアの街の3分の1ほどは集まった冒険者達の拠点となる居住区が締めている。

 円形のスーリアは外周から中心にかけて大きく3つのエリアに分かれており、1番大きな外周が冒険者用の居住区となっている。


 街の中心には冒険者ギルドなどの公共施設が集まっており、その周囲のエリアには商店街が並んでいる。


 商店街のエリアまで足を進めたシン達はその店に並ぶ品物の豊富さや技術力の高さに目を見張っていた。

 冒険者の最終到達地の名に相応しく他の世界では見られない逸品が並べられており、創世期の遺物を解析して作り出した魔導具や武器、防具は通常の物よりも格段に性能が違う事が見ただけでも確認出来た。


 特にユナなどはあちこちの店に目を向けており、隣を歩くシンに後で見に行きましょ、と声をかけている。


「お店でしたら良い場所をお教えしますよ」


 ユナの行動を見たセレスが微笑みながら話をかける。

 Sランク冒険者が勧める店ならば、間違いはないだろう。


「ここが私達の拠点です」


 セレスに案内された先には家と言うには大きすぎるほどの屋敷がその存在を主張していた。

 屋敷の周囲は塀に囲われており、玄関までの庭は丁寧に手入れされ、リリアナの住んでいた王城の庭園にも負けていない。


 Sランク冒険者達の収入は国家予算に並ぶほどの額となり、それがセレスのように6名の共同での生活となれば、世界でも有数の敷地を持った屋敷を簡単に建てる事が出来る。


「あっ、セレス!その人達が昨日言ってた人?」


 屋敷の庭に入ったセレスに1人の少女が話しかけてきた。

 セレスと違い少しくすんだ金色の髪を後ろで束ねた少女はセレスへと駆け寄ってくる。


 走る姿からその少女が明るい性格であるのがシン達に理解出来る。

 ナナと変わらない年齢と思われる少女の後ろからもう1人同じくらいの少女が姿を見せた。


 くすんだ金色の髪を持つもう1人の少女は先にセレスに駆け寄った少女と瓜二つであるが、後から来た少女は正反対に落ち着いて静かな雰囲気を感じる。


「この人はララさん、後から来たのはルルさんです。こう見えて私より年上なんですよ」


「えっ⁉︎」


 ナナやシーナに対するように頭を撫でていたユナはセレスの言葉に驚きの声をあげる。

 完全に妹のように扱っていたユナは思わず手を離し、シンの後ろに隠れてしまう。

 まさか年上と思っておらず、恥ずかしさもあり近くに居づらくなったのだ。


「失礼な人達ね、アイナに会わせるのは反対よ」


「そんなことないですよ、ルルさんは他人に厳しすぎです」


 ルルと呼ばれた少女にセレスが咎めるように言う。

 ムスッとした表情を見せるルルはとてもシン達よりも年上には見えない。


「まあ良いじゃん、ルルも落ち着いて」


 ララとルルは見た目と違い血のつながりはないようだ。

 ルルは不機嫌さを抑え、シン達を迎え入れる。

 彼女達もアイナの事は心配しているので、呪いの手掛かりとなるシン達の事は最初から歓迎するつもりだった。


「早く中に入りなよ!」


 ララはシンの後ろに隠れたユナの手を引き、屋敷の中へと入る。

 屋敷の扉は不思議な事にララが近付くとひとりでに開き、シン達はそのまま中に案内される。


「ララさんは魔術師、ルルさんは治癒術師です。2人とも巷では賢者と呼ばれているんです」


 セレスの話では2人ともSランクの名に相応しく、地形を変動させるほどの大規模術式を用いる事もでき、”双蒼の烈刃”の中でもアイナと並んで中核を担っているようだ。


「久しぶりだね、元気だったかい?」


 屋敷の中に入ったシン達に森の世界であった大柄な女性が話しかけてくる。

 部屋の中で筋力トレーニングをしていた大柄な女性はガレイと呼ばれ、セレスに鍛錬場所を変えるよう言われている。

 休暇中でも欠かさず鍛錬するガレイの肉体は女性とは思えないほど筋肉が肥大しており、彼女が戦士であろう事がすぐに判断出来る。


「アイナの部屋に食事を持って行くのはもう少し後です。それまでここでお待ち下さい」


 何がきっかけでアイナの呪いが暴走するかわからないため、事前の話で食事を持って行く時にアイナの部屋へと向かうと決めていた。

 セレスに案内され席に着いたシン達のもとにまたも新たな人物が近づいて来た。


「アイナちゃんをよろしくね、私達も色々したけど意味なかったのよ」


 露出の大きな服装をした女性はシンとロイズを誘惑するように行動している。


「いだっ!」


 大人の色気に鼻の下を伸ばしていたシンをユナが無言で殴りつけた。

 大人の色気を出す女性からシンを守るようにユナは間に入り込んだ。


「ミアさん、そういう事は今はしないでください」


 シン達を誘惑するミアと言う女性をセレスが咎める。

 今回シン達を招いたのはアイナの為だ。

 ミアが多数の男性を屋敷に招いているのは知っているが、今はそんな事をしている時ではない。


「セレスちゃんももっと女を出してもいいと思うんだけど」

 

 反省をしているのかわからない態度でシンからミアは離れていく。

 彼女は”双蒼の烈刃”の中で主に諜報や罠の感知など戦闘以外の部分を担当していた。

 戦闘力は低いが男を手玉に取る彼女は様々な面でパーティーを支えていた。


「アイナちゃんの食事はまだかかるわ、皆さんも食べていったら?」


 ミアは調理の担当もしている。

 当然休暇中でも彼女が全員の食事を用意していた。


「全員性格とかバラバラなんだな」


 セレスは育ちの良いお嬢様といった印象だ。

 ララとルルは見た目通り子供のようであり、ララは元気に、ルルは無愛想に過ごしている。

 ガレイはまさに筋肉馬鹿といった印象で、ミアは男を誘惑するような立ち振る舞いをしている。


 誰1人として似たような性格をしておらず、こうして共同で生活し冒険者として活動しているように見えなかった。


「私達は元々違う仲間とパーティーを組んでいましたの。全員が氷の世界に他の仲間と来たのですが、そのパーティーがこの世界に対応出来なかったのです。冒険者としての活動に限界を感じていた私達をこの世界に1人で来ていたアイナが仲間になれと集めたのが双蒼の烈刃なんです」


 元々セレス達が組んでいたパーティーは氷の世界の難易度について行けず壊滅しかけていた所をアイナが救い、仲間として活動を始めて現在に至る。


「ほら、出来たよ」


 厨房からミアがアイナに渡す料理を持って来た。

 セレスはそれを受け取るとシン達を連れ屋敷の奥へと向かう。

 7階建ての屋敷は2階から上は1人1つの階を使用しており、アイナの使っているのは最上階であった。


「ここがアイナの作った封印部屋です」


 セレスに案内された扉にはシンが見た事もない文字が書き込まれており、黒い文字に埋め尽くされた扉はそれだけで不気味な存在感を放っている。


「妾にも見た事のない文字だの」


 アイナの作った封印の文字は魔王であるティナにも知らない文字であったらしく、彼女はその文字を解明する為に考え込む。

 だが答えは出なかったらしくシン達に首を横に振る。


「それに、魔術的な気配も感じない。封印など効果のあるように思えんのう」


 この扉から不気味な気配は感じるが、それは見知らぬ文字が埋め尽くされている事によるものだ。

 ティナの言う通りにこの部屋からかつてウェンズ共和国で感じたような気配は感じない。


「どの方にこの部屋を見せても同じ反応でした。ですがアイナはこの部屋で暴走を抑えているのは事実なのです」


 アイナの封印は様々な学者やララやルルを始めとした魔術師達が調べているが、全員がティナと同じ見解を示していた。


「どういう意図があるのか本人に確認したいが出来んしのう、どうしたものか」


 部屋の前まで来たもののアイナの呪いに対する手がかりは掴めそうにない。

 封印の仕組みと思われる文字も誰にもわからないのでは解明のしようがない。


「アイナ!ここに置いておきますよ!」


 中にいるアイナにセレスが大きな声で食事を持って来た事を伝える。

 中から返事はないが、これまでアイナが食事を欠かした事がないので気にせずにセレスは部屋から離れる。


「どうしたのよ?」


 セレスと共に下への階段を降りていたシンは急に立ち止まり、その場に座り込んだ。

 それに気付いたユナが声をかけるが、シンはジェスチャーで静かにするように伝える。


「食事をするという事は部屋から出てくるはずだろ?セレスさんには悪いがここで隠れながら様子を伺って見よう」


「暴走したらどうするのよ」


 ヒソヒソと話すシンにつられてユナも声をひそめる。

 口ではそう言いつつもこういう行動が嫌いでないユナはシンと共にその場に座り込む。


「まだ、来ないか」


 しばらく廊下に置かれた食事を取りに来る様子はない。

 だがセレスの話では必ず食事をする事はわかっているのでシンとユナはじっとその場で見守り続ける。


「あっ!」


 小さく声を上げたユナの指の先には桃色の髪が見え始めていた。

 だがその方向がおかしい。

 アイナが現れたのは封印部屋の反対にある扉からだ。


「眼帯をしていない?」


 少ししかアイナの顔を見る事が出来ないが、眼帯をしている様子がない。

 アイナは魔眼の制御に難があるはず。

 暴走の危険がある以上眼帯を外すなどありえない。


「むっ?何者だ!」


「やばい、見つかったか!」


 突然、食事に向かっていたアイナが声を上げシン達の方に振り返る。

 完全に気配を殺していたシンとユナは不意をつかれた形となり、焦ったように階段を降りる。


「げっ!」


 階段を降りていたシンとユナの目の前にアイナが姿を現した。

 丁寧に階段を降りていたシン達と違い、アイナは上の階から飛び降りたのだ。


「また会ったな導かれし者よ」


 呪い、魔眼、左腕、全ての封印をしていないアイナにシンとユナは引き摺られ、暴走に巻き込まれる可能性に恐怖しているシン達だが、必死の抵抗もアイナに力で抑え込まれ部屋へと連れ込まれた。


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