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第六十七話 アルマの過去

アルマはしばらく黙っていたが、ふと顔を上げてワタルたちに語りかけた。


「実は、ウチ、ある天泣のメンバーを名乗る女と出会したことがあってなぁ…」アルマの言葉は、突然の告白にワタルたちを驚かせた。「あいつ、同じ痣を持っとった。あの時、ウチはそいつに顔に傷をつけられたんや…忘れもしない。」


ワタルは一瞬、アルマの言葉に驚きの表情を浮かべたが、すぐに冷静さを取り戻し、慎重に言葉を選んだ。「同じ痣を持つ天泣のメンバー…それが一体どういうことか、教えてくれ。」


アルマは少し目を細め、過去の出来事を思い返しているようだった。「その女、リンカって名前やった。」


リンカ…ラグド王国で出会ったファングの妹を名乗る凶悪な人物。ワタルも知っている者と同一人物で間違いないようだ。


*****

時は10年前


アルマは、ラグド王国の出身だった。あの内戦の年、国が壊れ、家族を失い、世界が崩れ去るような感覚に襲われた。10歳だった彼女はその戦火から辛くも逃げ延び、シジュウ共和国の土地に辿り着いた。あの日の恐怖と無力感は、今でも彼女の心に深く刻まれていた。


シジュウでは、彼女のような難民が数多くいた。過ごした日々の痛みが彼女を押し潰そうとしていた。その時、アルマの目に止まったのが、シジュウの寺院でひっそりと祈りを捧げる人々だった。彼らの信仰と儀式、そこには何かを信じる力があった。それがアルマに深い影響を与えることとなる。


シジュウには、かつて転生者が国を救ったという伝承があった。その神話は、彼女が心の奥底で求めていたものに似ていた。力を得ることで、無力感に支配されず、何かを変えることができるのではないか。その時、アルマの中に新たな希望が芽生えた。そして、信仰と転生者の伝説に深く惹かれるようになった。


それから3年が経ち、シジュウでの生活に少しずつ馴染んでいた頃、アルマはある人物と出会った。彼女の名前はリンカ。最初に出会ったのは、ある日、街の広場で行われていた祭りの日だった。リンカは周囲の喧騒に紛れて、一人で静かに立っていた。彼女の姿に、アルマは何か異常な感覚を覚えた。


リンカは紫色の髪を風になびかせ、華美な衣装に身を包んでいた。その場の喧騒に溶け込んでいるようで、どこか異質な存在感を放っていた。アルマが彼女に近づこうとすると、リンカの方が先に気づき、にこやかに手を振った。


「やっほー、そこのお姉さん!アンタもお祭り楽しんでる感じ?」リンカは気軽な様子で声をかけてきた。彼女の口調には友好的で、どこかギャルっぽい雰囲気があった。


アルマはその軽い調子に少し戸惑いつつも、礼儀正しく会釈した。「あんた、シジュウの人間には見えへんけど…」


「バレた?ウチ、ここらの人じゃないんだよねー」リンカは笑顔で応じた。「実はさぁ、ウチ、転生者なんだわ。まぁ、わかんないかもだけど、前世があるってヤツ?」


その言葉に、アルマの心は大きく揺れ動いた。転生者はシジュウに伝わる伝説の存在だ。彼女は、リンカの言葉がただの冗談ではなく、本当にその伝説を体現しているかもしれないと感じた。「本当に…転生者なんか?」


リンカは楽しげにうなずいた。「うん、ほんとだよー。でさ、お姉さん、もしかして、アンタも転生者とかに興味ある系?」


「その痣は…そうやな。この腐った世の中を変えてくれるっていう転生者…その痣、転生者の証やろ?」アルマはリンカの手首にある星形の痣を指して言った。シジュウで伝説として語られる「転生者」の痣を、彼女は初めて目の当たりにした。衝撃と希望が彼女の胸に湧き上がる。「この世を変えてくれる存在なんやろ?」


「ただの迷信かもしれない」そんな考えもよぎったが、アルマはそれを必死に否定しようとした。今までの無力感や喪失感を乗り越え、何かに縋りたかった。そして、目の前のリンカが本物の「転生者」であれば、彼女の抱える痛みや悔しさを救ってくれるかもしれない、そんな淡い希望が彼女の胸に生まれた。


アルマはふと手を差し伸べられる感覚を覚えた。その手は不思議に冷たく、まるで冷徹に冷やされた石のようだったが、その冷たさが逆にアルマを引き寄せた。リンカの目にはどこか冷徹さがあり、感情がこもっていないように感じられた。それでも、アルマはその冷たさを拒絶することなく、黙って受け入れた。


リンカは手を軽く振りながら、肩をすくめた。「今まで苦しかったんだねー。よしよし、そんな過去は忘れて、前を向こうよ。」その声は優しさを装っていたが、どこか冷たさが残る言葉だった。


「そんな過去…?ウチの家族は…!友達は…!皆んな天泣に…獣人に殺された…それをどうやって忘れろっていうんや?」アルマの声は震え、怒りと悲しみが入り混じった感情が溢れ出していた。


「獣人がそんなに嫌い…?私がその仇だって言ったら?」


リンカは挑発的な笑みを浮かべ、手首の痣を見せながら、冷たく言い放った。「本人の前で悪口言うのって、ちょー失礼じゃない?」


アルマは、リンカの挑発的な笑みに一瞬、言葉を失った。しかし、その次の瞬間には彼女の目に怒りの炎が宿っていた。


「お前が…!」アルマはリンカの言葉に全身の血が沸き立つような感覚を覚えた。怒りで震える声で言い放とうとするが、リンカの冷たい笑みと視線がそれを押さえ込む。


「いやいや、そんな簡単に決めつけないでよー。」リンカは手をひらひらと振りながら言葉を続けた。「私がその仇かどうかなんて、分からないじゃん?もしかしたら私の仲間がやったかもしれないし、そもそも別の獣人かもね~。」


「…ふざけるな!」アルマは拳を握りしめ、リンカに飛びかかりそうになる。しかし、一歩踏み出すのが精一杯だった。


リンカは一歩も動かず、ただ冷静にアルマの怒りを受け流していた。「アルマお姉さん、怒るのも分かるけどさ、ちょっとだけ冷静になろうよ。もし私がその仇だとして、倒せる力が今のあなたにあると思う?」


その言葉はアルマの胸に突き刺さった。彼女は自分の無力さを嫌というほど思い知らされ、悔しさで歯を食いしばるしかなかった。


「あれ?どこかいくの?」

気づけばアルマは背を向けたまま逃げ出していた。


あの無機質で冷徹な視線が怖かったのだ。心を抉るような言葉の節々からはとても血の通っている

人間のものとは思えない冷たさが感じられた。


(何が…転生者がこの世界を救ってくれるだ…馬鹿みたいや)


アルマは足元がふらつくような感覚にとらわれながらも、何とかその場を離れようとした。背後から聞こえるリンカの軽薄な声が、彼女の心をさらにかき乱していく。


リンカの冷徹な声が響いたとき、アルマは思わず振り向いた。しかし、その瞬間、リンカの動きは予想を裏切る速さで、彼女の腕を掴んでいた。


「お前…!」アルマは驚きと共に叫び、力を振り絞ってリンカの手を振り払おうとした。しかし、リンカの手は鉄のように強く、簡単には抜け出せなかった。


こうなったらやるしかない。


魔法の使い方はなんとなくでしか見たことがなかった。


父親が教えてくれた記憶が蘇る。アルマは、無意識にその方法を思い出し、力を込めて右手を空に向かって振り上げた。彼女の手から黒い霧がほとばしり出し、アルマの姿を完全に消した。


攻撃を仕掛けるつもりだったが、結果的に移動魔法でその場から逃げ出す形となった。


アルマが目を開けると、そこには見慣れた景色が広がっていた。だが、それはかつて彼女が知っていたラグド王国とは違っていた。街並みは一部が崩壊したままで、再建途中の建物が点在している。かつて賑やかだった広場には活気が戻りつつあるものの、以前ほどの熱気は感じられない。


「…ここは…ラグド?」

自分のいる場所を確認するように辺りを見回したアルマは、胸の奥に微かな痛みを感じた。帰るつもりのなかった故郷。彼女は、自分の意志とは無関係にこの地に導かれたことに戸惑いを覚えた。





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