哀愁オヤジ
「ダイヤで人を殺せるんですか」
ヨハンが幹吉に尋ねた。
「まあな。方法によっては。しかしあくまでも可能性の話だよ」
「あのブルーダイヤの大きさなら、私もありうるとは思うのですが」
署長はうなずいた。
ヨハンはドイツ人だから、敬語と砕けた語の使い分けを知っている。
アメリカ人の横柄な態度とは違って、ドイツ人はさまざまな認識力を伴うのである。
戦争に負けた日本と同じ境遇を持つ国。
ドイツと日本は、価値観が似ているというものもいる。
そのため、さやかの父はヨハンに感心することが多くあった。
さやかとの婚約を決めたのは強引だったかもしれないが、今にして思えば正解だったのではないか、と。
「ヨハン」
ヨハンは部屋を出ようと、ドアノブに手をかけたが署長に呼び止められ、振り返った。
「娘をこれからも、よろしく頼む・・・・・・。それから、門限はなしでいいぞ。以降は、羽目をはずしたまえ」
「・・・・・・署長。急にどうしたんですか」
ヨハンは引きつったように笑う。
何かたくらんでるのではないかと、急に不安がった。
「ヨハン、さやかはああ見えて、もろい神経の持ち主。お前になら、とおもってな」
「はあ・・・・・・」
ヨハンは視線を泳がせた。
――どうするべ、落ち着け、ヨハネス! 落ち着くんだ!
「わしは、お前を気に入っているんだよ」
いつもの署長らしくなかった。
ヨハンはまじめな表情をして幹吉に視線を釘付けする。
「歳はとりたくないものだな。成長していく娘を見るのが、とてもつらいんだ。お前も父親になればわかるだろうが、娘の成長する姿ほど、つらいものはない」
ヨハンは返事に困ってしまい、うつむいていた。
「すまないね。引き取ってくれ」
「は。では失礼・・・・・・」
ヨハンは廊下に出てからも考え込んでいた。
ダイヤと、署長と、その言動と。
何かが引っかかる。
もしかしたら、この事件の終着点につくころ、さやかを傷つける何かがありそうな、そんな予感さえしていた。
オヤジ主流か、この物語・・・・・・。




