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プロクラトル  作者: たくち
砂の世界
19/205

裏切り

 遺跡から帰還したシン達であったが、王都に戻るなりすぐさま別の場所へ向かっていた。


【エルリックの所属した部隊が皇国軍に包囲されている】


 王都に戻ったシンにリリアナからの通信が来たのだ。

その連絡を受けたシンはユナを連れ戦場へ向かった。


「死ぬなよ、エルリック!」


 エルリックはこの砂の世界に来て初めて出来た友人だった。

戦場へ向かうシンの表情はいつになく焦りを現していた。


「クレア!状況は知ってる?」


 シンとユナと一緒に向かっているのは赤姫ナンバー3のクレアだ。

彼女はその戦場に参加していた赤姫の団員から連絡を受けている。


「敵の伏兵に気付かず皇国軍に挟まれているようです。現在はサーニャ、イーナ、アリサ、ルノアの4名が戦線を支えているようですが長くは持ちません!」


「なんでその4人を選んだの!」


「すみません、王国からの要請でしたので」


「ユナ!どう言う事だ?」


「その4人はうちの後方支援担当なの!」


 サーニャ、イーナ、アリサは魔術師でもあり、メインの武器としているのは弓などの遠距離武器を使用していた。ルノアは赤姫の治療部隊の一員である。彼女達は赤姫にとっての生命線だ。


「まずいわ、早く行かなきゃ」


 シンにとってのエルリックのようにユナも赤姫のメンバーは絶対になくしたくない存在だ。

それを証明するように運転するバイクの速度を加速させる。


*******

 数時間前


「今回は大規模になりましたね」


 リーグ将軍の部隊に配属となったエルリックはリーグ将軍に話しかける。


「ああ、しかしなぜこのタイミングなんだ?」


 リーグには疑問だった。ここで大規模な戦を仕掛けてきた皇国の行動が理解出来なかった。


「ええ、共和国と王国の同盟はもう知っているはずです。しばらくは睨み合いになると思ったのですが」


 エルリックにも皇国の事は理解出来なかった。共和国が王国と同盟したため皇国側から仕掛けてくる事はないであろうと言う結論が王国軍の会議でも意見されている。


「しかしスーウェン将軍はなぜ赤姫から後方支援のみの要請にしたのでしょう?」


 今回赤姫から後方支援を要請したのはスーウェンという将軍だ。


「あのおっさんは赤姫を嫌ってるからな、下手に団長やらを連れ出されて手柄が立てられるのが嫌なんだろう」


 スーウェンは赤姫を気に入らない将軍の1人だった。参入当初から毛嫌いしまともに会議をしなかった1人である


「ですが、彼女達は前衛の赤姫あっての事だと思うのですが」


 エルリックでなくともわかる事だ。赤姫の武勇あってこその彼女達後方支援なのだが、逆でもある彼女達がいるからこそユナ達は活躍出来るのだ。


「決まった事を嘆いてもしょうがないだろ?そろそろ動くぞ」


 リーグの言った通り皇国が動き出す。


「帰ったら飲みに行くか?」


「ええ、将軍のおごりですからね」


 部隊に戻るエルリック、彼は久々の戦場に高ぶっていた。


「左翼敵を迎え撃て!」


 リーグの掛け声で戦が始まる。




「よし!今だ攻めろ!」


 戦は王国軍の優勢に進んでいた。

 赤姫のメンバーは後方支援とはいえ凄まじく、的確に弓や魔術で皇国軍の隊長格を狙撃し皇国に混乱を引き出していた。

 混乱した部隊にリーグ将軍の配下の部隊が確実にとどめを刺していき、王国軍の勝利は時間の問題だと思われている。


「報告!右翼にて皇国軍の伏兵が現れました!」


「何だと!スーウェン将軍は何をしている!」


 右翼にて展開していたスーウェンからは異常なしと報告を受けている。

先の戦でも皇国の増援を見つけられなかったため充分に警戒させていた。


「それがスーウェン将軍からの連絡が先ほどから途絶えています!」

「やられたのか?」

「いえ、確認出来ていません!」

「あのバカが!」


 つい悪態を吐くリーグ、スーウェンの事を認めてはいるが頭の固さから仲良くは出来なかった。


「退くぞ!全軍に撤退命令だ!」


 すぐさま撤退を支持するリーグ、彼は見た目と違い慎重な性格をしており不利と思えばすぐに撤退をする。その臆病さが彼を将軍まで上り詰めさせたが今回はその性格が裏目に出てしまう。


「エルリック一旦退く、ついて来い!」


 エルリックは指示に従いついて行く、リーグが向かうのは道の幅の狭い岩山の間だ。

 この戦の前に部隊にはこの場所から撤退すると命令を出していたので、リーグの配下達はスムーズに撤退していく。


 だが先頭を走るリーグには理解出来ない光景が見える。


「どこに行く、リーグ将軍」


 向かった先には先ほど行方不明のスーウェン将軍の部隊が待っていた。


「スーウェン将軍、どう言う事だ?右翼の伏兵はなぜ見つけられなかった」


 リーグはスーウェンに問いかける。だがリーグには意味がない事がわかっていた。


「質問を変えよう、スーウェンいつからだ?」

「どう言う意味ですか?リーグ将軍」


 リーグの質問にエルリックが答える。

 彼にもリーグの質問がわからない、だがスーウェンからはリーグの質問とは違う言葉が発せられる。


「慎重なリーグ将軍なら伏兵の到着で王国軍が不利になれば一旦退くのはわかっていた。そしてこの谷間の奥に陣取り、狭い谷間に皇国軍を誘き寄せ数の不利を覆そうとするだろうと」


 まさにリーグが考えていた通りの展開だ。

 だがここにスーウェンがいる事が先ほどのリーグの質問の答えになる。


「伏兵は嘘の報告だな、やられたぞスーウェン」


「リーグ、お前は俺を下に見ているからなそのツケが今のこの状況だ」


 現在リーグの部隊は後ろに皇国軍、前はスーウェンの部隊に挟まれている。

この狭い谷間では圧倒的に不利な状況だ。


「どういう、事なのですか?」


 エルリックは頭では理解していた。だが理解嘘だと信じたい想いがこの言葉を発する。


「エルリック、君は優秀だ、投降し俺の下へ付くならば殺さずにおいてやる」


 この言葉にエルリックはもう理解するしかなかったわスーウェンは王国を裏切ったのだ。


「スーウェン将軍、自分は王国軍の兵士です」


 そう答え槍を構えるエルリック、そしてその隣にリーグが並ぶ。


「お前らぁ!こんなとこでくたばんなよ!」


 リーグは自らの部下に叫び、士気を高める。

狭い谷間に男達の雄叫びがこだまする。


 だが圧倒的に不利の状況ではリーグ達でも覆せない、後方の皇国軍は赤姫のメンバーが立ち塞がり食い止めているがなかなか前方のスーウェンを退けられないのだ。


「エルリック、右に回れ!」


 リーグが指示しエルリックの部隊は右の敵に突撃する。

だがスーウェンの軍は大盾を前線に並べリーグ達の進軍を食い止める。


「性格悪いな!」


 時間を稼ぎ後方の赤姫が疲れるのを待つ作戦のスーウェンに悪態を吐く、だがスーウェンは挑発にも乗らずただひたすら耐える事を続ける。


 だが長期戦をするスーウェンと皇国軍の作戦が裏目に出てしまう。


 突然、戦場に赤い何かが乱入する、その赤は瞬く間に後方の皇国軍を殲滅する。

 その赤い何かが移動するたび同じ赤を周囲に撒き散らす、そして後方を支えていた赤姫のメンバーの前へと飛び出してくる。


「団長!」


 4人の叫び声が戦場に響き渡る、それは瞬く間に兵士達の間に伝わり誰もが瞳をその赤に向ける。


 赤姫団長、序列4位”剣姫”ユナ・アーネスがその燃えるように赤い髪をなびかせこれまた赤い身の丈ほどある刀を持ち皇国軍に立ちはだかる。


「待たせたわね、アーニャ、イーナ、アリサ、ルノア、もう下がっていいわよ」


 振り向き己の部下に話しかける。その姿は味方には勇気を、敵には恐怖を植え付ける。


「け、剣姫だ!撤退!撤退〜!」


 皇国軍の1人の隊長が撤退を始める。

 だがその撤退する先にはまたもや別の人影、銀色の髪を後ろでお団子状に纏めた女性が巨大な斧を肩に担ぎ皇国軍の撤退を許さない。


「クレアさん!」


 またもや赤姫のメンバーから声が上がる、その声に応えるようにクレアはその巨大な斧を皇国軍に振りかざす。


 理不尽な破壊が皇国軍を襲う。

 一振りで数十名の命を奪う圧倒的な暴力が戦場に降りかかり轟音がこだまする、その斧に吹き飛ばされた兵士が後ろの兵士にのし掛かり破壊は拡散して行く。


 そしてその反対側、谷間の入り口でも真紅の刀が鮮血を撒き散らす、圧倒的な斬れ味を誇る真紅の刀を手に目にも止まらない速度で戦場を駆け巡る剣姫により一方的な殺戮が繰り返される。


 後方に撤退すれば、理不尽な破壊に身体を破壊され、前方に進めば一瞬のうちに身体を斬り裂かれる。

一万はいたはずの皇国軍はその恐怖によりただの的に成り下がる。


「どうやら、運は俺たちを味方したようだな」


 その圧倒的な戦闘を見たリーグはスーウェンに向かって言い放つ、すでに王国軍の勝利は決まったようなものだ。


「スーウェン将軍、投降して下さい」


 エルリックも言葉を重ねる、だがここで投降する事をスーウェンはしない。


「投降したところで処刑されるだけだ、ならば最後まで抗おう」


 己の武器である剣を掲げ走り出す。


「私がお相手します!」


 エルリックが迎え撃つ、槍を構えスーウェンに突きを放つ。


「あなたには訓練にて鍛えて頂きました、その成果をお見せします」


 エルリックの鋭い突きがスーウェンに襲いかかる。

何度も繰り返し鋭さを増したエルリックの槍はスーウェンに近づく事を許さず傷を与える。


「フン!」


 だがスーウェンは防御を捨て、左手で槍を掴みエルリックに接近する。

剣の間合いまで近づき一閃、エルリックの脇腹に叩き込む。


 鎧が剣を弾くが衝撃により体制を崩すエルリック。

その隙を見逃すスーウェンではない、とどめを刺すべく剣を振りかざす。


「っぐぁ!」


 だがリーグの重槍がスーウェンを貫きエルリックにとどめを刺させない。


「悪いな、今は一騎討ちなんてやってる場合じゃないんだ。それにエルリックは王国軍の未来を担ってもらわにゃならない、ここで死なすわけにはいかない」


 貫いた重槍を引き抜き言い放つ、崩れ落ちるスーウェンはもう長くは持たない。


「ふっ、そんな甘い事を言うお前ではないだろう」


「わかってもらえるか、なんだが最後にようやくあんたと仲良くなれそうな気がするよ」


 リーグはスーウェンを見ながら話しかける、口から血を流しスーウェンは話しを続ける。


「どのみちこうなっただろうな、俺は」


「なぜ王国を裏切った」


「最初の質問に答えよう。いつからだったな、答えは最初からだ」


「最初から?」


「ああ、俺は皇国から送り込まれた。最初から皇国軍、王国にはスパイとして潜り込んだ」


「だがあんたはただの兵士から将軍までなったはずだ、そんな奴がなぜ将軍になれる」


 当然の疑問だ、わざわざ一兵士から始めるなどバカバカしい事だからだ。


「俺は運が良かっただけだ。たまたま戦果をあげ、たまたま上官に気に入られ、たまたま将軍までなれた、本来ならそのまま使い捨てにされスパイだとわからず死んでいたはずだ。だが最後の最後で運に見放された」


 そう、スーウェンは皇国からは期待されてもいなかった。

だが意味のないスパイは運が良く意味のあるスパイへと成り上がったのだ。


「最初の仕事は赤姫を王国軍から引き離す事だった。だがそれは失敗だったようだな、それが今の俺の状態だ、次はお前を殺す事だ。風帝隊に連絡してお前の部隊を襲わせる、だがそれも失敗だ」


 辺境の戦いに風帝隊が乱入したのはこのスーウェンの仕業だったのだ。

だがそれも赤姫によって失敗に終わった。


「どうやら意味のあるスパイになった途端俺の運は尽きたらしい、失敗続きなのはそのツケだな」


 己の失敗を悔やむスーウェン、だがリーグにはわからない事があった。


「この戦もあんたの仕業か?」


 そう、皇国から仕掛けたこの戦がなぜ今行われたのか、それがリーグにはわからない。


「いや、俺じゃない、まあいいどうせ死ぬんだ、教えてやろう」


 そう話すスーウェンに続きを促すリーグ、スパイだったとはいえ何かあるのだろう。


「皇帝が死んだ、今回の戦は、次期皇帝になる皇太子が計画した。皇国民から信頼されている皇帝が死んだからな次の自分も信頼されたかったんだろうな。この戦で王国に勝ち手柄を上げたかったんだとよ。だが赤姫への要請は俺の考えだここで後方支援を失えばこれからの戦いで赤姫の力も半減するからな」


「なっ!」


 皇帝が死んだ、その事実はこれからの砂の世界の情勢を大きく動かすだろう。


「俺は皇太子の名声を高める為の捨て駒だ」


 最後にこれわ言ったスーウェンは力尽きた。

周りを見れば皇国軍は撤退し、ほとんど残っていない、後方には死体の山が築かれている。


「リーグ将軍、勝鬨を」


 エルリックに言われ勝鬨を上げるリーグ、王国軍からは大きな叫び声が発せられる。


「リーグ将軍、ありがとうございました。助けていただかなければ私は死んでいたでしょう」


「気にするな、お前はまだまだ強くなる」


 そう言ったリーグの瞳はスーウェンから離れない。


「バカ野郎が」


 最後にスーウェンに悪態を吐き立ち去るリーグ。


 これから激化するであろう皇国との争いを予想し、覚悟を決める。



「エルリック〜無事か〜?」


 今さら現れたシンに手を振るエルリック、この戦でもまたもやシンは戦う事がなかった。


感想や評価などいただけると助かります、気になった所や変な部分などあったら教えて下さい、直したりこれからの参考にしたいと思います。

よろしくお願いします!

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