陽菜×笹井六花
「悟、先にお昼行ってきていいよ。残ってる事があるなら私がやっておくから。悟のお腹がさっきから鳴ってるもんね。ご飯食べてお元気チャージしておいで」
「陽菜先輩、神ぃぃ〜。僕、お腹ぺこぺこだったんです」
「食堂のおばちゃんに、いつもみたいにご飯大盛りしてもらって」
「いつもおまけに小鉢をつけてくれたり、プリンをくれることもあるんですよ」
「良かったね。ほら行っておいで」
「は〜〜い。陽菜先輩、いってきまぁぁ〜すぅ」
悟がお昼休憩に行ってしばらくした時、病棟入り口にひとり立っている女性がいることに気づいた。
「ねぇねぇ、前田君。あの入り口の人誰かなぁ。ウチに用事かなぁ」
「用があるなら誰かに声かけるだろ。なんか黙って覗かれてるのって嫌な感じだな」
何かあれば呼ばれるかな? と思い仕事に戻る。しばらくして病棟入り口から声をかけられた。
「あの……」
──えっ、まだ居たんだ!
「はい、どうされました」
その女性の元へと歩み寄り対応をする。
「ウチの弟がいつもお世話になってます。私、笹井六花といいます」
「えっ、笹井君のお姉さんですか。こんにちは。私、笹井君の指導看護師をした矢崎陽菜です」
「弟を一人前にしてくださって本当にありがとうございます。末っ子で甘えん坊なところがあるのに、人様の命を預かる仕事で、それもまさか言葉も通じない小さな子。ご迷惑をおかけしていないかお話を伺いに来ました」
そう言って頭を下げる。悟のお姉さん。
「本当ならまだ勤務のはずだったんですが、お腹鳴らすくらい空腹だったみたいでしたので、先程お昼を食べに席を外しました。今頃はモリモリ食べてると思います」
「全く仕方ない子だわ。本当にご迷惑かけてばかりで申し訳ありません」
「いえいえ、同じ日勤なので、どっちが先に休憩に入っても良いんです。お腹いっぱいになって戻ってきたら、頑張ってもらいますから。気にしないでください」
そんな話をしていたら、お腹がいっぱいになった様子でご機嫌な悟が戻ってきた。
「あれ? 六花ねぇちゃんと陽菜先輩って友達だったんだぁ。世の中狭いねぇ……」
「…………」
「…………」
私も悟のお姉さんも、呆れ返って言葉が出ない。それに気が付かない悟の独壇場。
「六花ねぇちゃん、どうしたの? NICUに用事?」
──どんな用事があるんだよ!? って思わず突っ込みそうになったわ。我慢我慢。
「悟がちゃんと働けてるか伺っていたんだよ」
「六花ねぇちゃん、授業参観みたいだね」
──いやいや、悟。それを言うなら職場見学とかじゃないか?
「悟、皆さんに迷惑かけないんだよ。しっかりしなさいよ」
「六花ねぇちゃん、僕は敏腕ナースなんだよ。大丈夫大丈夫! 心配ないよ」
「…………」
「…………」
悟が自信たっぷりのときほど、周囲は不安になることを、私もお姉さんも身を持って知っていた。
「そうそう。六花ねぇちゃん、あんまり大きい声で言えないんだけど、今食堂でプリン二個もらっちゃった。急いで食べたよ。だってこの病院……神隠しが起こるんだ。し〜だよ! 聞かれたらマズいから」
きょろきょろと辺りを見渡す悟を見て、私もお姉さんも、誰にマズいんだよとサイレントつっこみを入れつつ、引きつった笑顔のワンペアが出来上がった。
「さぁて、午後もお仕事がんばりますよぉ!」




