陽菜×真悠子先輩
「陽菜さん」
うわっ、真悠子先輩が私をこう呼ぶ時って決まって良いことではない。
「……はい?」
「陽菜さん? 私に何か伝え忘れていることないかしら」
──えぇ〜、なんでしょう!?
「真悠子先輩に……ですよねぇ」
「そうよ。忘れているわよね!?」
真悠子先輩は、どこで何を聞いたのでしょう。
──私が真悠子先輩に伝えてないことで、聞きたがっていること……。わざわざNICUに来てまで聞きたいこと。う〜ん。
「陽菜ちゃん、ヒントが欲しいの?」
こわいこわい。目が笑ってないですよ。
「はい。できればヒントお願いします」
「陽菜ちゃん最近、幸せみたいよね。申し送りの後、何やらあったらしいわよね?」
──ひぇ〜。真悠子先輩。その情報はどこでお聞きになられたのでしょう。
「あっ、もしかして……ご報告の事でしょうか?」
恐る恐る聞いてみると。
「そうよ。病棟に報告して、学生時代からお世話している私に報告が無いのはなんでかしら? 親切だから私が、はるばる泌尿器科からやって来たのよ。ここまで」
──こわいこわい。すっかり忘れていたけど。いやいや、えぇ〜。どうすれば良いの?
このやり取りを見物していたNICUの先輩看護師達は、笑いながらどこかに連絡していたみたいで、真悠子先輩がきっと目的だった人物が、いつのまにかナースステーションに顔を出した。
「陽菜ちゃん」
私を呼ぶ声が後ろから聞こえて振り返ると、藤堂先生がこっちに向かって歩いてきた。そして真悠子先輩に向かって。
「初めまして。新生児科医の藤堂大雅です」
藤堂先生が真悠子先輩に挨拶をした。
「初めまして。私、陽菜ちゃんの大学時代からの先輩で、泌尿器科病棟の春海真悠子です。よろしくお願いします」
真悠子先輩と藤堂先輩が挨拶して何やら会話をしている。その様子をバッチリ見ているNICU病棟の先輩達。
──絶対後から突っ込まれるやつだ。弥生先輩、聞く気満々の顔してるもん!
「陽菜ちゃん。今度、女子会しましょうねぇ〜」
──うわっ、そこで処刑されるのですね。怖いぃぃ。
「……ハイ」
じゃあねぇ〜と、手を振り病棟へ戻っていく真悠子先輩を見送り、逃げるようにオムツを持って保育器に向かったのは言うまでもない。




