第七十三話 アルマの協力
「ファングを移した場所……探すん、協力したるわ。」
その言葉に、サヤは少し驚いたようにアルマを見つめた。ファングを移したのがアルマであることは、すでにみんな知っている。だが、そのアルマ自身が捜索に協力すると言い出すとは思わなかった。
「……本当に?」サヤは確認するように問いかける。
アルマは少し気まずそうに顔を背ける。「あんたらが勝手に探しても、無駄に時間がかかるだけやろ。ウチの知ってる範囲で手伝ったほうが早い。」
「……ありがとう、アルマ。」サヤは心からの感謝を込めてそう言った。
アルマは照れくさそうに「礼なんていらんわ」とつぶやきながら、「ほな、行くで」と歩き出した。サヤもその後に続き、ファングを見つけるための新たな一歩を踏み出した。
アルマは腕を組みながら、少し苛立ったような、それでいてどこか迷いのある表情で言った。
「……ウチはファングの目的なんて聞いてへんからな。どこへ行ったんか、何をしようとしてるんかも知らん。でも――」
彼女はふっと息をついて、サヤたちを見つめる。
「あんたらの思い……イメージをウチに伝えてくれへん?あいつも誰かを思い浮かべてた。同じようにするんや。」
サヤはアルマの言葉の意図をすぐには理解できず、少しだけ首を傾げた。しかし、アルマの真剣な眼差しを見て、彼女が何を求めているのかを察した。
「……イメージを、伝える?」サヤはゆっくりと繰り返した。
アルマは腕を組みながら、少し苛立ったようにため息をつく。「ウチはな、ただの直感だけで動いとるわけやない。あんたらの気持ちがはっきりわかれば、それを手がかりにできるかもしれへんのや。」
「気持ちを……?」サヤが確認するように問いかけると、アルマは小さく頷いた。
「せや。ウチはファングの目的を知らん。でも、あんたらはあいつのことを知っとるやろ? どんな奴で、何を考えて、どんな道を選びそうなんか。ウチが欲しいんは、そういう情報や。」
サヤは一瞬考え込み、やがて微笑んだ。「わかった。私たちの知ってるファングのことを、できるだけ伝えるよ。」
ハウンやスノーも頷き、ワタルも真剣な表情で口を開いた。「ファングは……強がりだけど、本当は仲間を大切にしてる。自分のことよりも、俺たちを優先するようなところがあるんだ。」
「あと、責任感が強すぎるんだよね。自分で何とかしなきゃって思い込む癖がある。」スノーが少し困ったように言う。
「一人で背負い込むことが多いよね。」サヤも続ける。「だから、もしかしたら……誰にも頼らずに、何かを解決しようとしてるのかもしれない。」
アルマはそれを聞いて、目を閉じたままじっと考え込んだ。
「……なるほどな。」ゆっくりと目を開いた彼女の表情には、先ほどまでの苛立ちよりも、少しだけ確信に近いものが宿っていた。
「おおきに。少し、見えてきた気がするわ。」
彼女の言葉に、サヤたちは期待を込めてアルマを見つめた。
アルマはサヤたちを見渡し、真剣な表情で続けた。
「そのまま強く頭に思い浮かべて。ファングが今、どこにいるのか、何を考えてるのか――ウチが感じ取れるように。」
サヤたちは顔を見合わせ、互いに小さく頷いた。そして、それぞれの中にあるファングの姿を思い浮かべる。
強く、真っ直ぐで、仲間を思いやる不器用な男。
自分のことよりも、誰かを守ることを優先する、そんな彼の姿を。
サヤは目を閉じながら、ファングがどこかで一人で戦っているのではないかという不安を感じていた。
ワタルは彼が何かを決意したときの真剣な表情を思い浮かべていた。
ハウンは彼の意地っ張りなところを思いながら、きっと自分たちを巻き込まないようにしているはずだと考えていた。
スノーは彼の寡黙な優しさを思い出しながら、どうしてそんなに一人で抱え込むのかと、少し腹立たしく思っていた。
アルマはそんな彼らの表情をじっと見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
「……あんたら、ほんまにファングのこと、大事に思っとるんやな。」
そう呟いたあと、アルマは深く息を吸い込み、意識を集中させる。
「……見えてくる……」
その言葉に、サヤたちは息をのんだ。
「準備はええか?行くで!」と紫の煙が一気に広がり、視界を覆い尽くした。
「うわっ……!」スノーが驚いて身を引き、ワタルは反射的に剣に手をかける。
「落ち着け!」アルマの声が響いた。
サヤたちは息を呑みながらも、アルマを信じるようにその場に留まった。煙の中で、アルマの姿はぼんやりと揺らぎながらも、しっかりとした気配を感じさせる。
「……見えたで。」
アルマの低い声に、全員の緊張が一瞬にして高まる。
「ファングは……」アルマは目を開き、じっと前を見据えながら言葉を続けた。「今、北の方角におる。」
「北?」ワタルがすぐに反応した。
「そろそろ煙が晴れるで。」アルマが言うと同時に、紫の煙がゆっくりと薄れていった。
「……急ぎましょう。」ハウンは小さく呟きながら、決意を込めた目で皆を見た。
「ファングを、迎えに行こう!」
視界が開けると、目の前には険しい山々が連なっていた。風が吹き抜け、肌寒さを感じさせる。
「ここ……山の上……?」スノーが息を整えながら呟く。
「せや。」アルマが険しい表情で頷く。「あの建物の中…ウチの魔法はそう反応してる…」
全員の視線が向かった先――霧がかった山の頂に、古びた建物がそびえ立っていた。岩壁に囲まれたそれは、まるで隠れ家のようであり、同時に何かを封じ込める牢獄のようにも見えた。
「急ごう。」ワタルが静かに言う。
「でも、どうやって?」サヤが険しい顔をする。「正面から突っ込むには危険すぎるよ。」
アルマは目を閉じ、一瞬だけ集中した後に答えた。「抜け道があるかもしれへん。こっちや!」
彼女を先頭に、サヤたちは建物へと向かって駆け出した。風がさらに強く吹き、嵐の前の静けさのような緊張が辺りを包んでいた。





