陽菜×心の灯火
「陽菜ちゃん、少しお願いがあるんだけど良いかしら?」
師長のこの感じ、嫌な予感しかない。
「嫌ですって言えるんですか?」
「またまたぁ、陽菜ちゃん冗談が好きなんだから。もう小悪魔ちゃんねぇ」
──いやいや、絶対に私は悪くない。誰か助けてください。
周りに視線を送ると先輩たちは一斉に視線を外し、バタバタし始めた。
──先輩達あからさますぎませんか!?
「なんでしょう?」
「あら、ありがとう。引き受けてくれると思ってたわよ。さすがウチの看板ナース」
「とりあえず話を聞くだけですからね! 引き受けるかどうかはその後ですよ?」
「もっちろんよぉ〜。いやぁねぇ」
私の危機管理センサーは警報を鳴らしている。誰かこの師長の無茶振りを止めて欲しい。
「うちの病院の職員冊子『灯火』で、今月のイチオシナースのインタビューを受けて欲しいの」
「嫌です」
「陽菜ちゃん、そう言わずに。ねっ」
──これはもう決まっているパターンだな。打診という名の決定事項の伝達だよ。絶対にそうだよ。
依元看護師長がスーツを着た見慣れない人と話をしている。そして……。
「陽菜ちゃん、ちょっと来て」
きたきた、憂鬱だなぁ。そう思っていた時、藤堂先生が私にだけ聞こえるように。
「陽菜、いってらっしゃい。頑張って。応援してる」
そう言って笑顔で医局へ戻っていった。プレッシャーだけ与えて戻っていくって、後から覚えててよ。絶対に文句言ってやるんだからね! と心に誓った。
「お待たせしました」
師長の隣へ並ぶと、師長は広報の人に「この子がNICUの期待の星、矢崎陽菜です」と告げた。
──うわっ、師長どんな紹介してるんですか。ハードルあげないでくださいよ。
「広報担当の倉田海都です。よろしくお願いします」
「矢崎陽菜です。よろしくお願いします」
別室に移動してインタビューが始まった。倉田さんの質問に答えるだけだが、冊子に掲載されると思うと、ついついかっこよく答えなきゃと思ってしまう。
「それではまず、看護師になって理想と現実で悩まれた事などありますか?」
──えぇ〜、こんな質問なの!? マジかぁ。
「憧れの職に就いてはや6年。初めて白衣に袖を通した時は何もわからず、ただ必死で先輩について仕事を覚え、毎日が慌ただしく過ぎていきました。自分が理想としていた姿とはほど遠く、悔し涙を流した夜もありました。特に入職後は、テレビを点ければどこの放送局も、新型コロナについて、今日の感染者数は……死者数はと連日報道がなされ、離職する者も多かったと聞いています。コロナ禍での面会は、直接触れ合う事が出来なくなったことにより、タブレットでの面会に変更されましたし。特にこのNICUでは、面会は厳しく管理されていました。自身も感染しないように、細心の注意を払う生活が続きました」
「そうでしたよね。コロナとの戦いは患者だけでなく、医療従事者も壮絶でしたからね」
「医療従事者というだけでバイ菌扱いを受けた事もありますし、心ない暴言を吐かれたことをも少なくありません」
「それでも乗り越えられたのは? 何かあったのですか」
「同じ病棟で働く仲間の支えが大きかったですね。先生方も忙しくされているのに、私に声をかけて励ましてくれたり、先輩看護師の声かけだったりが大きいです」
「それでは最後に、これからの目標であったり、目指している事があればお願いします」
「そうですね。強いていうなら、指導してきた後輩看護師の後追いをして、更に上を目指させる見守りですかね」
「たくましいですね。依元看護師長の期待を背負って頑張っているわけですね。取材協力ありがとうございました」
こうして終わった社内報『灯火』の取材。
──めっちゃ疲れた。慣れないことをするからだよね。病棟戻ったら絶対に文句言うんだからね!
ナースステーション戻るとみんなに出迎えられ労いの言葉をもらったり、弥生先輩にハグされたり、悟が騒いでいたり。文句を言い逃してしまったけど、いつも通りの時間に癒される場所だなぁと改めて感謝した。




