悟×注意喚起
「由紀乃ちゃん、卒業おめでとう。今日からお家だね。よく頑張ったね」
受け持ちの患者さんが、無事にお家に帰れるお手伝いをできた事を嬉しく思う。何度経験しても、これだけは何ものにも代え難い瞬間だ。
「笹井さん、本当にありがとうございました」
そんなほっこりとした会話に、看護記録を書く手を止めてしばらく眺めた。担当の子を送り出し、使っていたコットなどを消毒してすぐに使えるように整えておく。
「陽菜先輩、何か手伝いましょうか」
「私も看護記録書いてるだけだよ」
そう言うと悟は、真智先輩の元へ行く。
「真智先輩、何か手伝います」
「悟、今、暇なの?」
「真智先輩、暇って! 手が空いているとか言ってくださいよ」
駄々をこねる姿は相変わらずだが、言われなくても動けるようになってきた。これも悟の成長なのだろう。
「それなら、ポスターの絵を描いてくれない?」
「ポスター? なんのです?」
「排水溝にガーゼを詰まらせないでくださいっていう注意喚起のポスターよ」
すると、弥生先輩が。
「自分が自分へ注意喚起するポスターみたいじゃん」
それを聞いていた周りのスタッフは大笑いしている。悟は気まずくなったのか、逃げるようにして。
「注意喚起ポスター描いてきまーす」
そう言って奥の休憩室を陣取った。しばらくして悟は。
「我ながらいい作品だ!」
と、言いながらポスターを掲げている。
「真智先輩、できました!」
自慢げにポスターを見せる悟に、真智先輩はポスターに穴が開くくらいじっくりと見て。
「ポスター自体は良いんだけど、絵のバランスがねぇ。しかも、この排水溝に流れそうになってるのマフラーみたいじゃない?」
真智先輩のひとことでみんなが集まってきてポスターを眺める。
「マフラーって言うより、ワカメ?」
「ワカメ違うでしょ。力士のまわし?」
先輩たちの思い思いな感想に笑っていると。
「先輩たち眼科に行ってきてください。どこからどう見てもガーゼですよ。おかしな事言い出すんだから」
悟の満足げにポスターを貼る気満々な様子に、待ったをかける真智先輩。
「マフラーでもワカメでもまわしでもいいんだけど、全体的にちょっと残念だわね」
師長のどうでも良さげな発言に情けないトーンの声が返る。
「師長ぉ〜、頑張って描いたんですよ。もうちょっと褒めてくださ〜い」
今日も病棟に悟の元気な声が響き渡る。




