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Chapter 1:Part 06 大学の<結界>

 それは、統哉がルーシー指導の下、戦闘訓練を受けた翌日の夜の事だった。


「――――統哉、統哉。こんな時間に悪いが、起きてくれ」

「……ん?」


 ぺちぺちと頬を叩かれ、統哉は不機嫌そうな声を出しながら目を開けた。

 そこには、なぜか漆黒のドレスに身を包んだルーシーが金色の瞳で統哉を見つめていた。ちなみに馬乗りで。


「……何やってんの、お前?」


 とりあえず尋ねてみる。


「統哉、時間が惜しいから手短に説明する。ついに<欠片>が来た。場所は君の通う大学だ」

「……何だって?」


 統哉が訝しげな表情をする。


「……で、俺はどうすればいいんだ?」

「とりあえず、動きやすい服装だな。できればダメになってもいい服が望ましい」

「なんで?」

「敵の攻撃で服がボロボロになる危険性があるからだ。それといきなりで悪いんだが、何か移動手段を用意しておいてくれないか? 流石に今の時間は公共交通機関なんて動いていないだろう」

「そこは心配すんな。先に外で待ってろ。すぐに準備していくから。で、とりあえず降りてくれ。身動きが取れない」

「あいよー」


 ルーシーは頷いて統哉から飛び降り、部屋を後にした。


 統哉も急いで動きやすい服装――とりあえずタンクトップとジーンズに着替えて、家の外に向かった。


「待たせたな。こっちだ」


 統哉は庭へ向かって歩いていく。ルーシーも首を傾げながら後についていく。彼についていった先にはシャッターが閉まったガレージがあった。

 統哉はシャッターの鍵を開け、シャッターを上げて中に入り、電気を点けた。

 そこには、ガンメタルカラーの大型バイクが鎮座していた。


「これで行こう」


 統哉はバイクを手で示し、その側へと歩み寄る。


「……ほう、バイクか」


 ルーシーが目を丸くして言う。


「ああ。貰い物だけどな」


 統哉が言うには、このバイクは、バイクマニアの親戚が入学祝いにとポンッとくれたものだ。自分はもう乗らない中古品だけど、まだ現役だからよかったら乗り回してやってくれと言われた事は記憶に新しい。

 正直言って、中古とは思えないほどの性能を誇り、大学二年の間に何回か島の外にまでツーリングした事はいい思い出だ。

 その分メンテナンスもかかるが、それを差し引いても、このバイクは本当にいいものだった。

 整備状態が万全なのを確かめ、その後、ボディを軽く布で拭いてやる。ガンメタルのボディがより一層輝きを増した。


「待たせたな。いつでも行けるぞ」


 笑顔を向ける統哉にルーシーも満足そうに頷く。


「実にいいマシンだ。まさに、鋼鉄の獣だな。私の愛馬は凶暴ですってやつだな」

「凶暴かどうかはわからないけどな」


 そう言って統哉は、ガレージにしまってあった予備のヘルメットを手渡す。


「いざ、<欠片>の奪還へ向かおうか!」


 ヘルメットを被り、後部座席にルーシーが腰掛ける。ゴシックドレスで腰掛けていいのかは疑問だったが。続いて統哉も座席に腰掛け、キーを差し、エンジンをかける。バイク特有の駆動音が耳に心地良い。


「よろしく頼むぞ、御者さん」


 ルーシーが統哉の腰に腕を回す。


「おう。それじゃ、しっかりつかまって……~っ!?」


 突然統哉がひきつったかのように押し黙った。


「ん? どうかしたのか統哉?」

「な、なんでもない……」


 口ではそう言っても、心の中ではかなりどぎまぎしていた。必死にざわめく心を落ち着かせようとする。


(おいおいおい、何やら背中に柔らかくて弾力のある物が二つ、押しつけられているんだけど!? これアレだよな!? アレしか考えられないよな!? ええい、落ち着け俺!)


「ふーん、ならいいけど。統哉、発進どうぞ!」

「八神統哉、行きまーす!?」


 奇妙なかけ声と共に、統哉はアクセルをふかして発進した。背中に当たる柔らかいものがもたらす、なんともいえない感触に耐えながら。




 それから約二十分後。

 住宅街を抜け、市街地の一部を通過し、大学付近の公園に到着した。

 近くの公園に止めた理由は、流石に大学は今の時間はどこも門が閉まっている上、高い塀に監視カメラまで設置されているため、入るのは不可能と言ってもよかったからである。

 背中に柔らかい感触を終始押し当てられるという罰ゲームに近いものに耐え、統哉はバイクから降りた。


「よし、着いたぞ……って、何やってんだお前?」


 側にいるルーシーを見ると、ヘルメットに手をかけながらウンウン唸っている。


「……と、取れない……統哉、取ってくれ~」

「はぁ……しょうがないな、ほれ」


 溜息をつきながら、統哉はヘルメットを引っこ抜いてやった。


「……ぷはーっ! 助かったよ、統哉」


 大きく息をつくルーシー。


「じゃあ、行こうか?」


 そして何事もなかったかのように大学に向かって歩き出す。統哉もやれやれと思いつつその後を追った。




 時刻は深夜一時。統哉とルーシーは、大学そばの道を歩いていた。

 夏用の私服を着ている統哉はいいとして、ルーシーはいつもの漆黒のドレスを纏っていた。今更だが、夏真っ盛りにその格好は暑くないのだろうか。まあどうせ尋ねても「暑くないのかだって? このドレスは(以下略)天界の科学力は世界一ィィィィ!」とシャウトされるのがオチだろうが。近所迷惑なんてレベルじゃない。

 夜である事と、人通りがないことが幸いし、ルーシーの格好を訝しむ人はいなかった。

 しかし、統哉はいまいち信じられなかった。何せ、自分が通っている大学に<欠片>を持った守護天使なる者が現れたというのだから。念のため、横にいるルーシーに尋ねる。


「……なあルーシー、本当に、大学に<欠片>を持った守護天使っていうのがいるのか?」


 統哉の質問にルーシーは口の端をキュッと吊り上げ、笑った。


「統哉、先程私は<欠片>を持つ守護天使は自ずと私の側に来ると言ったな」

「ああ」

「奴ら――天使達の気配をここから感じる。それも、凄まじいほどに」

「なんだって!?」


 統哉が身構える。


「今はまだ奴らは現れない。だが間もなく奴らは動き出す」

「ルーシー、それはどういう――」


 事なんだ、と。

 統哉が二の句を継ごうとしたその時。統哉は空間が震えるような感覚を覚えた。


「――来たな」


 ――それが、統哉がさらなる非日常へと足を踏み入れた瞬間だった。


「始まるぞ、統哉。あらゆるものが眠りにつき、闇が支配する時間に――」


 それは喩えるならば、自分達のいる空間が見えない刃によって切り取られ、大きな力によって組み替えられていくような――そんな感覚だった。


「――守護天使は降臨する」




 気がつくと、通い慣れていた大学はすっかり変貌していた。

 周囲の色は白と黒のみに支配され、建物の形はまるでRPGに出てくる魔王の城のようになってしまっている。

 統哉達が今立っている正門も、いかにも魔王の城の門といった形に変貌している。


「なんてこった……大学が本当にダンジョンになっちまった……」


 統哉が呆然と呟く。


「なーに、これぐらいはまだ低レベルなもんさ。もっと強い天使が張った<結界>ならば、完全に異世界さ」


 そう言ってけらけらと笑うルーシーに統哉は溜息を返すぐらいしかできなかった。いい加減日常からはみだしまくうてしまったと思っていたが、まだまだ認識が甘かったらしい。


「……とりあえず、中に入ろう」


 統哉は努めて明るい口調で、閉じている正門に手をかけて揺さぶってみるが、正門はびくともしない。


「……だめだ、予想はしていたけどビクともしない。さて、時間はかかるだろうけど門を乗り越えるか、どこか別のルートを探してそこから入るか。ルーシー、どうす、る……?」


 横にいるルーシーに意見を求めると、彼女は準備運動をするかのように素早く身体を動かしていた。


「お、おい、まさかお前……!」


 それは統哉にとって、見覚えがある光景。

 統哉が直感的に危険を感じて、即座に正門から横へと飛び退いた、その直後。


「――さーて、今日も思いっ切り行くぞー! それじゃあ皆さんご一緒に~!」


 そして両拳を打ち合わせ、空高く飛び上がる。


「天界式CQC、超必殺!」


 ルーシーの右足に眩い光が集まっていく。そして――


「――究極! シューティンキィィィック!! ウェーイッ!!」


 回転しつつ一気に加速し、流星の如き閃光を纏った強烈な跳び蹴りを叩き込んだ。ただし一部を省略し、奇妙な雄叫びを上げながら。

 必殺キックを受け、正門は木っ端微塵に爆散した。


「ハッハー! 我に蹴り飛ばせぬものなし! ってな!」


 着地したルーシーが立ち上がり、サムズアップを決めた。ちなみにカメラ目線で。


「……」


 木っ端微塵になった正門を越え、統哉がルーシーの側まで歩み寄ってきた。


「見たか統哉ー? いくら<欠片>を奪われて力を失った私でも、門を吹き飛ばすぐらいなら軽いものさ! さあ、入り口を開けた私を褒めろー、褒めて褒めさいあっ!?」


 統哉のツッコミチョップがルーシーの頭にヒットした。


「馬鹿かお前! 馬っ鹿じゃねえのか!? またはアホか!? そういうのはせめて事前に一言かけてからやれよ! というか、無茶苦茶な方法だな!」


 統哉が爆発で舞い上がった埃を手で払いながら早口にまくしたてる。


「あうぅ……。ますますツッコミに容赦がなくなってきてるな、君……。まあ、君なら危険を察知して回避行動をとってくれると思ったし、何よりも道が開けただろう? 無駄な時間が省けてよかったじゃないか」

「確かにそうだけどさ……!」

「それに世間では、ショットガンをマスターキーと呼んでドアの鍵を壊すのに使うのだろう? 私が取った手段も同じようなものだ」

「いや、その理屈はおかしい」

「それに、どうせ戦いが終われば皆元通りになるんだ。ならば気にせず、盛大にやろうじゃないか――とにかく、道も開けた事だし先に進もう。時間は待ってはくれないぞ」


 そう言ってルーシーは足下にあった正門の残骸を足で軽く脇へ蹴り、そのまますたすたと先へ足を進めていってしまった。


「……ああ、もう!」


 統哉は頭をガシガシと掻きながらルーシーの後を追った。




 陽月国際大学。

 それが、統哉の通う大学の名前である。陽月島に唯一存在する大学で、国際大学と謳っているだけあってその規模と設備はかなりのもので、留学生も積極的に受け入れている。また、学生寮の多さや周囲を取り巻く豊かな自然、自由な校風も人気の一つで、受験倍率も全国上位の常連である。そんな大人気の大学に統哉が入学できたのは、ある種の幸運が味方してくれたのかもしれない。

 そんな通い慣れた大学は、今まさに「異界」と化していた。


「うわぁ……」


 正門の先へと足を踏み入れた二人の前に広がっていたのは、とにかく異様な光景だった。

 建物、タイル、ベンチといった、大学構内に存在する全ての物が白黒で統一された、見る者の感覚を狂わせそうな風景だった。


「……なんか、気分が悪くなってきそうな光景だな。<結界>っていうのが形成されると、見慣れた景色も様変わりしてしまうのかよ……」


 統哉が目元を軽く揉みながら呟く。


「見慣れた場所も守護天使にかかれば一瞬でダンジョンに早変わりさ。それが<結界>の恐ろしい所だ……でも、エンターテイメント性は抜群だな」


 驚く統哉とは対照的に、ルーシーはのほほんとしている。


「……で、<欠片>はどこにあるんだ?」

「あの建物だ。あの建物から<欠片>の気配を感じる」


 ルーシーが奥の方に存在する一つの建物を指差す。そこには――


「……大講堂?」


 統哉が呟く。

 そこは、入学式や卒業式といった、大学を挙げた式が行われる大講堂のある建物があった。最も、統哉にとっては滅多に立ち寄らない場所であり、そこまで馴染み深くはなかったが。


「ふむ、大講堂か。場所としてはなかなかいい所を……ん?」


 突如言葉を切ったルーシーが空を睨み付ける。


「……来たか」

「えっ?」


 統哉もルーシーに倣って空を見る。


「……なんだ、あれ……?」


 統哉が呆然と呟く。

 そこには、奇妙な物体が五つ浮かんでいた。

「それ」は、オートマチック式の大型拳銃から翼が生えたような、奇妙な外見だった。


「おいおい、あれも天使なのか? 拳銃に羽が生えてるぞ」


 横にいるルーシーに尋ねると、ルーシーはそうだと頷いた。


「あれは<(フェザー)>だ。天使の支援子機として開発したもので、高速で飛び回りながら、ビーム攻撃を仕掛けてくるぞ。一体一体は弱いんだが、物量と手数で攻めてくるから結構質が悪い」

「開発した……?」


 ルーシーの言葉に統哉はどこか引っかかるものを覚えたが、まずは目の前の敵を殲滅させねばならない。


「ああ、心配するな。あいつらは動き回って狙いをつけさせず、対空攻撃で一気に叩き落としてやるのがセオリーだ」


 ルーシーが両手を広げて戦闘体勢を取る。

 それを見た<翼>が一斉に二人めがけてビームの雨を見舞ってきた。


「うわっ!?」


 すかさず統哉はそれを横に転がって回避し、<輝石>を呼び出す。そして<神器>・ルシフェリオンを生成する。


「こいつっ!」

 統哉はすかさず身を起こし、<翼>に飛びかかった。

 勢い良く振り下ろされたルシフェリオンが<翼>のボディを両断する。

 さらにすかさず、低い位置を飛行していた<翼>に横薙ぎの一閃を見舞う。横一文字に斬り裂かれた<翼>が消滅する。

 一方、ルーシーは近くの<翼>めがけてハイキックを繰り出し、これを叩き落す。もう一体の<翼>が慌てたようにビームを放つが、ルーシーはこれを空中で身を翻して回避し、高低差を活かした急降下飛び蹴りで叩き潰す。残った一体には、スフィアの連射を見舞い、一気に片を付けた。


「残念でした、おととい来やがれっての!」


 ルーシーは鼻でフンと笑った。


「……案外大した事なかったな。この調子なら早くケリがつくかな?」

「油断するなよ統哉。前を見てみな?」

「……わーお」


 統哉がルーシーに言われて前を見ると、前方から<天使>が三体、<翼>が四体、こちらに向かってくる。


「団体さんのお着きだな。統哉、頑張れるか?」

「ああ!」


 統哉は力強く頷いた。


「上等だ。さあ、行くぞ!」


 統哉が叫ぶ。ルーシーが頷く。そして二人は走り出した。


「こいつでっ!」


 統哉が手をかざし、意識を集中させると掌にソフトボール大の光球――スフィアが生まれる。それを<天使>めがけて投げ付け、<天使>を吹き飛ばす。そこへすかさず両手に持ったルシフェリオンを振り回し、<天使>と<翼>を両断する。


(やらなきゃ、やられるんだ……! ここは、昔見た特撮ヒーローや格闘ゲームのキャラクターの動きをイメージして……!)


 その事を自分に言い聞かせ、統哉はルシフェリオンを振るう。イメージ通りに身体が動き、通常は不可能な空中での二段ジャンプすら可能になっていた。<天使>の振るう剣を弾き、統哉は空中から連結させたルシフェリオンでこれを両断した。


「やるじゃないか! 私も負けていられないな!」


 ルーシーも負けじと、スフィアで牽制と先制攻撃を行い、<天使>と<翼>怯んだ隙に宙を滑るように接近し、徒手空拳で<天使>を倒していく。

 地上の<天使>を全滅させた後、空中を飛び交う<翼>が放つビームを掻い潜りつつ、統哉は飛び上がって踵落としを見舞い、ルーシーは地上からスフィアを放って<翼>を撃墜していった。

 五分後、三体の<天使>と四体の<翼>は跡形もなく消滅していた。


「……ふう。やっと片付いたか」


 統哉が額の汗を拭う。


「お疲れお疲れ。大分戦闘にも慣れてきたじゃないか。なかなかどうして、筋がいい」


 統哉とは対照的に、ルーシーは余裕といった表情だ。


「そうなのか?」

「今までたくさんの<天士>を見てきたが、君の力は本当に未知数だ。もしかすると、大当たりを引いたかもしれないな。……おっと、お喋りが長くなる。まだまだ先は長いぞ。さあ、ちゃぱーっと行こう。間に合わなくなる前に」

「間に合わなくなる?」

「君にはまだ言っていなかったが、<結界>が構成されてから夜が明ける、正確には日の出の時刻になると、空間に存在する魔力の成分や比率ががらっと変わって、<結界>は自動消滅してしまうんだ。だから守護天使を倒すならば、一晩以内に決着をつけるしかない。なぜならば、<結界>が自動消滅すると、守護天使に負わせたダメージも全てリセットされてしまうためだ」

「なにそれ面倒臭い」

「だから私達は、できるだけ早く<欠片>を奪還する事を……強いられているんだ!」

「なんでいきなり集中線が入りそうな勢いで力が入るんだよ」


 急いでいるのにジョークをかますルーシーに対して統哉は、こいつ、本当に急いでるのかなと疑問に思わざるを得なかった。




 それから、統哉とルーシーは異界と化した大学構内を駆け抜けていった。

 基本的な構造は一緒だが、見覚えのない壁や方向感覚を狂わせるような壁や床の模様、すっかり配置の変わってしまった分館が統哉達の行く手を阻んだ。

 途中、何度も行く手を阻む天使達――<天使>、<翼>、<大天使>と遭遇したが、二人は連携してこれを悉く退けていった。

 二人の連携は絶妙で、統哉が主に接近戦を担当し、ルーシーが状況に応じて二つのフォームを切り替え、敵の足止めやトドメを担当した。

 この一連の流れを繰り返し、二人は大きなダメージを負う事なく、一時間ほどで大講堂がある建物前の広場までさしかかっていた。


「統哉、一旦休憩しようか。慣れない戦いで疲れただろう?」

「わ、悪い……」


 流石に長時間に渡る移動と戦闘は堪えたようで、肩で息をしながら統哉が答える。一方のルーシーはさほど疲れた様子もなく、統哉の疲れを労うように肩をポンポンと叩く。


「気にするな」


 統哉は溜息をつき、広場のベンチに腰を下ろした。


「隣、いいかな?」

「あ、ああ」


 統哉が答えると、ルーシーはその横に腰を下ろした。統哉は思わずその整った横顔を見つめてしまう。


「……一つ、聞いてもいいか?」


 統哉がルーシーに話しかけた。


「ん? なんだ?」

「ルーシーは、<欠片>を集めて力を取り戻したら、どうするつもりなんだ? また神様に戦いを挑む気か?」


 その問いにルーシーは笑って答えた。

「まさか! もう封印されるのは勘弁だよ」

「じゃあ、どうするつもりなんだ?」


 ルーシーはしばらく考え込んでいたが、やがて溜息を一つついた。


「……力を取り戻した後の事はまだ考えてないよ……もしかすると、<欠片>を取り戻していく内に答えが出るかもしれないな。ところで、私からも一つ、聞いてもいいかな?」

「ああ」

「統哉は、私との契約で生きる事を願ったが、生きて、どうするつもりだ?」


 ルーシーの問いに、統哉はしばらく考え込んだ後、口を開いた。


「俺は、親を亡くしてからとにかくがむしゃらに生きてきた。でも、俺が生きる意味はまだわからない。だから、生きて、生き抜いて、答えを見つけよう……そう思うんだ」


 統哉の言葉を聞き、ルーシーが沈痛そうな表情を浮かべる。


「……その、今まで大変だった……よな。今まで一人で生きてきたんだから。気持ちはわかるよ」

「同情だったら勘弁してくれよ。そういうの、飽きるほど経験してるんだから」


 ルーシーが首を横に振る。


「違う。私にも、似た経験があるから、さ」


 そう言うルーシーの表情に影が落ちる。


「ルーシー……?」

 どこか様子がおかしいルーシーに違和感を覚えた統哉がルーシーに声をかける。


「……すまない。辛い話をさせてしまったな。――さあ、そろそろ行こう。<欠片>はすぐそこだ」


 が、すぐにルーシーはいつもの口調でベンチから立ち上がると、大講堂へと続く扉へと歩いていく。


「あ、ああ」


 統哉も立ち上がり、ルーシーの後を追った。

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