悟×ポジティブ
「悟、病棟入り口にお客さんだよ」
弥生先輩が、悟に声をかけた。
「お客さん?」
「そう。行っておいで」
弥生先輩に背中を押してもらいながら病棟入り口へと向かう悟を見送る。
「笹井さん、こんにちは」
入り口には、ここを卒業した子がお母さんと一緒に待っていた。小児科に検診に来たついでに、挨拶に立ち寄ってくれたらしい。
「あっ、由真ちゃん。またまた大きくなったね。こんにちは、悟君だよ〜」
恥ずかしがり屋の由真ちゃんは、お母さんの後ろに隠れて顔だけを悟の方へ向けたり引っ込めたりしている。するとお母さんに。
「由真、渡すものがあるんじゃないのかな?」
そう言われてもお母さんの後ろから出てくることができなくてモジモジしている。
その様子を眺めながら、私の隣で真智先輩が口を開いた。
「私達がお世話してるのはきっと記憶にもないだろうね。だから、担当した子よりは親の方に感謝や好意を表してもらうんだよね」
「そうですよね。それがNICUですよね」
「間違いないわ。あっ、陽菜ちゃん眼科に行く日だったよね? 今、落ち着いてるから行ってきても良いわよ。病棟ナースに今行って良いか聞いてあげる」
そう言って内線で確認してくれた。眼科に仲のいい同期の人が居るらしく真智先輩に毎回お世話になっている。
「陽菜、今いいって。行っておいで。ナースステーションにドクター捕まえといてくれるって」
「ありがとうございます。いってきます」
「EロードのB階段から行ったら近道だよ」
「了解です」
悟の横を通るとき、お母さんの後ろに隠れていた由真ちゃんがひょこっと出てきて私に何かを手渡してくる。私は由真ちゃんの前にしゃがんで視線を合わせた。
「由真ちゃん、こんにちは。あれ、私にくれるの?」
そう聞くと由真ちゃんは。
「うん!」
にっこり笑顔で元気なお返事をしてくれた。しかし画用紙にはお母さんの字でしっかり【さとるくん】と書いてある。
「由真ちゃんありがとう」
悟とふたりで由真ちゃんを見送り、私がもらった悟へのプレゼントを手渡す。
「陽菜先輩、真由ちゃん僕見て照れちゃったんですね。可愛いですね」
悟めっちゃポジティブじゃん。心強いなぁと感心したのもつかの間。
「じゃあ眼科受診行ってくるね」
「陽菜先輩、老眼なんですか?」
「ドライアイの目薬処方してもらいに行くだけだよ。老眼って。後から覚えておきなさいよ」
「ひぇ〜、こわっ。それじゃあ僕、業務に戻りま〜す。陽菜先輩どうぞごゆっくり」
これ以上相手をしていたら眼科に行けないと思い直し、言い返すのをやめてNICUを後にした。




