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第七十八話 懸かる雲なし


ファングはスノーを支えながら、アルマの元へと急いだ。


「……もうちょっとや……!」


アルマは息を荒げながら、片腕で魔法陣を展開していた。


ワタル達一向とカナタ達生き残った獣人の子供達は身を寄せ、アルマの移動魔法の発動を待っている。


アルマは魔法陣の光を見つめながら、かすかに唇を噛んだ。


(…この人数で移動するのは…今のウチに出来るやろうか…いや…ムリや…少しでも可能性があるとしたら…)


胸の奥で、冷静に計算する。今の自分の状態では、全員を一度に転移させるのは不可能。せめて、できるだけ多くの者を逃がさなければならない。


(…なら、ウチはここに残るしかないな…)


覚悟を決めると、アルマは静かに口を開いた。


彼女の声はいつになく穏やかだった。まるで、これが最後であるかのように。


「なんか……色々あったけどな。」


アルマはかすかに笑みを浮かべた。その目は、サヤを見つめている。


「サヤ……ウチはな…あんたがミヤビの生まれ変わりなら」


アルマの声が震えた。


サヤは息をのんだ。


「……え?」


「もし、そうやったらな……もうちょっと、ちゃんと話したかった。」


アルマは微笑もうとしたが、それはどこか儚げで、切なげだった。



「覚えてへんのは分かってる。でもな、サヤ……あんたの言葉や仕草、優しさ……なんか知らんけど、ミヤビを思い出させるんよ。」


アルマの指先が魔法陣をなぞる。魔力の光が揺らぎ、次第に強まっていく。


「もしも……もしもやで。あんたが本当にミヤビの生まれ変わりなら……また、どこかで会える気がする。」


サヤの胸が、締めつけられるように痛んだ。なぜか分からない。アルマの言葉に、心の奥がざわつく。まるで、何か大切なものを思い出しそうで——でも、それが手の届かないところにあるような感覚。


「アルマ……?」


「だからな、サヤ。」


アルマはふっと笑い、優しく、しかしどこか寂しげに言った。


「今度は…生きてくれ。」


「待って……アルマ、何を……」


「ほな、行くで。」


アルマの声と同時に、魔法陣が輝きを増した。


——眩い光が瞬く間に広がり、周囲の空間が歪む。


「アルマ!!!」


ワタルが叫び、サヤが手を伸ばす。しかし、その手は光に阻まれ、彼女に届くことはなかった。


(……これでええ。これで、ええんや……)


アルマは微かに微笑み、魔法陣にさらなる力を込めた。


「……あかん、ここはもう終わりや。せやから——」


その瞬間、魔法陣の光が一気に収束し——


——ワタルたちが、消えた。


しかし、そこにアルマの姿はなかった。


「アルマ——!?」


ワタルたちが転移した先で、サヤが息を荒げながら周囲を見回す。


「嘘でしょ……? アルマは……?」


「……っ!!」


スノーが拳を握りしめ、ファングは奥歯を噛みしめる。


「……置いて、きた……?」


ワタルがようやくその現実を理解し、唇を震わせた。


——アルマは、自分だけを除外していたのだ。


「なんで……なんでよ……!!」


サヤの目に涙が浮かぶ。


「……っくそ!!」


ワタルは地面を殴りつける。悔しさと無力感が胸を締めつけた。


「アルマ……!!」


そして、戦場に残されたアルマは——


彼女は、一人きりで氷塊の前に立っていた。


 ——まばゆい閃光と共に、ワタルたちは消えた。


 転移魔法が成功した証拠だ。これで、あいつらはもう安全な場所へ逃げたはず。


残されたウチは、静かに息を吐いた。


空間にはまだ魔法の余韻が漂い、焦げるような匂いと血の匂いが混じる。片腕を失った痛みは、もはや意識の外だ。とっくに限界を超えとる。


でも、まだ死ねへん。


最後の仕事が残ってる。


氷塊の向こうから、砕けた氷片が飛び散る音が聞こえる。


 「……やっと壊れたか。」


 レイジの声が聞こえた。リンカもいる。


 「ちょっとー!あんなデカい氷で塞ぐとか、マジでありえないんだけど!」


 「まぁ、アイツらはもう逃げたみたいだけどねぇ。」


 「……つまんない。」


 氷壁が砕け、やつらが視界に入る。


 ——今しかない。


全身が警鐘を鳴らす。魔力の底は見えてる。でも、最後の力なら振り絞れる。


 復讐を果たすなら……今しかないんや。


この人生、ろくでもないことばかりやった。


ウチは、悪に堕ちた。


 誰かを救うどころか、奪う側になった。何もかもを踏みにじり、何もかもを諦めてきた。


それが、私の選んだ道や。


でも、手を差し伸べてくれる人間にまた出会ってしまった。


今さら、後悔しても遅い。罪は消えへん。やり直しもきかん。


でも、せめて——


せめて、最後に悪としてのケジメをつける。


ウチがこの手で命を奪ってきた、その報いを。


奴らはウチに気がついていない…。

小型の兵器の類は叢雨の者から半ば頼み込まれるような形で所持している。


ウチは、そっと懐に手を伸ばす。


そこにあるのは、小型の炸裂弾。


叢雨の仲間から渡されたもの。


「アルマ様、どうかこれを……!」

「なんでウチがこんなもん……」

「アルマ様のためです……お願いです!」


ウチは拒んだ。


「こんなもん、持ったらあかんやろ。ウチが持つには、重すぎる。」


でも——


「違います!! これはアルマ様のためのもの……!」

「アルマ様に何かがあったら!」


…ウチは、そんなふうに慕われる資格なんてないのに。


あの内戦で、ウチはもう十分すぎるほどの地獄を見た。


戦場で兵器が何を生むのか、誰よりも知っとる。


だから、これまで使わずにきた。


でも——


ウチは静かに、魔法陣を展開する。


通常、移動魔法は退避のためのもの。


けど、ウチはこれを“攻め”に使う。


魔法陣が輝き、ウチの体が一瞬にして虚空に消える。


——瞬間、レイジの背後に立った。


レイジが驚愕の表情を浮かべる。


ウチは、迷わずレイジの背中に炸裂弾を押し当てた。


「地獄へ堕ちろ。」


——カチッ


「ッ……!!」


レイジが振り向くが、もう遅い。


炸裂弾が、炎と共に弾けた。


爆風があたり一面を包み込む。


火と煙が天を焦がし、轟音が大地を揺るがした。


リンカが咄嗟に身を捩るが、爆炎の勢いは止まらない。


熱風が肌を焼き、爆風が周囲を吹き飛ばす。


ウチは——


笑った。


「……これでええ。」


ウチの視界が、燃え盛る炎の色に染まっていく。


これで、終わりや。


今度こそ、最初からやり直せるやろか。


もう一度、違う道を選べるやろか。


そんな、どうしようもない願いを抱きながら——


ウチは、意識を炎の中へと沈めた。



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