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プロクラトル  作者: たくち
砂の世界
36/205

主役は遅れて登場する

「そんなことさせないわ」


 序列4位”風帝”ニグル・ウィーゲにユナは、その手に持つ真紅の刀を向け言い放つ。

 突然の襲撃に皇国軍の騎士達は戸惑う。

 だが、ニグルだけは落ち着き戦闘体制に入っていた。


「武器が変わったな、それで俺に勝てると思っているのか?」


 ”風帝”ニグルは、真紅の刀を持つユナに問いかける。

 前回の戦いでは二グルは、ユナを殺し損ねた。

 その時はニグルはユナの力を探る為、手を抜きその上で圧倒した。

 だがユナにとっては都合良く皇帝の死の報告が入り、トドメを刺せなかったが、ユナを完全に打ち負かした事実は変わらない。


 武器が変わっただけでは埋まらない実力差をニグルは理解している。


「この人数だ、お前に勝ち目はない」


 言葉による返事はなかった。

 荒野に閃光が走る、真紅の刀はその刀身の過ぎ去った場所に赤い一筋の光を残した。


「何⁉︎」


 神速の一振りをニグルはギリギリで回避する。

 風を操り上空へと跳躍する。

 だが、反応出来たのはニグルのみであった。


 前列に並んでいた皇国軍の騎士達は、赤い閃光に斬り裂かれる。

 騎士達の体は閃光の過ぎ去った場所からズルリと滑り地面に叩きつけられる。


 まだ、ユナの攻撃は止まらない。

 上空へと逃げたニグルを追う為、地面を蹴り飛ばす。

 踏み込まれた地面は陥没し、ユナの体は一瞬でニグルに追い付く。

 そして空中で一閃、真紅の刀はニグルの体を斜めに斬り裂く。


(浅い!)


 踏み込みが出来ない空中での袈裟斬りに手応えは感じなかった。

 振り終えた体を無理矢理回転させ追撃を放つ。


 だが、ただ斬り裂かれるニグルではない、すぐさま剣を取り出し、真紅の刀の軌道に滑り込ませる。


「っが!」


 しかし、ニグルの予想以上にユナの攻撃は重かった。

 刀を防いだ衝撃で、ニグルは吹き飛ばされる。

 落下の直前なんとか風の魔術で体制を整える、だが落下の衝撃まではなくせない。


 地面との衝突にニグルの体は硬直する。

 そしてその隙を見逃すユナではない。


 少し遅れて着地し硬直するニグルに突き進む。

 だがニグルへの接近を拒むように、炎の壁が2人の間に出現する。


「魔術か!」


 ここで戦闘体制を整えた皇国軍が戦いへと参入する。

 魔術師達が炎と土の塊を放ち牽制する。

 魔術を回避したユナだったがすぐさま騎士達が襲いかかる。

 迫り来る剣を躱し、一閃。

 ただの騎士ではユナに攻撃を当てられない。最低限の動きで回避し、一撃必殺の攻撃を放つ。


 次第に倒される騎士達に、ニグルが下がるよう指示をする。

 そして、ユナに向かうのは砂の世界最強の部隊と呼ばれる風帝隊の隊員達。


 2人以上でユナに斬りかかる。しかし、さすがの風帝隊でもユナを捉えることは出来ない。


 攻撃を躱し反撃するユナだったが、魔術師達がその行動を許さない。

 攻撃を繰り出そうとするユナに魔術を放つ。


 舌打ちをして回避するユナ、だが回避した先には、すでに騎士達が待ち構えていた。

 反撃を許さない完璧な連携にユナに少しずつ傷が与えられる。

 無理矢理反撃を試みるユナだが、ニグルの繰り出す風の魔術による不可視の斬撃がユナに攻撃を許さない。


 徐々に追い詰められるユナは、地面を思い切り蹴り一気に距離を取るべく跳躍する。


 息が荒く、呼吸の音がうるさい。

 度重なる戦闘とニグル達の完璧な連携による攻撃を回避し続けた事で、ユナの疲労はピークに達していた。


『このままではジリ貧だ、今のおぬしの力ではワシをまだ使いこなせない。じゃが一瞬じゃ、一瞬だけ無理をする、ワシを魔術にぶつけろ、一度だけ魔術を打ち消す』


 ユナの頭に皇龍刀”契”が語りかける。

 一度だけ魔術を打ち消す。

 薄く赤い肌をした少女の姿を思い浮かべ感謝する。

 ニグルだけは、必ず殺す。


 疲労により力の入らなくなり始めた体に鞭を打ち真紅の刀を構え、走り出す。


 繰り出された炎弾を回避し、騎士を斬り裂く。

 確実に一撃で倒せる敵を標的に動き出す。

 だが、それを許すニグルではない。

 ユナの動きについて行けない騎士達を下がらせ、再度風帝隊でユナを抑え、ニグルも接近する。


 さすがに風帝隊の隊員を今のユナは一撃では倒せない、だがニグルはこちらに向かって来る。

 騎士達を攻撃すれば、それを嫌ったニグルが騎士達を下がらせこちらに来るのを予測したのだ。


 致命傷となる攻撃だけを回避し、自身もニグルへと肉薄する。

 だが決死のユナの突撃は、魔術により阻まれる。


 ニグルとの間に再度生み出された炎の壁、だがユナの進撃は止まらない。

 行く手を阻む炎の壁を真紅の刀で斬り裂く。


 斬り裂かれ消滅した炎の壁にニグル達は、何が起きたか理解出来ず硬直する。

 魔術を斬り裂くなど聞いた事がないからだ。

 突如激しい頭痛に襲われるユナだが、この隙を逃す訳にはいかない。


 地面を蹴り一気に距離を詰め、ニグルの眼前へと躍り出る。

 硬直するニグルに真紅の刀で斬りかかる。


 その刀はニグルの風の鎧を斬り裂き

 その刀はニグルの防具を斬り裂く


 ニグルの左肩から刃を進ませるべく、握力のほとんどなくなった腕に力を入れてる。

 動かない足に鞭を打ち必死に踏ん張りを見せる。


 恐るべき斬れ味の刀は肩を斬り裂き進む、だがニグルを斬り裂く事はなくその動きが止まった。

 ユナが、力を抜いた訳ではない 。


 硬直から立ち直った魔術師がニグルの肉体に土の魔術で鎧を作り出したのだ。


 一瞬真紅の刀が動きを止める、土の鎧ごと斬り裂く為さらに力を込めるが刀は動かない。

 連戦に次ぐ連携に、ニグル達とのこの戦い、そして皇龍刀”契”の力の行使で既にユナの肉体は持ち主のユナの命令を実行する力が残っていなかったのだ。


 力の込もらない刀をニグルの右手が掴む。

 その刀に血を流されながらも、肩に食い込む刃を押し出す。


 必死に抵抗するユナだがもう刀を握る力すら残っていなかった。


 肩から抜いた刀をニグルは弾き飛ばす。

 距離を取る為跳躍しようとするユナだったが、その足は鉛のように重く中途半端に下がり倒れ込む。


(また、届かなかった)


 ノエルを殺され、初めての屈辱的な敗北をきっした男にまたもユナの刀は届かなかった。


 ユナは確実に強くなっていた。

 一対一ならばこの男にも勝てただろう。

 だがユナの刀は届かない。

 男には仲間がいた、だがユナには仲間がいなかった。

 当然だ、戦場を飛び出し置き去りにして来たのだから。


 その置き去りにした仲間の差で、ユナは今地面に横たわっている。


 また、負けた。


 ノエルを殺され、愛する人を殺すと言った男に無残にもユナはまた敗北した。

 そして、今度は見逃される事はない。

 ユナの目の前にはあの時と同じく剣を掲げ、トドメを刺すべく歩み寄るニグルの姿。


 目を離す事が出来ない。


 死ぬのは怖い。

 もうあの仲間達と笑い合う事が出来なくなる。

 もうあの青年とも一緒にいる事が出来なくなる。


 それがわかると自然と涙が溢れてくる。


 死にたくない


 そんなユナの瞳は振り下ろされる剣を、涙で形を歪ませながらも捉えていた。



 そして、形を歪ませた視界に何かが入り込んで来るのも捉えていた。


 金属の撃ち合う音が聞こえた。

 何かが入り込んだのが先か、金属の音が先なのかわからない。


 でも1つだけ、わかった事がある。


 いつの間にかニグルと倒れ込んだユナの間に、人が立っていた。

 ユナを庇うように立ち塞がり、ニグルの剣を防いでいる。


 男だ、すぐにわかった。

 その顔は太陽の光で陰になり、よく見えない。

 その手には初めて見る身の丈ほどの漆黒の大鎌が握られ、ニグルの剣を防いでいる。

 だがその黒髪は知っている、何度も探し続けた黒髪だ。

 その黒い長衣も知っている、見間違える訳がない。


 大鎌を持ち腕を上げ裾のめくれた左腕にはいつもの着けている腕輪は無く、代わりに見えるのは鎌をモチーフに刻まれた紋章と3の数字


「もう、どこ行ってたのよ」


 震える唇は小さく、文句を言ってしまう。

 でも安心を感じられる声が出る。


「悪い、遅くなった」


 無の神ノアの代行者、序列3位の男がユナを守っていた。

 

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