もっとエッチな命令をしてくれないとダメ!
ゲームは10回勝負にしたけれど、結果は信一が7回勝ち、真帆乃は3回しか勝てなかった。
つまり、賭けは信一の勝ちということになった。
「悔しい……」
真帆乃がむくれた表情で言う。
(ゲームで負けて不機嫌になるなんて、相変わらず子供っぽいな……)
そういうところは高校生の頃から変わっていなくて、そして、それが信一には可愛く思えた。
「信一って昔からゲームが得意よね」
「ゲームだけは、ね」
「そんな卑屈にならなくてもいいのに。この私に勝ったんだから、もっと誇ってもいいのよ?」
「まあ、たしかにどんなことでも真帆乃に勝てることがあるっていうのは嬉しいね」
「そう?」
「真帆乃みたいなすごい奴に俺が勝てるなんて、なかなか無いだろうから」
信一が軽い調子で言うと、真帆乃は「そっか」とつぶやき、なぜかちょっと嬉しそうにした。
さて、賭けの結果、信一は、何でも一つ、真帆乃に命令できることになった。
(いや、しかし、「何でも」って言われても、困るな……)
真帆乃が信一を上目遣いに見る。
「やっぱり私にエッチなことするつもり?」
「だから、しないってば!」
「もしかして私が上司だからとか、そういうこと、気にしてる? そんなこと気にしなくていいのに」
「それを気にしているわけじゃないけど、いい大人なんだから、そんなことしないよ」
「ふうん」
「真帆乃だって、されたら困るだろう?」
「私は困らないけど」
「えっ?」
「ちょっとぐらいエッチなことなら覚悟してたんだけどな」
「ちょっとってどのぐらい?」
「知りたい?」
真帆乃がふふっと笑う。小悪魔的な笑みで、誘っているようにも見える。が……真帆乃は男性経験がないのだった。
見ると、真帆乃の頬はほんのりと赤くなっていた。身体もぷるぷる震えている。
「無理しなくてもいいのに」
「わ、私は無理なんてしていない!」
真帆乃が強がって言う。
困ったな、と信一は改めて思った。これで何もしないのも信一が臆病者みたいだし、真帆乃の立場もない。
しかし、命令することなんて何も思いつかない。
信一は考えてから、そっと右手を伸ばし、真帆乃の頬に触れた。
真帆乃がびくっと震え、そしてみるみる真っ赤になった
「し、信一……?」
「これを命令にしよう。このまま俺に撫でられること。さっき俺の頬を触った仕返しだ」
そう言うと、信一は真帆乃の頬を撫で回した。柔らかくてすべすべの肌だ。
昔は……小学生のころは、こんなふうに普通にスキンシップしていたと思う。
いつからだろう。真帆乃を異性として意識して、その身体に触れることができなくなったのは。
真帆乃は恥ずかしそうに、目を閉じて信一に撫でられるのを耐えていた。
「ちょ、ちょっと信一……くすぐったい!」
真帆乃の言葉を無視して、信一は真帆乃の頬を撫でた。清楚で完璧なエリート美人上司が、信一に頬を撫でられて羞恥に耐えている。
(ちょ、ちょっと楽しいかもしれない……)
信一の征服欲というか、嗜虐心が満たされる。とはいえ、さすがにこれ以上のことはしないし、そろそろ真帆乃がかわいそうだからやめておこう。
信一が手を止めると、真帆乃は信一を見つめ、そして、物足りなさそうな表情を浮かべた。
「やめちゃうの?」
「まだしてほしい?」
「と、というか、普通はエッチな命令ってもっと過激なのでしょ? 胸を触るとか、キスするとか?」
「されたいわけ?」
信一はつい反射的に聞いてしまう。真帆乃は恥じらうように目を伏せた。
「そ、それは……」
妙な空気になったので、信一は慌てた。
「と、ともかく、これで賭けの勝者の命令権を俺は使ったってことで」
「ダメ」
「え?」
「だって、頬を撫でるなんて、私にとっては仕返しでもなんでもなくて、ご褒美だもの。やっぱり、もっと恥ずかしいことを命令してくれないとダメ」
「さっきのも、わりと恥ずかしがってたような気がするんだけど。それに、逆に俺が真帆乃に命令されている気がしてきたような……?」
「気のせいよ。命令する権利はまだ有効にしておくから、今日でなくてもいいの。信一が使いたいと思ったら、いつでも使ってね」
真帆乃はそんなふうに言い、いたずらっ子のように微笑む。真帆乃にエッチなことをする権利……という謎権利を信一は手に入れてしまった。
しかし、本当に、真帆乃は信一にキスされたり……いろいろされてもいいと思っているのだろうか?
真帆乃は上機嫌で、赤い顔のままにやにやしていた。
「信一にほっぺた撫で撫でされちゃった……」
真帆乃は信一に聞こえないつもりで小さくつぶやいたのかもしれない。
だが、その声はばっちり信一にも聞こえていて……。
真帆乃の嬉しそうで可憐な表情から、信一は目を離すことができなくなっていた。
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