矢崎永遠×藤堂沙穂子×藤堂雫
──今日も先生方への挨拶も済ませたし、妹の顔でも見てから帰るかなぁ。通用口で待ってたら出てくるかな。病棟まで行くと凄い剣幕で怒ってくるからなぁ。それさえなければ可愛いのに。もったいない妹だ。今日はご飯でも食べに連れて行ってやろうかなぁ。
もう引き継ぎ終わって病棟を出る頃かと思いながら待っていると、少し離れた場所にも、俺と同じように誰かを待っている様子の親子の姿があった。
──みんな考える事は同じなんだなぁ。
職員駐車場に停めてある車から男性がひとり降りて来ると、通用口を気にした親子の所へやってきた。
──ん? 意外なところで待ち合わせしてたんだな。会えて良かったですね。
しかし、まだ誰かを待っている様子。すると職員通用口から陽菜が出てくるのが見えた。俺は陽菜の元へ歩み寄りながら声をかけた。
「陽菜、お疲れ〜」
俺の声に、振り向いたのは陽菜だけでなく、近くで待ち合わせをしていたこの三人も一斉に俺をガン見してきた。
──何? 俺、なんかしたか? いや、なんもしてない。陽菜に声をかけただけだ。
「えっ? お兄ちゃん。何してるの?」
「おいおい陽菜。何してるはないだろう。にぃちゃんは陽菜が出てくるのを待ってたというのに」
そんな兄妹の会話中、陽菜の視線が俺から外れ、隣の親子へと移った。
「お兄ちゃん、今日は忙しいからまたね!」
そう言って俺から距離を取ろうとする陽菜。
──おいおい、妹よ、それはないだろう。にぃちゃん悲しいぞ。
「陽菜、どうした?」
──そうそう。陽菜どうしたって……あなた様はどなた?
「大ちゃん。連絡なしでお兄ちゃんに待ち伏せされてた」
「おいコラ陽菜! 待ち伏せとは酷くないか?」
「じゃあご一緒にどうかな?」
そんなこんなで、何故か五人でテーブルを囲んでいる。誰か説明して欲しいんですが……。
「陽菜さんのお兄さんなんですね。私、陽菜さんと同じNICUで新生児科医として働いている藤堂大雅です。よろしくお願いします」
「陽菜の兄で矢崎永遠です。虹の橋製薬に勤めてます」
「まぁ、虹の橋製薬さんで。ご立派ですね。私、大雅の母で藤堂沙穂子と言います」
「初めまして。大雅の姉の藤堂雫です」
どんな集まり? と思ったのも始めだけで、食事が進んでくると楽しく会話が進んでいった。
「陽菜は小さい頃なんて救急車のサイレンが怖くて、俺の服の裾を握りしめて泣いてたのに、まさか看護師になるなんて思いもしなかったです」
「あら陽菜ちゃん、可愛らしかったのね。雫なんてサイレンの音が聞こえたら窓にはり付くように外をガン見してたのよ」
「そうなんですか。逞しいです」
盛り上がってるとき、何気に陽菜に視線を向けると、藤堂先生と内緒話をしている。
──おいおい近すぎないか? にぃちゃんの存在を忘れてないか?
「早く陽菜ちゃんが大雅のお嫁さんになってくれないかしら。今から待ち遠しいわ。可愛らしい娘が増えるんですものね」
「私は可愛らしくないって言うの?」
──お母様、それは言葉選びが……。
「あなたは男勝りなんだもの。なんなら大雅より肝が据わってるくらいだわ」
陽菜が妹で良かったと思いつつ、その陽菜へ視線を向けると。
──あれ? どこ行った?
「陽菜ちゃんでしたら、大雅と抜け出したみたいですよ。さっき大雅がコソコソと話していましたから」
「挨拶もなしに失礼な妹ですみません」
「えっ? 挨拶してもらいましたわよ。私」
「私もです」
──藤堂先生のお母様とお姉様に挨拶して、大好きなお兄ちゃんは無視して帰ったのか!?
「残った者で、楽しくお食事の続きしましょうよ」
食事をしながら、抜け出した二人の黒歴史を暴露しながら盛り上がる三人であった。




