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第七十四話 再会とそして

建物に近づくにつれ、微かに響く声が聞こえてきた。


「……やめて……お願い……!」


それは幼い子供のような声だった。震えていて、怯えているのが伝わってくる。


サヤたちは足を止め、互いに顔を見合わせる。


「子供……?」スノーが小さく呟く。


「なんでこんな場所に……?」ハウンも戸惑いの表情を浮かべた。


ワタルは建物の中に視線を向け、低く囁く。「まずは慎重に中の様子を探ろう。」


「せやな。迂闊に飛び込んだら罠かもしれへん。」アルマも頷く。


サヤたちは慎重に足を進め、建物の入口へと近づいた。中からはまだ、怯えた子供の声が響いていた――それと、低く抑えた誰かの怒鳴り声も。


アルマが突然よろめき、片膝をついた。


「アルマ!」サヤがすぐに駆け寄り、支えようとする。


「ちょっと……無理しすぎたみたいやな……うっ……少し、肩を貸してくれへんか……」アルマは息を荒げながらも、必死に立ち上がろうとした。


ワタルがすぐに手を差し伸べ、アルマの腕を肩に回す。「大丈夫か?」


「心配せんでええ……ただ、転移魔法でちょっと魔力を使いすぎただけや……」アルマは顔をしかめながらも、無理に笑おうとした。


「今は無理しないで…。 少し休んだほうが――」ワタルが言いかけた瞬間、建物の中から再び子供の悲鳴が響いた。


「いやっ!やめてっ!」


サヤたちは一斉に顔を上げ、緊張感が走る。


「……っ、悠長にしとる場合ちゃうな。」アルマは苦しそうに息を整えながらも、立ち上がろうとする。


「でも……!」サヤが不安げにアルマを見つめるが、アルマは短く首を振った。


「仮に罠なら…苦しんでいる子供はおらんかったってことや…やっぱりウチは行くで。」


アルマは息を荒げながらも、必死に立ち上がろうとする。その目には迷いはなかった。


ワタルは少しの間、彼女を見つめた後、静かに頷いた。「分かった。でも、無茶はするなよ。」


「フン、言われんでもな。」アルマは口元にわずかな笑みを浮かべたが、その顔色はまだ優れない。


「じゃあ、私たちが先行するから、無理はしないでついてきて。」サヤはアルマを支えつつ、慎重に進もうとする。


「とにかく、様子を見に行きましょう。」アルマに肩を貸しながら回復魔法でハウンは元気づける。


スノーも氷の魔法を準備しつつ、視線を建物の中に向ける。「ファング…本当にいるの…?」


サヤたちは緊張を張り詰めたまま、建物の入り口にそっと近づいていく。中からはまだ、子供のすすり泣く声が聞こえていた。


「……中に誰がいるにせよ、すぐに突っ込むのは危険や。」アルマが静かに言う。「まずは周囲を確認して、状況を把握せなあかん。」


「了解。」ワタルが小さく頷き、扉の隙間から慎重に中を覗き込む――。


すると向こうの壁の方からズドンと大きな音が響き、建物内の空気が一層緊張感を帯びた。


「何だ?」ワタルが身構え、手を伸ばしてサヤたちに静かに合図を送る。


「気をつけて。」ハウンが低い声で警戒を強める。


スノーは氷の魔法を握りしめ、すぐにでも放てる準備をしている。


向こう側からは子供達が飛び出してくる。どこ子供も特徴的な耳と尻尾を持っている。獣人だ。


悪質な排斥主義者が彼らをここへ閉じ込めていたのだろうか?


サヤたちは一瞬息を呑んだ。獣人の子供たちが逃げ出す様子は、状況を一層複雑にしていた。


「獣人……」スノーが驚きの声を上げる。子供たちはみな、耳が尖り、尻尾を持っていた。見た目は幼いが、その表情に一層の恐怖が宿っていた。


「一体、ここで何が……?」ワタルが低く呟く。


「気をつけろ。あの子たちだけじゃなく、背後にもまだ何かがあるかもしれん。」アルマが冷静に言う。その目は周囲の状況をきちんと見守っている。


サヤは一歩踏み出して、獣人の子供たちに声をかける。「大丈夫?怖がらないで、私たちが助けに来たから。」


1人の獣人の子供がワタルをじっと見つめ、近寄り抱きついてきた。


「ワタルくん…やっと会えた!私だよ!カナタ!」


(カナタ…!あの子だ…!獣人の姿だが間違いない…俺があの日助けられず川に飲み込まれていった…)


「カナタ…!」ワタルは声を震わせながら、子供をそっと抱きしめた。信じられないという思いが胸に込み上げてくるが、目の前の子供が彼に確かに抱きついてきている現実に、頭が追いつかない。


「ワタルくん、ずっと待ってたんだよ!」カナタは涙を浮かべながら、ワタルを見上げる。顔に泥がついていて、ずっと辛い状況にいたのだろうが、それでもその目はワタルを信じ、頼っていた。



サヤやスノーが驚きの表情で二人を見守る中、アルマも冷静に状況を確認していた。「あんた、どういうことや…?この子、知り合いなんか?」


ワタルは転生した経緯から手短に話した。


「どうしてここに…?」ワタルは息を呑みながらカナタに問いかける。


カナタは涙を拭いながらも、少し震える声で答える。「あの日、川で流された後…気がついたら、ここにいたんだ。いろんな人に助けられて、でもすぐにまた怖い人たちが来て…みんなで閉じ込められたんだ。」


「これで元の世界に戻れるんだよね!レフレ様が夢で言ってた!助けようとしてくれた人が転生したからその人を探してって!」


(突然のことで頭が追いついていない。俺にとってのこの世界での目的は今果たされた…)


「だけれど……俺は今……」


ワタルは言葉を詰まらせた。


カナタを助けること——それは彼がこの世界に来た意味そのものだった。だが、今の彼には、この世界で築いた絆がある。仲間たちと過ごした時間、共に戦ってきた日々——


「何してる?早く安全なとこへ行くぞ」


ワタルの思考を切り裂くように聞き慣れた声が響いた。


「……ファング!」


扉の奥から現れたのは、ボロボロの服をまといながらも鋭い眼光を宿したファングだった。


彼の双剣は既に抜かれており、まるで今しがた戦いを終えたかのように刃先には血が滲んでいる。


「アルマ…お前…誰にも話すなと契約をしていたはずだ…どうしてワタル達をここへ連れてきた?」



「ウチが悪名名高い叢雨であることを忘れたんか?金は返したる。わけあってこいつらに手を貸してもうただけや。」アルマは静かに言いながらも、ファングをまっすぐに見つめた。


「すまなかった…ただ俺はもう皆んなに合わせる顔がない…」


その言葉に、ワタルは目を見開いた。驚きと動揺が彼の表情を覆い尽くす。


「な、何を言ってるんだ、ファング!確かに勝手に出ていったことにはムカついてる。でも、だからって――」


「違うんだ、ワタル。」ファングの声は低く、どこか絶望感が漂っていた。「俺は、もうお前たちと一緒にいる資格がない。」


「何を言ってるの?」スノーが信じられないという表情で問いかける。「一緒に戦って、一緒に笑ってきたじゃない!なんで今さらそんなこと――」



「だからだ。」ファングはスノーを真っ直ぐに見据え、双剣を持つ手に力を込めた。「この獣人の子供達を解放するのと引き換えに俺は…天泣に…」


「そういうこと!残念でした!」とリンカが陽気な声で割り込む。



リンカの陽気な声が場の緊張を一瞬にして変えた。彼女はファングの隣に立ち、親しげに微笑んでいる。


「もうお兄ちゃんを縛りつけようとするのはやめてよね…あれ?」


リンカの視線がアルマに向けられた。彼女の表情には、どこかで見たことがあるという戸惑いが浮かんでいる。


「あなた、もしかして…」


アルマは微かに眉をひそめ、リンカを見返す。その目には、記憶を探るような色が宿っていた。


そのやり取りを見守るワタルたちも、緊張を隠せない。


「さて、ファングの話でもしようか。」


レイジは視線をファングに移し、にやりと笑った。


「彼、どこからか我々の居場所を嗅ぎつけて、単身で乗り込んできたんだよね。勇敢というか、無謀というか。」


「結果は見ての通り、オレたちに敗れてしまったけど、リンカがトドメを刺すのを止めたんだ。」


リンカは少し不満げな表情を浮かべながらも、黙って聞いている。


「それで、彼に提案したんだ。『天泣に入らないか』ってね。でも、彼は頑なに拒否した。」


レイジは肩をすくめて見せた。


「そこで、彼に知らせてあげたんだ。獣人の子供たちが我々の手に落ちていることをね。」


その言葉に、ワタルたちは驚愕の表情を浮かべた。


「彼は悩んだ末に、自ら我々の仲間になることを選んだのさ。子供たちを救うためにね。」


レイジの言葉に、ファングは苦渋の表情を浮かべ、視線を逸らした。


レイジはわざとらしく目元を拭い、声を震わせながら続けた。


「なんて慈悲深い男なんだろうね。オレたちが始末しようとしたのに、許してくれるなんてさ。」


レイジのわざとらしい泣き真似に、場の空気はさらに重苦しく沈んだ。ワタルたちは、信頼していた仲間の裏切りを目の当たりにし、言葉を失っていた。スノーは涙を浮かべ、サヤは拳を握りしめ、ハウンは悲しげに目を伏せた。




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