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プロクラトル  作者: たくち
森の世界
52/205

エルリックの存在

「エルリック、ちょっと手伝ってくれ」


 野営の為携帯用の宿泊用具を展開させようとしていたシンであったが男女で2つ用意する事もあり1人では難しかった。

 その為エルリックに補助を申し出ていた。

 力仕事なので女性陣に頼むのはシンのプライドが許さなかった。


「ちょっと待ってくれ、今日の肉を保存しておきたい」


 答えたエルリックの方を見るとナナの捕らえたリユーの肉を魔導具を使い干し肉に加工する姿が見えた。

 あと少しで処理が終わりそうなのでシンは待機する事にした。


「エル、お腹すいた」


 だがそんなエルリックにナナは食べ物の催促をしていた。

 エルリックの料理の腕をナナは気に入った為よく食べ物をよこせと話かけている。


「ナナさん、ではこれをお食べ下さい」


「ありがと」


 ナナの体質を知っていた為用意していたのだろう。

 保存食にエルリックが手を加えた物がナナに手渡された。


「ねぇエルリック、これはどうやって使うのよ」


 ナナが離れると今度はユナがエルリックに携帯入浴装置の使い方を習いにやって来た。

 リリアナも一緒にいるので女性陣は先に入浴をするのだろう。

 この入浴装置は空間魔法の使い手が小さなスペースだが隔離された空間を生み出せる事を利用し開発されたセットである。

 この入浴装置はかなり高額なのだがリリアナは王国の資産で購入していた。


「これはどこか壁になるところにこの装置をくっ付けて下さい。そうするとそこから入れるようになります。」


「わかったわ」


 エルリックの説明を聞きユナは大きな木に装置を設置する。

 すると装置から光が溢れ中にユナが吸い込まれるように入り込んだ。


「エルさん、明日の予定なのですが・・・」


 ユナが離れ再度保存食の加工に入ろうとしたエルリックに今度はシーナが話しかける。

 世界樹への案内はシーナに任されているが休憩場所や野営地の選定など地図を広げて話し合っていたのだ。

 シーナもこの短い期間でエルリックの計画性の良さがわかったので旅の予定はエルリックに相談する事にしていた。


「急ぎ過ぎではないですか?もう少し1日の移動距離を落としても問題ないでしょう」


 暫く話し合い大まかな今後の予定は決まったようだ。

 エルリックが空いたのを見計らいシンはまた手伝いの催促をする。


「エルリック〜早く〜」


「もう少しだけ待ってくれ」


 まだ保存食の加工は時間がかかるらしい。

 他のメンバーがエルリックを頼らなければもうとっくにシンの手伝いに来ていただろう。


「エルリック、入浴前に着ていた衣服はどうすれば良いのです?王城ではメイド達に任せていたのでわからないのです」


 すると今度はリリアナがエルリックに話しかけてくる。

 王女であったリリアナは身の回りの世話を全て使用人達が行っていたので、普通の事でも何をすれば良いのかわからないのだ。


「リリアナ様、着ていた衣服は洗濯をするのです。汚れが付いていますからそれを洗い流し乾かす事でまた使うのです」


「わかりました。それではその洗濯と言うのをして来ましょう。ティナさん行きますよ」


 一緒に入浴していたのだろう。ティナと共に洗濯に向かおうとするリリアナだが


「妾の衣服は妾の魔力で作られているがゆえ汚れなどせん。必要ないのう」


 ティナには断られてしまう。

 だがリリアナ1人に行動させるのは危険だ。


「この辺りに生物はおらんの。リリアナ、何かあったら妾が助けを呼ぶ。これから必要になる事だ、覚えてくるが良い」


 ティナに安全と言われたリリアナは1人で洗濯に向かう。

 ティナの言葉に安心したエルリックはまたも加工に取り掛かる。


「ふう、中々良いお風呂じゃない。あっエルリック!何か甘い物食べたいわ」


 今度は入浴の終わったユナがエルリックに食べ物をよこせと催促する。

 魔導具の袋から甘いクッキーと飲み物をユナに渡すエルリック。


「エル君、私も」


 先ほど渡された食料を食べおいたナナが同じ物をよこせと催促する。

 断れないのでエルリックはナナにもクッキーを渡した。


「エルリック、わたくしそろそろ就寝したいのですがまだなのでしょうか?」

 

「エルさん、世界樹までの道で伝え忘れた事があるのですが」


「エル君、おかわり」


「エルリック、訓練してあげるわ。武器出しなさい」


「お前らぁ!良い加減しろ〜!」


 エルリック、エル君、エルリック、エルさんと次々と声が掛けられる。

 遂に待ちきれなくなったシンは叫びを上げた。


「全員集合!よし揃ったな、お前らエルリックに頼り過ぎだ、少しは自分の力でやろうとは思わないのか!」


 そう言ったシンもエルリックを頼っていた1人なのだがこの際は関係なかった。

 役割分担は決めたと思っていたが甘かったのだ。


「このままだとエルリックの負担が大きすぎる。いざエルリックがいなくなった場合に成り立たないぞ」


 シンの主張は間違っていない。

 このままではエルリックが深手を負った場合など対応出来なくなる。


「そんな事言ってるけどシンだって野営の準備出来てないじゃない」


 だがユナに反論をされてしまう。

 確かにシンは自分でやると言った野営の準備が出来ていない。

 だがエルリックに手伝って貰う予定だったがそれを送れさせてるのは他の者達だ。


「ではもっと細かく決めよう、野営の設営は1人では時間がかかる。それは男の俺とエルリックがやる。次は洗濯だ、誰かやりたい奴居るか?」


 有無を言わせず先に話を進めるシン。

 まずは洗濯だ、シンとエルリックは自分の分は各自で洗濯するがさすがに女性陣の衣服の洗濯は出来ない。

 だがそれが出来るならこんな事にはならなかった。


「私とナナは洗濯とかはクレアとかにして貰ってたから出来ないわ」


「妾もさっき言ったが出来んぞ?それにこの体ではやれる事も少ないであろう」


 ユナとナナはアウトだ。

 ティナはそもそも自分の分は必要ないしその小ささでは何も出来ないだろう、ナナのおもちゃとしての仕事しかない。


「シーナは出来るか?」


 残った中で出来そうなのはシーナ位だ。だがシーナにも断られてしまう。


「私もティナさんと似たような感じね。氷狼の力で私に触れようとする物全部凍らせるの。だから洗濯とかはした事がない」


 ほらね、と言いながら近くにいたナナに土を投げさせた。

 するとシーナに当たるかと思われた土の塊は直撃せずにシーナの体から溢れ出た氷が盾となり土の塊は空中で凍りついた。

 まだ混じり者のシーナは上手く制御出来ないらしいが自分に降りかかる砂埃や塵などは全て目に見えないほど小さな氷となり衣服が汚れる事はないようだ。


「では、わたくしが担当しましょう」


 残ったのはリリアナだけなので消去法でそうするしかないだろう。


「洗濯は覚えたのか?」


 先ほどで賢いリリアナなら覚えただろうとほぼ確信していたシンだったが完璧と思われるリリアナにも出来ない事はあるようだ。


「ええ、ご覧下さい。」


 笑顔でリリアナが取り出したのはカピカピに固まったリリアナの服であった。

 ラピス王国の最高級の衣服は水で洗われた直後の丸まった状態で乾燥の魔導具が使用されたのだろう。

 柔らかで肌触りの良かった衣服はガチガチに固まりミシミシと音を立てていた。


「洗濯は済ませたのですがまだ固いですね。また着るときになれば元に戻るのでしょう?」


「リリアナ、後でまた洗濯の仕方を教える」


 完璧と思われるリリアナの欠点は料理以外の家事全般である事がすぐさま理解出来たシンは正しい洗濯を教える事にした。

 リリアナならばしっかりと教えればちゃんと仕事が出来るようになるはずだ。


「ではシン様とエルリックもわたくしに洗濯をお任せ下さい」


「リリアナ様、私は自分で洗濯が出来ます。失礼ですが遠慮させて頂きます」


 リリアナの言葉にエルリックは逃げた、そう確信したシンは同じく断りを入れる。


「ではシン様はお任せ下さい」


「いや、リリアナ。俺もじぶ「お任せ下さい」」


 そこまで言われたらもう断れない。

 正直自分の衣服をリリアナに洗われるのは少し恥ずかしいがやる気を出しているのだ、我慢すべきだろう。


「では、エルリック以外の洗濯はわたくしが担当です」


(よし、エルリックならばわたくしに洗濯をさせるはずがありません。これで堂々とシン様の衣服を管理出来ますわ。さすがはわたくし、完璧な作戦ですわ)


 リリアナが心の中でガッツポーズをしているなど知らずシンは話の続きを始めた。

 それぞれに担当を割り当て今度こそ完璧に役割分担を決めた。


 夜が更けていた為シン達は就寝した。

 だがシンは中々寝付けず外の空中を吸おうと野営設備から出た。

 すると暗い森の中で槍を構え訓練するエルリックの姿があった。


「おや?寝ていなかったのかの?」


 すぐそばにいたティナにシンは声をかけられた。

 魔王は睡眠をする必要が無いらしくその能力を利用して夜は監視の役目を引き受けてくれたのだ。


「エルリックは訓練か?」


「そうだ、あの者は中々に見上げた奴だの。今の自分ではシン達の戦闘で足手纏いになる、シン達の休む間も鍛錬しなければ並んで戦う事は出来ないとああやって鍛え始めたぞ」


 生まれ持った才能に奢らずエルリックはひたすら努力を続けている。

 もう十分役に立っているがまだまだ物足りないとひたすらに槍を振り、トレーニングを欠かさないのだ。


 この日はエルリックの訓練が終わるまでその姿をずっと見つめていた。

 頼りになる友人の姿がシンは誇らしかった。


 *******


「シン、そっち行ったわ!」


 ユナはシンに獲物が向かったと告げる。

 獲物を捕え漆黒の大鎌で向かってきた獣の首を刈り取る。

 大鎌に首を刎ねられた獣は地面に倒れ込み血を流し込む。


 倒した獣の血抜きをし肩に担ぐ、最初は血抜きに慣れず苦戦したがすっかりこなせるようにシンはなっていた。


 狩りはナナとティナの仕事だがナナの人体改造の代償は食事の量だけでなく月に2日ほど寝込んでしまう事もあるようだ。

 その日はナナの魔力が安定せず満足に生活が出来なくなってしまうそうだ。


 赤姫にいた時は魔術師の団員がナナの魔力を安定させる為そばにいたそうだがシン達の中に魔術に精通しているのは魔王であるティナだけだ。

 その為ティナはナナに付きっ切りとなりユナとシンで狩りに出ていたのだ。


「ちょっと、消滅させたら量が減っちゃうじゃない!」


「あっ!すまん癖で使っちまった」


 漆黒の大鎌の能力を使ってしまうと鎌に触れた部分は残らず消滅してしまう。

 強力な力だが食料の確保には向いていなかった。


「おにぃさん、私も狩ってきたから大丈夫」


 歩いて来たシーナの手には氷の矢に撃ち抜かれた3羽の鳥が紐で縛られ持たれていた。

 シーナは氷混じりあった狼の力で氷の弓矢を作り武器としていた。

 氷狼の力で通常よりも強力に繰り出される弓矢はほぼ矢が尽きる事はない。


 戦闘においてもシーナは強力な存在だ。

 混じりあった氷狼によりシーナの嗅覚と聴覚は人間の何倍にも優れており外敵の存在にすぐさま気付く。

 さらに氷狼の力で空気中の水分すら氷結させたり出来るので壁を作り出し防御したりする。


 氷狼は氷の世界でも最上位の魔獣でありシーナ本人も当たりと評するほど強力な存在だ。

 シーナは使命を果たしていない為まだ完全に使いこなせないが氷狼の力が自分の物となれば辺り一面を氷の世界にするほどになるそうだ。


 一定範囲内の水分は氷狼の力で全てシーナの武器になる。

 使命を果たした時、シーナは自身の力の及ぶ全ての空間を氷で支配出来る。


 今ですら遠距離攻撃ではシーナはティナを除く全員よりも優れている為氷狼の力を物にしたシーナは世界でも有数の戦闘力を持つ事になるだろう。


「じゃあ戻るか」


 シンの言葉でユナとシーナも休憩場所へと戻る。

 リリアナのペースに合わせている為世界樹まではまだ半分ほど距離がある。

 だが最初の一件以来、集落に立ち寄らずに進んでいる為当初の予定よりは早い。


 世界樹攻略へのシン達の道のりはまだまだ長い。

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