悟×看護記録
真智先輩が眉間に皺を寄せて看護記録を見ている。いや睨んでると言うべきだろうか。誰の看護記録か確認したいけど、ちょうど真智先輩の手で隠れていて見えない。
「瑠璃先輩。誰の看護記録でしょうね。私が書いたのだったらどうしよう」
「陽菜ちゃんの看護記録は要点がまとまられていて簡素化されているから、凄いなぁって思ってるよ私」
そんな会話をしていると、休憩から戻った悟がナースステーションに入ってきた。
「悟! 集合」
──あ〜、真智先輩のあれは……マジで怒られるやつだね。注意では終わらないかも。
「瑠璃先輩、悟でしたね」
「陽菜、悟しか居なくない?」
「確かに」
「陽菜も火の粉が降ってくるかもね」
「えっ!」
「悟の指導したのだぁれ?」
「私だぁ」
「陽菜ちゃん、骨は拾ってあげるからね」
「…………」
私達がそんな話をしてる時、真智先輩と悟は。
「悟、この看護記録の書き方は何! SOAPをしっかり書きなさいってずっと言ってるよね。指導されたでしょ!」
「SOAP……ソ、ソー。ん〜」
「わからないとか言わないわよね。指導看護師から聞いてないのかしら?」
「へっ!? いや聞いたかなぁ。たぶんコツは聞いたような」
点滴や機器の数値確認をしていると視線を感じたので、そちらへ視線を向けると真智先輩と悟と目があった。
──えっ? なにぃぃ〜!?
「陽菜、お手隙ならちょっといらっしゃい」
──うわっ、瑠璃先輩大正解です。火の粉が飛んできました。
「看護記録の書き方を悟にどうやって指導したのか教えてもらって良いかしら」
──悟が何をやらかしたのか想像できたわ。真智先輩の今のひとことで。
「私も指導看護師から教わった『SOAP』を簡素化してわかりやすく書く事を指導しました」
「そうよね、私が指導したんだから」
「悟さんはそれがわからないそうよ。説明してあげてくれないかしら。指導看護師さん」
──もう、悟のせいで私まで怒られてるじゃん。
「Sは主観、患者さんの訴え。Oは客観的情報。Aはアセスメント、考察。Pは計画です」
「そうよね。そう教えたから。それを踏まえてこれを見て」
そう言って私に1冊の看護記録を手渡してきたので中を確認した。
「はっ? 何これ。変化なし。特変なし」
「どうかしら」
「患者のこと看てない印象を受けます」
「陽菜先輩、僕ちゃんと大志くんのこと看てますよ」
「それで、この記録なの?」
「陽菜先輩ならどう書くんですか? お手本をお願いします」
──えぇ〜、どんな無茶振りなんだよ! 仕方ない、差を見せつけてあげなくちゃ。
看護記録を手に大志くんのところに行くと、前の記録と朝の申し送りを参考に看護し、記録をとる。
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S 昨夜から排便無し。
排ガスあり。
ミルクは規定量完飲。
O 腹部触診ソフト。
腸蠕動音弱い。
A 腸活微弱により、通過障害を起こし
ていると思われる。このまま続くと
腸破裂も考えられるため排便を促す
必要性があると考えられる。
P 主治医へ状態報告。
O 主治医から綿棒刺激排泄促し指示あ
り。
A 刺激後排泄あり。
刺激により排泄回数増の可能性あ
り。
P 排便の状態の経過観察を申し送りし
ておく。
記入者 NS 矢崎陽菜
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「こんな感じです」
真智先輩に書いた看護記録を手渡す。
「うん。いつも通り簡素化されていて、見やすさも分かりやすさも教えた通り書けてる」
「ありがとうございます」
「業務に戻って良いわよ。呼び出してごめんなさいね」
「いえ。それでは業務に戻ります」
悟をチラッと見ると、助けを求める様な視線をしていたような気がするけど、その場を後にした。この後、真智先輩にしっかり指導を受けることになった悟。
──サッと書けるようになったのは私も数年かかったなぁ。記録書き上げるための残業が当たり前だったし。だから悟、頑張れ〜。悟ならできるよ! 諦めなければ。期待してるからね。
「ん〜、美苗ちゃんのぉ、看護記録かぁ。よぉし、百点満点狙うぞぉ!」
と言って、すぐに書けるようになるわけでもなく、しばらく看護記録と美苗ちゃんを交互に見る悟。
「美苗ちゃん、どうやって書いたら良いと思う? 悟君に教えてぇぇ」
大きな助けの声は、誰にも拾われることはなく病棟に消えていく。
「ふぇぇ〜!」
「美苗ちゃんが泣いたはSで、僕も泣きたい……もSか。」
「悟!」
「はいっ! ごめんなさぁぁい!」




