陽菜×気遣い
病棟の内線が鳴り、伝言を預かったので本人に伝える。
「真智先輩。産科の松山先生が、手隙の時に産科の医局に来て欲しいそうです」
「ありがとう。了解!」
──ん? 産科の松山先生が……。ふふう〜ん。そういうことね。なんだぁ。そうならそうと言ってくれたら、オペ室担当も松山先生の時だったら代わってあげるのに…。次から気を遣ってあげなくっちゃ。
「真智先輩、私の分終わったので代わります。松山先生待ってますよ。ふふっ」
「陽菜ちゃん? なぁに。そのふふって」
「えぇ!? いやぁ、ゆっくりしてきて良いですよ。何かあったら連絡しますから」
「気が効くわね」
「はい! しばしの逢瀬。いってらっしゃい。ごゆっくりどうぞ。誰にも言いませんから」
「陽菜ちゃん、お気遣いありがとう」
「いいえ。大丈夫です」
何が大丈夫なのかも理解していないが、真智先輩も松山先生に会いたいのだろうと思って気を遣ってみた。
「昨日陽菜ちゃん、藤堂先生とラブラブだったわね」
「えっ!? 昨日!?」
「一緒に帰ってたもんね。駐車場で何してたのかな?」
──はい? 何してました? 私。普通に車に乗って帰りましたよね?
「普通に車で帰っただけですよ」
「病院の駐車場でエスコートしてもらってたわよね? 何も起こらなそうな職員用の駐車場で!」
──ええ〜、そんなことしてもらってました? 私。
昨日の記憶を思い出す。いやいや、何もない……はず。なんで松山先生の話から私の話になっちゃうの?
「真智先輩、松山先生が待ってますよ! 早く行ってあげてください。私伝言伝えてないみたいじゃないですか」
「手隙で良いって言ってなかった?」
「今、お手隙ですよね? 私をイジってるだけじゃないですか。早く行ってあげてくださいよ」
どう言っても勝てそうもないけど、頑張ってみた。
「陽菜ちゃんに追い出されました。って松山先生に泣きつこう」
「えぇ、追い出してないもん」
その時、天の助けが現れた。
「坂倉さん、あまり陽菜を虐めないで下さいね」
「えっ、私、虐めてました? 可愛がってるの間違いじゃないですか!?」
「松山先生に……」
「藤堂先生! わかりましたから。陽菜ちゃん、ここは任せるわね。お願いね。ちょっと行ってくるわね」
──ん? 藤堂先生がひとことで真智先輩を静かにさせちゃった。できたら、その技を伝授してもらいたい。
「いってらっしゃい。ごゆっくり。ふふっ」
「陽菜ちゃん、だからその、ふふって。もう」
そう言いながら真智先輩はナースステーションを出て、産科の医局へ向かっていった。
「それじゃあ、陽菜ちゃん、頑張って。終わったら一緒に帰ろうね」
藤堂先生も私にひとこと残して医局へ戻っていった。
「陽菜せんぱ〜い! ももちゃんがうんちぃ〜」
「オムツ替えてあげてね」
静かな病棟は、どこへやら。今日も賑やかに過ぎていく。




