ブルーダイヤ
「ちょっ、ヨハン。ちょっときなさい!」
夕方、学校から帰ってきたさやか嬢、ヨハンを自室に手招きした。
「あん? なんだよぉ、エッチならあとで・・・・・・」
さやか、軽やかに右足を上げて、さりげなく舞い、ヨハンのあごを蹴り上げる。
「ちゃうやろっ! こいつを、あ、みぃやぁがぁれぇ」
さやか、歌舞伎調でマウスをクリック。
泣きべそをかいたヨハンは、いまだうずくあごを押さえて、画面を食い入るようにみた。
「うん!? なんだこれ。オークションじゃないの。なになにぃ? さやかちゅわん。これほしいってことぉ? でもなー、署長に言わなきゃね。給料をあげ」
「て、そーじゃない! ここみてよ、ここっ」
拡大ボタンを何度も押すさやか。
「あ」
「けらけら、ばっかじゃねーの、クリックしすぎて縮小図に戻してやンの。けけけ」
さやか、くやしくなってヨハンの胸板をぼかすか殴る。
「やかましい、だかましい! もういい、あんたなんかに頼まない!」
「じょ、冗談だよ。頼みたいことって?」
さやかがもう一度画面をクリックすると、大きなダイヤモンドが映し出される。
「すげえ。ブルーダイヤ? めったにないんだろう、これ」
「ここにね、クリモトってあるでしょ。あれ、お母さんの形見なの。いったいどうしてかと思って、不安になったんだ。――なんだか胸騒ぎして」
ヨハンは画面から目を離さないさやかに微笑みながら、肩をたたいた。
「へえ、お母さんのか。だったら絶対、取り戻さないとナ。いったいいくらで買える?」
「・・・・・・三億の値段がついてる」
「なあんだ、たった三億か〜。へらへら」
さやかは首をひねってヨハンをみた。
「たったのって、あんた・・・・・・三億っていくらだと・・・・・・」
いくらなんでも値段くらいはわかるだろうと、さやか。
「・・・・・・えええええええっ!? さささ、さっ、さんっおっぐっ」
さやか、やっぱりねとため息をついた。
「はあ、難しいでしょ。でもそれより犯人はだれなわけ? こんな大事なダイヤを売り飛ばすなんて」
「署長だべ。だって奥さんの」
「ごほん」
父、幹吉が部屋の外からヨハンとさやかを監視するように咳払いし、自分の存在を知らせた。
「お、おお、おとうさまっ」
「ごきげんよう、ヨンさま」
いやみに言ってヨハンを押しのけ、さやかを叱る。
「嫁入り前の娘が、男を入れるんじゃない」
「だってパパ。ヨハンが勝手に入ってきたんだもん」
ヨハンは血の気が引いた・・・・・・。
「ヨンさま。あとで下の居間まで、いらっしゃってください」
「う、ウソよパパ。ヨハンは悪くないってば!」
うちの父親は冗談も通じないと、さやかは頭を痛めていた。
ヨハンはかわいそうに、正座の刑・・・・・・。
「足いってぇよぉ〜」
こんな始まりでいいのだろうか・・・・・・。




