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王子様×来る来ない

 なんか目がしょぼしょぼするなぁ。眼科受診かなぁ……。


「陽菜ちゃん、目どうかした?」


「あっ、真智先輩。何だかしょぼしょぼするんですよねぇ」


「それなら眼科に仲良い同期がいるから、聞いてみてあげるから受診しておいでよ」


 そう言って真智先輩は内線で連絡をしてくれた。


「陽菜、帆那美が今ならナースステーションにドクターいるから、診察してもらえるよだって。ウチのナースが行くって言っておいたからいってらっしゃい」


「真智先輩ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて行ってきます」


 眼科病棟ってどこだったっけなぁ。3病棟の7階だったよね。遠いなぁとか思いながら、迷子防止を兼ねて王道の行き方で眼科病棟を目指す。先週悟が、皮膚科病棟を近道の職員裏通路を通って颯爽と歩いていって迷子になってたからなぁ。あの迷子になってた時の悟、捨てられた子犬みたいになってたからなぁ。やっぱり王道の行き方で行こう。


 眼科病棟の扉を開き、ナースステーションに向かって歩いていると、処置室と書かれた扉の向こうから、泣き叫ぶ声が聞こえた。


「いやだぁ〜〜」


 元気だなぁ。幼い頃って処置室とか診察室って怖い場所だし、行きたくない場所ナンバーワンなんだよね。


「もしかして真智のところのナースさんかな?」


「はい。矢崎陽菜です。よろしくお願いします」


「今、篤志あつし君の処置始まっちゃったから、しばらく待ってもらえる?」


「はい。大丈夫です」


 ナースステーションの一角で待たせてもらっていると、処置室から悲痛な叫び声とそれを宥める看護師の声、さらにそれを割って会話するドクターの声が聞こえてきた。


「それじゃあ、お目々診せてもらおうかな」


「いやだ」


「すぐに終わるからね」


「どれだけ?」


「う〜ん、どうかなぁ。良い子にしてたらすぐ終わるからね」


「ぼく、良い子だもん」


「そうだね。それじゃあ診るよぉ」


 ドクタースルーしたね。ウチの病棟では見られない光景に微笑ましくなった。


「嫌だっていったじゃん」


──うん、確かに言ってたね。この子、会話上手だなぁ〜。


「いたい〜。嫌だっていってるじゃん。おわりぃ〜」


──うんうん。わかるよ。


「もうすぐだよ」


──看護師ならそう言うしかないよね。これもわかるわかる。


「良くなってきてるね」


──良かったね! 頑張れ〜!


「じゃあ、もう終わり」


「まだだよ」


「すぐって言った!」


「もうちょっとね」


「痛くて死んじゃうよ! だからもうおしまい!」


──頑張るなぁ〜。痛くて死んじゃうかぁ。ここ総合病院だから大丈夫だよ。


「はい、終わったよ」


──良かったね〜。頑張ったね! 偉いぞ!


「もうおしまい!」


──うんうん! 終わったね。そう思っていると、ドクターのひとことが……。


「反対のお目目ね」


──おぉ! そうきたかぁ。じゃあ、終わったよって言ったらダメよ。


「嘘つき! おしまいって言った!」


──うんうん。私もそう思ったよ。頑張れ! キミなら頑張れるよ!


 またまた処置室が賑やかになる。大変だなぁ、小さい子の治療ってと思っているとドクターの声が聞こえた。


「良く頑張ったね。終わったよ。また明日も頑張ろうね」


「もう、ここ来ない」


 真剣なんだろうけど笑えちゃって立派な会話成立に感心していた。


「えぇ〜、頑張ろうよ」


「意地悪ばっかりしてたら、王子様来ないからね!」


「あら、大変」


 えぇ〜、なにこの会話。癒されるわ〜。すると処置室の扉が開き、一人の男の子が私の前でピタリと止まった。


「頑張ったね。お疲れ様」


 そう言うと、この男の子が私に。


「ありがと。お姉さんは優しいから白馬に乗った王子様が来てくれるよ!」


 そう言って病室に戻っていった。


──白馬に乗った王子様かぁ。本当に現れたらびっくりして逃げるなぁ。今時、馬はないわぁ。


 近くにいた眼科の看護師のひとりが、今の会話を聞いていたようで。


「白馬より高級車よねぇ」


──まぁ、確かに馬よりは。


「はははっ。そうですよね。馬だと駐車場停められそうにないですし」


「…………ぷっ」


「…………ぷっ」


 二人でその光景を想像し、同時に吹き出してしまいました。


「矢崎さん、どうぞ」


「あっ、はい」


──私もいい子だから、早く終わらせて下さいね。


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