藤堂先生×依元看護師長
──坂倉さんにあれだけバレてるなら、堂々と根回しに行きますか。できれば陽菜ちゃん本人にはバレませんようにと願いながら、休憩室のドアをノックした。
「いらっしゃい藤堂先生。そろそろかなぁって思ってたのよ」
「えっ? 何がでしょう。佐倉さんから何か聞いてるんですか?」
──NICU病棟ナース精鋭すぎる。こんな方面に発揮しなくて良くないか? いや、看護でも凄い能力を発揮していらっしゃるけど……。
「いいえ、そういう事は守秘義務同様、ウチの病棟では噂話程度でも本人の居ないところで陰口に繋がるようなことは禁止してますからね」
ここのナースステーションが医師にとっても居心地が良いのは、師長の指導や病棟作りの賜であり、恵まれた環境だなぁと感謝した。
「さすがですね、我々医師もこのナースステーションは居心地良くさせていただいてますよ。ありがとうございます」
「藤堂先生、ここへはそんな話をしにいらしたのではないんじゃないですか? 早くしないとぞろぞろ戻ってきますよ。特に陽菜ちゃんは戻りが早いですから。ふふっ」
──やっぱり佐倉さん以上だなぁ。手強い。
「それじゃあ、お言葉に甘えて師長に少しお願い事が」
「はいはい、いつでもどうぞ。シフト作成はまだですから」
話しやすいのか話しにくいのか……。
「実は、クリスマスに出かけようかと思っていて……」
「あら、クリスマスデートかしら。若いって良いわねぇ。それで?」
──師長、それでって……最後まで言わせるつもりなのか。できれば察して欲しいんだが。
「申し訳ないのですが、陽菜ちゃんの勤務で相談がありまして」
「はいはい、それで? ふふっ」
──ニヤニヤして頼みづらい。確信犯か。いや、そんなことより今のうちか? と思い直し話を続けた。
「陽菜ちゃんの勤務の25日と26日の2日間、お休みを入れてもらえたらと思いまして」
「先生の方は大丈夫ですか? 陽菜ちゃんに休みをあげても先生が勤務なら、悲しみますからね」
──さすがだな、先のことを見越している。
「それは問題ありません。ですので……」
「わかりました。陽菜ちゃんの25日26日を休日にして27日はゆっくりできるよう夜勤にしておきますね」
「助かります。ありがとうございます。それと……陽菜ちゃんには、内緒にしてもらえますか」
「もちろんですよ。守秘義務厳守です。その代わり……」
──その代わり? 何? 何を言うつもりだ?
「……はい」
「デート内容は?」
「はっ? あのぉ……これから考えます」
「陽菜を楽しませてあげて。泣かせる事のないようにしてくださいね。休職や辞められたら困りますからね」
「悲しませるようなことしたら、きっとこの病棟で医師は続けられないような気がします」
「察しがいいわね。助かるわ」
──ひぃえ〜、こわっ。でも、そんな事にはならないから。俺が落ち込むような結果はあるかもしれないが、陽菜ちゃんが泣くような事はない。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
頭を下げて、休憩室を出たところで、看護師の佐倉さんが、ニヤニヤしながら声をひそませやって来た。
「どうでした?」
そう言いながら肘で押してくる。見抜かれている現状に恥ずかしくなるが、ここは顔色を変えず。
「ご理解いただけました」
それだけ伝えると、逃げるように医局へ戻ろうとしたのだが、一瞬遅く陽菜ちゃんが戻ってきてしまった。
「戻りました。あれ? 藤堂先生。緊急でしたか? 伺いますよ」
「カルテを確認しただけだから大丈夫。ありがとう」
そう伝え、陽菜ちゃんだけに聞こえるように『メッセージ入れておくね』と言い、陽菜ちゃんを見ると頬をほんのり染めて『はい』と言ってくれた。
これで、陽菜ちゃんの休みは約束されたはず。さぁどうしようかな。クリスマス。楽しい日にしてあげたい。そう思いながら医局へ戻り、カンファレンスの準備をはじめた。




