悟×双子の姉
夜勤明けの気怠い身体で更衣室へ入る。笹井と書かれたロッカーを開け着替えを済ませると、脱いだ白衣をクリーニングボックスに入れた。
♪♪♪──
「うわっ」
まるでタイミングを計ったかのようにスマホが鳴り驚く。
「ん? 誰だぁ!?」
廊下の端に寄り、鞄の中からスマホを取り出すと、液晶画面に表示された名前を確認した。
──あれ? 六花ねぇちゃんだ。
「もしもし」
「もしもし、悟。お疲れ様」
「六花ねぇちゃんも、お疲れ様。どうしたの?」
「仕事でこっち来たの。だから可愛い弟とご飯食べようかなぁって思って。悟、暇?」
「今、夜勤終わって病院出るとこだよ」
「めっちゃタイミング良いじゃん。いつものように買い物して悟の家行くね」
いつも突然来て、強引に進めていくけど、歳の離れた弟の僕のために色々してくれるとこは、昔から変わっていない。離れて暮らすようになってからは、ますます過保護気味な気さえする程だ。まぁ素直にその愛情を受けようではないか。それが弟の僕ができる姉への愛情表現だと思っている。
自宅玄関の鍵を開け、六花ねぇちゃんが来る前までに、少し片付けをしておかないとまた怒られてしまう。以前学習したので同じ間違いは二度としない。
「やべぇ。洗濯物溜めっぱなしだったわ。ちゃちゃっと洗っておこう。それからテーブルの上も片付けておかないと、ねぇちゃんに怒られる。やること山積みやん。頑張れ俺!」
独りごちながらテーブルの上を片付けたり、洗濯物を干したりしていると、インターフォンが鳴った。
「はーい。ギリギリセーフ!」
玄関を開けると姉ちゃんが両手に荷物を持って立っていた。
「六花ねぇちゃん、いらっしゃい。荷物待つよ」
「悟ありがとう」
六花ねぇちゃんから荷物を預かり、部屋へ通す。
「悟、綺麗にしてるね。まず掃除からかなぁって思ってたんだけど」
「ねぇちゃん、褒めて褒めて」
買ってきてもらったものを冷蔵庫に入れながら、久しぶりの姉弟の会話に花が咲く。
「六花ねぇちゃん、お茶かミルクティーかカフェオレのどれが良い?」
「相変わらず選択肢にコーヒーは無いんだね」
「コーヒーなら牛乳たっぷり入れないとダメじゃん」
「それは悟だけでしょ。そこが可愛いんだけどね」
「カフェオレ淹れるね」
「ありがとう」
色々と近況報告をしたり、ねぇちゃんからのお土産をもらったり、久しぶりに家族のあたたかさに浸っていると、ピンポーンと、インターフォンが鳴った。来客ならお引き取り願おう。
「おっ、きたきた」
「六花ねぇちゃん? 来たって誰が?」
「行けばわかるよ。行っておいで」
六花ねぇちゃんは相手がわかっている様子だった。何か頼んだのかな? そんな事を思いつつ玄関を開けた。
「やっほー悟! 元気してた?」
そう言って抱きついてきた。
「えぇ! 七彩ねぇちゃん! どうしたの!? ってか、いらっしゃい。上がって上がって!」
姉達の突然の登場に驚いたけど、それ以上に、嬉しい思いの方が大きかった。僕の双子の姉、六花と七彩。
「七彩、早かったね」
「うん。久しぶりの姉弟会じゃん。楽しみにしてたもん。速攻で仕事終わらせたよ」
久しぶりに姉弟が揃い、姉達が僕を甘やかして、何かと色々世話を焼いてくれる。
「悟、職場はどう? 女の人が多い職場だろうからね」
「七彩ねぇちゃん、心配ないよ。僕を指導してくれた陽菜先輩は丁寧に教えてくれるし、今でも色々教えてくれたり、フォローもしてくれるんだよ」
「そうなんだ。いい人に付いて学べてるんだね」
「他の先輩たちもドクターも良い人ばかりで、楽しく良い職場だよ」
「そんな良い職場から、顔出したくなっちゃったわね。自分の目で確かめてみなくちゃ」
「六花、姉じゃなく、母になってるよ」
「良いのよ。悟のためなら。姉でも母でも」
「六花ねぇちゃん、七彩ねぇちゃん、いつもありがとう。感謝してるよ」
そう言うと2人の姉に、犬か猫かと思うくらい撫でまわされた。
「私達が可愛がらなくて誰が可愛がるのよ」
姉達が料理を作ってくれて、久しぶりに揃った姉弟で、楽しく盛り上がり明日への英気を養った。
ガタガタガタ!
「悟? 何の音かな? あのふすまの中から聞こえて来たけど」
「あっ、あぁぁ! あれね。何だろうね。熊かな?」
咄嗟とはいえ、なぜ熊なんだと、数秒前の自分を恨む。
「えぇぇ! 悟の部屋熊出るの? こわっ!」
──七彩ねぇちゃんありがとう。
「ふ〜ん。熊ねぇ。なら退治しなきゃねぇ」
「あ……危ないよ。六花ねぇちゃん。熊はほら、俺があとで何とかするから」
「一人暮らしして、悟たくましくなったね」
──七彩ねぇちゃんありがとう。
六花は立ち上がり、一直線にふすままで歩くと、取っ手に手を掛けて、勢いよく引いた。
ガラガラガラガラ──
そう。どうしても部屋の掃除が間に合わず、取りあえずふすまの中に放り込んだ物たちが、姉弟の再会を祝うが如く、パンパカパーンと登場した。
「…………悟。これは一体何かなぁ?」
静かに丁寧なときの立花ねぇちゃんは、熊より怖いことを知っている。
「悟〜!」
「ひぇ〜! 今すぐ片付けま〜す!」
ポリポリポリポリ──
「このお土産おいしい」
──こんな時でも、七彩ねぇちゃんのマイペースは変わらないなぁ。
「悟、あ〜ん」
「七彩ねぇちゃん。今違う」




