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プロクラトル  作者: たくち
森の世界
71/205

本戦開始

 シン達が本戦を決めた二次予選は他の組でも次々と本編への進出者を決めていた。

 シーナの注意するロイズは一次予選と同じく敵の攻撃を吸収し自身の強化を行って他の候補者達を一掃した。


 メリィと未だ名前すらわからない存在感を感じさせない男の組では、メリィがその極炎鳥の能力により炎の息吹で候補者を次々と戦闘不能まで追い込んでいた。


 そんな中でも存在感を一切感じさせなかった男はメリィからも標的になる事はなく、2人が最後まで残った。

 男の存在にメリィも終了と責任者が宣言してから気付いたのだろう。

 驚いたような表情で男を見ていた。


「メリィさんでも気付かなかったんですね」


 メリィの実力を知っているシーナは驚きの声を上げていた。

 彼女にとってメリィは格上の存在だ。

 そのメリィにも気付けなかった男の事に恐れを感じていた。


「シーナ、心配ない」


 そんなシーナにナナが自分に任せろと言う。

 基本的に無表情な2人は気の合う所があるのだろう。

 シーナとナナは普段も一緒にいる事が多い。


「組み合わせ次第だな」


「ええ、競技内容によっても対応を変えなくてはなりません」


 ロイズについてはシンが、存在感の無い男にはナナがそれぞれ対応したい所だ。

 だが本戦の内容次第では他の者が戦う事になる可能性がある。


「本戦の形式は明日発表になります。本戦まで1日の準備期間があります。短いですがその中で対策を練るしかありません」


 **


「本戦の形式はトーナメント式になります。16名の候補者様達には先鋒、次鋒、中堅、大将の4名を代表とした一対一の戦闘で勝敗を決して頂きます。大将戦を終えた時点で勝敗がついていない場合、候補者様の相棒となった生物での戦いで勝敗を決めます」


 本戦へと進出したシーナ達候補者に伝えられた内容はシーナにとっては若干不利になる内容だった。

 シーナはまだ使命を果たしていない為、相棒となる氷狼はまだシーナと混ざったままだ。


 仮に大将戦までに決着をつけられなかった場合はシーナ達は戦う事が出来ず不戦敗になるだろう。


 シン達の下へと戻ったシーナは本戦の形式を伝える。


「一対一ですか、相手の順番を読み間違えると最悪1つは捨てなければなりませんね」


 本戦の戦闘順はリリアナに一任された。

 彼女は戦闘には参加出来ない、その為全体の指揮をとる事になった。


「まず、当たるのはロイズですね。彼にはシン様に担当して頂きたいですが順番を間違えると不味いですわね。他の方達では相性が悪すぎます」


 ロイズは吸引闇虫の力で武器や魔術は通じない。

 武器は吸収され使えなくなり吸引闇虫に絡め捕られたら人間の体力を奪われる。

 魔術や魔獣の力も同様だ。


 ユナならばそのスピードを活かして何とか吸収される前に倒せる可能性はあるが、エルリックやナナには天敵となりうる。


 エルリックとナナは武器を基本で攻撃する。

 エルリックにユナほどのスピードは無いし、ナナは創り出した武器は魔術により生み出された物だ。

 武器の想像に使用した魔力はそのままロイズの力になるだろう。


「その次はおそらくあの気味の悪い男ですわね。一対一であれば何とかなる可能性もありますが」


「いや、それは無いだろう。俺達はあいつと控え室で会ったけど声をかけられるまで全くわからなかった。これまでの戦闘を見るにそれは一対一でも変わらないだろう」


 ロイズに直接会ったシンはリリアナの考えた事をすぐさま否定する。

 あの時の相対を思うとあれは存在感がない所の話ではない。

 一対一の戦いでは何も出来ないまま敗北する可能性が高い。


「リリアナ様、もしもの時は私をお使い下さい」


 その事にエルリックが自分が捨て駒になると申し出た。

 彼はリリアナを除いたこの中で1番弱いと自覚している。

 勝利の為に犠牲になる覚悟も彼は持ち合わせている。


「リリアナ様、心配いりません。死ぬ事はないのです」


 死なないとエルリックは言うがリリアナはそれでもエルリックの身を案じている。

 ミアリスの指輪をリリアナは自らの指を少し切った。

 だがその少しでもリリアナは苦痛を感じ、再度指を切ろうとしたら痛みへの恐怖で体が上手く動かなくなってしまった。

 エルリックが受ける事になる痛みはその比では無いだろう。


「リリアナ様、私は戦いに慣れているのです。多少の傷など気になりません」


 エルリックを捨て駒にする事を躊躇うリリアナに再度エルリックは覚悟を告げる。

 彼の迷いのない瞳にリリアナにもその覚悟が伝わった。


「わかりました。ですがそれはもしもの場合のみです」


 そのもしもを起こさせないのがリリアナの役目だ。

 確実に勝利をする為に彼女もこの獣王選定に力を入れなくてはならない。


「とにかく次で負けたら終わりだからな、油断は禁物だ」


 シンが最後を締め、本戦前の話し合いは終わる。

 今までに実力を隠している敵の存在も否定出来ない。

 思わぬ所で足をすくわれてはシーナを獣王にする事は叶わないのだ。


 **


「お前が先鋒か?あの2人ではないのだな」


 本戦1回戦の先鋒はエルリックだ。

 対戦相手の男は大柄な獣王候補者だ。

 エルリックが先鋒として出て来たのを見て男はエルリックに話しかける。

 男が見ているのはエルリックでなくシンとユナがいる所だ。


 二次予選を見ていたのだろう、シンとユナが圧倒的な強さを持っている事を知っている。


「君の相手は僕だぞ」


 舐められている、男の態度にエルリックはそう思われている事がすぐにわかった。

 確かにエルリックはシンやユナに遠く及ばない。

 だがその領域に至る為にこれまで鍛錬を続けている。


 男の態度はエルリックにとっては許し難い。

 相対している敵に眼を向けないなど戦場ではあり得ない。

 兵士として生きてきたエルリックには考えられない事だった。


「エルリックは大丈夫だよな?」


「心配ない、妾が指導をしたのだぞ」


 エルリックの鍛錬にシンは付き合っていた。

 だが途中からティナがエルリックの指導を申し出たのだ。

 魔王の指導であればシンと訓練するよりも何倍も良いとシンは考えたが少し心配な部分もあった。


 ティナは魔王だがその力が強大である為、ティナがまともに訓練などした事があるのか疑問に思ったのだ。

 任せろと言われたからには反論出来なかったが、ティナの戦闘はその身に宿る膨大な魔力を使っての力押しだ。

 力の弱い人族には真似が出来ない。


「シンはもう少しエルリックの力を上に見るべきだ。妾には遠く及ばんが奴は人族にとって天才と評されるに値する」


 ティナの言葉と同時に先鋒戦が開始した。

 対戦相手の男はハンマーのような物を魔導具の袋から取り出し構える。

 すると構えた男の体が薄くオーラのような物が包み込む。


「あれは、テテノルか?」


「テテノル?」


「ああ、水の世界にいる魔獣だ。体の周りに膜を張り自身にかかる水の抵抗を軽減する。おそらくその応用で体にかかる空気抵抗も減らすのだろう。多少は行動が早くなる」


 テテノルは水の世界に住む魚類の一種だ。

 ティナの説明の通り体に張った膜で水流などを無効化し外敵から逃げる事に特化した魔獣である。


「速いな」


 ティナの言葉通り対戦相手の男の動きは素早い。

 重鈍な武器であるハンマーを軽々と振り回している。

 エルリックもその動きの速さに初めは違和感を感じ対応が遅れたが徐々に男の動きについて行くようになる。


「おらぁ!」


 だが男の攻撃は重い。

 槍とハンマーでは重量差が大きく防ごうにも軽く弾かれてしまう。


「このままだと追い詰められるぞ」


 使命を果たした者は通常の人間よりも大幅に身体能力が増幅する。

 混ざっていた生物によって向上の幅は増減するが、もともとこの世界の住人は他の世界の人間よりも身体能力は優れている。


 エルリックのように他の世界の人間は基本の能力がこの世界の住人よりも劣っているのだ。

 それに加えて相棒となった生物の能力まで森の世界の住人は使用出来る。

 エルリックの不利は誰の目にも明らかだ。


「心配するでない。妾の指導はその程度では埋まらんぞ?」


 ティナの言葉の後にエルリックの戦いに変化が訪れる。

 勝負を決定付ける為に大振りにハンマーを振り下ろす男にエルリックは槍で応戦する。


「魔槍飛燕流四の型、流槍」


 振り下ろされたハンマーはまるでエルリックを避けるように動き、地面へと突き刺さる。


「何だ⁉︎」


 対戦相手の候補者はエルリックにトドメを刺すはずのハンマーがエルリックに躱された事に驚愕する。

 その隙をエルリックは見逃さない。

 地面に埋まったハンマーを引き出そうとする男に槍の一撃を放つ。


「魔槍飛燕流一の型、燕牙槍」


 エルリックの得意技であった槍による突きは、エルリックの気が纏われ敵に突き刺さる。

 槍の刃先でなく棒先で放たれた突きに敵は体をくの字に折られその場に崩れ落ちる。


「今のは?槍に何か纏ってたぞ?」


 シンの目にはエルリックの槍が何かに包まれているように見えた。


「あれは魔気、エルリックにはそれを扱う素質があった?」


「魔気?」


「妾も使っておったろう?エルリックは自分でも知らんうちに微量だが纏っておった。まだ扱いきれておらんが、完全に使いこなした時エルリックはシン達に並ぶぞ?」


 魔王の扱う魔気をエルリックは自然と身に付けていた。

 魔気は魔族ならば誰でも使えるが、人族に使える者はほとんどいない。

 初めてエルリックが魔の気を発したのは、砂の世界で”幻視槍”との戦いに赴く際だ。

 あの時”幻視槍”がエルリックから感じた気配はエルリックも知らないうちに発していた微量の魔気であった。


「魔槍飛燕流もまだ基本の4つしか扱えん。7つの基礎の型をものにして、派生技まで覚えるのは並大抵の事ではないがエルリックなら可能だ」


 もともと鍛錬を欠かさない継続力に、己を追い込む精神力もエルリックは持ち合わせている。

 魔槍飛燕流をいずれかはものにするとティナも明言している。


「なんとか、勝つ事が出来たよ」


 額の汗を拭いながらエルリックはシン達の下に戻って来る。

 魔気の使用は人のエルリックには負担が大きい。


「次は私ね」


 エルリックの戦いにユナも負けじと奮い起つ。

 彼女も黙ってエルリックに追い付かれる訳にはいかない。


「お疲れさん」


 エルリックに飲み物を渡しシンは労いの言葉をかける。

 シンもエルリックの成長が嬉しいのだ。


「魔槍飛燕流を使うつもりはなかったんだが、思っていたより相手が強かった」


 エルリックは勝利に浮かれることなく戦いの反省をティナとする。

 向上心はシン達の中でも高いエルリックだ。


 そんなやり取りを見ているとユナが戻って来る。

 対戦相手はその場から動く事も出来ず開始と同時にユナに一撃を貰っていた。

 つまらなそうに戻って来るユナにお疲れとシンは言い闘技場へ向かう。


 シンもユナに習って一撃での決着を付けようとする。


「あれっ?」


 開始と同時に背後へと回り込み敵の後頭部に手刀を叩き込んだ。

 かつてシンがいた世界で有名な攻撃で相手を気絶させるはずなのだが、シンの手刀に相手はダメージを受けるが倒れなかった。


 だが相当なダメージは受けたのだろう。

 敵はふらつきまともに戦いは出来なかった。

 もう一度手刀をシンは叩き込むがまたも敵の意識を奪う事は叶わず、諦めて蹴りを放つ。


 腹部へと放たれたシンの前蹴りに男は防御を出来ず、その場でうずくまりシンの勝利が決まる。


「失敗か、何が悪かったんだ?」


 一撃で仕留められなかった事に不満を持ちつつもこれで2回戦への進出が決まった。

 次は恐らくロイズとの対戦だ。

 この先の本戦が厳しい戦いになる事は間違いないとシンは考えている。


「あんた、何がしたかったのよ」


 シンの手刀をユナは疑問に思っていた。

 あんな事をするより最初から蹴りや拳で攻撃すれば良かったのだ。


「いや、俺の故郷に伝わる相手を無力化する技なんだけど、俺には出来なかった」


 技の内容をユナやティナに説明するシンだったが、ユナにはそんな事する必要あるの?と言われてしまった。

 カッコいいとシンはユナに主張するが、手刀なんかするヒマがあるなら武器で相手を攻撃した方が楽じゃないと彼女は主張するのであった。

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