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陽菜×永遠

「陽菜、出張のお土産を渡しに夜、行っていいか?」


 兄からの連絡に、先日の出来事を知っているのか知らないのかわからないけど、当然本人なんだから知るべきと思い。


「うん。話もあるし待ってる」


「ん? 話って?」


「来てからでいいよ。ご飯作って待ってるからね」


「陽菜、怖いんだけど。おっ、サンキュ」


 言葉とは裏腹に怖がっている様子はない兄。どうせ外食が多いであろう兄に、冷蔵庫にある食材で作れるものを考え、少し持って帰れるようなメニューも作ろうと思い、支度に取り掛かる。


 今日はカレーにして、同じ材料で作れる肉じゃがをお持ち帰り用に作って、唐揚げも作ってあげようかな。


 ん、まてよ。そういえば、兄のせいで? この前大変だったことを思い出し、お土産用のおかずをどうしようかなぁと一瞬考えたけど、兄のせいでもないと思い直し調理を進める。ほぼほぼ出来上がり、やり切った満足感に浸っていると、兄から連絡が入った。


 もう着くのか。テーブルの上を片付け準備をしていると、今度はインターフォンが鳴った。


「はい」


「にぃちゃんだよ〜」


 元気だなぁ……。相変わらず。玄関を開けて兄を迎え入れる。


「なんか、良い匂いがする」


「カレー作ったよ。お持ち帰りできるように、肉じゃがや唐揚げもあるよ」


「カレーも持って帰れる?」


「食べていかないの? 忙しいの?」


「違うよ。もちろん食べる。持ち帰る分のカレーもある? っていう意味」


 お兄ちゃん言葉が足りないよ。と内心思ったが、わざわざ言っても仕方ないので。


「手洗いうがいしてきて!」


「出た出た! 陽菜のしつけ教室」


「ご飯要らないって事?」


「陽菜様、すぐに行ってまいります」


 脱兎の如く洗面所へ向かう兄に、クスっと笑いが溢れた。


 兄と一緒に食卓を囲むなんてどれくらいぶりだろう。懐かしいなぁと思いながら、一緒にいただきますをして夕食を始める。


「陽菜、めっちゃ旨い!」


「おかわりも持ち帰り用もあるから、たくさん食べて」


 少しお腹が満たされてきた頃を見計らい話を始めた。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「ん? どした、陽菜」


「先週さぁ、お兄ちゃんの会社の人がさぁ、病院の職員通用口で、私のこと待ち伏せしてたんだよ。その話、知ってる?」


「はっ? 誰だ! 俺の可愛い妹を待ち伏せしやがった奴は。蓮か?」


「違う。渡辺さんって女の人」


「はぁ!? 何しに来たの? また陽菜診療所か?」


 いやいや、そのネーミングはどうよ。陽菜診療所って。ドクター違うっていうのに。まっ、良いわ。この際そんな事どうでも。


「渡辺さん、お兄ちゃんに言ってないんだね。厄介なお願い押し付けた事とか。


「いや、ごめん。何も知らない。陽菜、教えてくれる?」 


 先週のことを事細かに話して聞かせた。だんだん兄の顔から笑みが消えた。


「陽菜ごめんな。嫌な思いさせたな。仕事終わりに」


「別に良いんだけど、あの人、話通じないんだもん。私に言われても困るよ」


「俺さぁ、あの人に顔合わせる度に『咲百合ちゃん、とっても良い子なのよ』って、その本人はチラチラこっち見るだけで他人事みたいでさぁ。正直言うと迷惑だったわ。まさか、陽菜に直談判するとは思ってもみなかった」


「引き受けるまで帰さないよオーラ出まくりで、上からバンバン来られて参ったよ」


「で、どうなの? そのなんちゃらちゃんと。付き合うの?」


「陽菜、勘弁してくれ。俺さぁ、人から押し付けられる恋愛はしたくないんだよね。本人は知らん顔で、人任せで交際を強請ってくるなんてあり得ないだろ?」


「うん! イライラしてさぁ、言ってやったもん。直接、兄に思いを伝えて白黒はっきりさせたら良いじゃないですか? その方がここで話しているより早いし、納得できるんじゃないですか? って!」


「陽菜、男前だなぁ。にぃちゃんきゅんきゅんしたぞ。渡辺さん、自分の意見が通るまで粘るんだよ。それで陽菜はどうやって切り抜けたんだ? すんなり帰れたのか?」


「あっ、藤堂先生が助けてくれたからそこは心配しなくていいよ」


「ん? 藤堂先生? はじめて聞くなぁ。誰?」


「ウチの病院の新生児科医だよ」


「で?」


 なんか話しの矛先が変わってない? どこで間違えた?


「何? で? って」


「にぃちゃん、藤堂先生の話聞いてない」


「はっ? 聞いてないって言われても言ってないもん」


 ランチ行きましょうって話したくらい……あっ、そうだよ。あのおしゃれなカフェでランチ! 思い出した。藤堂先生の勤務確認してみよう。


「陽菜?」


「なぁに?」


「何考えてるの? ニヤニヤして」


「あのおしゃれなカフェでランチしましょうって話してたの思い出した。美味しそうなメニューがたくさんあってね、勤務確認しなくちゃって思ってた」


 考えてたことを正直に言ったのがいけなかったのか。


「陽菜ちゃん。お兄ちゃんのお話聞いてたかな?」


「ってかさぁ、渡辺さんの話からなんで藤堂先生の話にすり替わってるの?」


「それは陽菜が、にぃちゃんの知らない人と怪しくなってる話をするからでしょ」


「へっ? お兄ちゃんも話聞いてた? 助けてもらったって言っただけで何が怪しいの? 変なお兄ちゃん」


 洗い物をし、食器を片付け、お兄ちゃん用に作った料理をそれぞれタッパーに詰めると、それを袋に入れておく。


「陽菜、お土産渡すの忘れてた」


 本来の目的を忘れるなんて、お兄ちゃんらしいなぁと思いつつ受け取る。


「ありがとう! 嬉しい」


「ひなぁ、藤堂先生って……」


 まだ言うかなぁ。


「お兄ちゃん、ちゃんと食べてね」


 そう言ってタッパーの入った袋を手渡す。


「ありがとう。助かる」


 嬉しそうにもらってくれた。なんだかんだ心配性の兄に、本当はいつも感謝しているのだ。恥ずかしいからたまにしか言ってあげないけど……。


「お兄ちゃん、いつもありがとう」


「なんだよ。急に……当たり前だろ。困った時には連絡しろよ。にぃちゃんいつでも来るから」


 頬をほんのり赤くして、何やら呟いている。照れ隠しのつもりだろうけどバレバレだ。まぁここは、知らんぷりしてあげる優しい妹でいてあげよう。


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