医局長×主任看護師
朝の申し送りが終わり、慌ただしく動き始める時間帯のナースステーションに、白衣軍団が現れた。
「依元看護師長、こんな時間に申し訳ないね。ナースさん達少し時間をもらえないだろうか」
いつもと違う光景に少し緊張が走る病棟内、医師軍団の中には藤堂先生や鴻上先生といった見知った顔もある。藤堂先生と目が合うと、こっそりと私に頷いてくれた様な気がした。
医局長が私達に声をかけ始めた。
「みなさん、仕事中に申し訳ないね。少しお時間をもらえるかな。この周産期医療センターは、MFICUとNICUとで成り立っているよね。そこで新たにGCUを取り入れてみてはどうだろうと通達が来て、試験的に実施してみてはどうかと言われてね。ナースのみなさんと医師とで意見を交わそうと思っています。師長に相談して今回は主任クラスのナースさんのご意見を伺いたく会議に参加してもらいたいと思います」
すると依元看護師長が。
「現主任の職を担っている、田上さん、喜多川さん、矢崎さんの3名で参加してください」
そう言われると、カンファレンス室に移動して話し合いが始まった。
「完璧に分離するならば看護師の補充も必要だと思う。でも一般病棟から来てもらい、即戦力とは難しいと思います」
田上先輩が重要案件を伝えてくれる。
「ドクターの方はどうなるんですか?」
喜多川先輩も質問をする。それに対し医局長が。
「ドクターは新生児科医が、今の体制でどちらにも対応可能だと思っています。受け入れ人数を増やす訳ではないので」
──受け入れ人数を増やすわけではないのなら、わざわざ分離する必要性ってあるのだろうか。
周産期医療センターと言っているが、なろう大学附属病院が運営するセンターであるため、専門病院の様な規模はないが、対応力は抜群だと思っている。
「矢崎さんは、どう思うかな?」
いきなり話を振られたので、思っていることを正直に話した。
「確かに治療最優先の子と退院間近の子が、同じ病棟で看護を受けるということに疑問を持つ方がいらっしゃるのもわかります。しかし、今の受け入れ人数で、入院している子をNICUとGCUに分けたとしたら、GCU扱いになる子は2人程だと思います。その中で部屋を分け、さらに看護師も分けた上で、対応できる看護師を一から育てる事の意味はあるのかなぁと考えます。ちなみに、私がこの病棟に配属されてから、退職された看護師は1人もいません。後輩はひとり増え、この病棟のチームワークは、さらに強固なものになったと自負しています」
医局長を始めとする医師達も、頷いてくれている。
「普段から私達医師に対するナースの皆さんの気配りも、この病棟は優れていると感じています。同期で他科の医師からは、ナースステーションは居づらく、医局に籠る方も多いと話を聞きます。私達新生児科医はナースステーションでそのような対応を受けたことがありません。新たな改革も必要かもしれませんが、受け入れ人数を増やす事がないならば、この雰囲気を壊してまで取り組む必要はないように思います」
藤堂先生が自分の思っていることを発言した。隣で田上先輩はテーブルの下で小さく拍手を送っている。
この話は医局長が持ち帰り、依元師長とも話し合うということで落ち着いた。私達の意見も持ち帰るとのことだった。改革も必要かもしれないけど病棟内の雰囲気も大切にして欲しいと願うばかりだ。




