第六十六話 アルマと転生者の証
「思ったより強い力が湧いてくるみたい。前に大猪と戦った時はあんなに苦戦したのに。」とハウンが言った。
「ワタルが無事で良かった!みんなよくやったねー!えらいえらい」とスノーが元気に声を上げ、サヤの方へ抱きつくが、彼女は「邪魔…暑い…どっか行ってよ」と、軽くため息をつきながらスノーを押しのけた。スノーはふくれっ面をしつつも、すぐに笑顔に戻り、「はいはい、もう行くよー」と言って軽やかに後ろへ下がった。
ワタルはホッと息をつき、改めて仲間たちの頼もしさを感じていた。
「さて、これからどうする?」とワタルが問いかける。
「焼けばいけるかな…?」とサヤは大猪だった肉塊を見つめる。
「獣臭くて食べられないって聞いたことがあるわ。でもそのままにはしておけないよね」とハウンが続けた。
「他の魔物が寄って来ちゃうよね。」とスノーが心配そうに言った。
サヤは思案顔でアルマに視線を向け、「アルマ、この大猪の肉、どうにか処理する方法とか知ってる?」と尋ねた。
アルマはサヤの質問に冷たい笑みを浮かべ、「ほんまに何も知らんのやなぁ…知ってると言ったらどうするんや?」と小馬鹿にするように口を開いた。
「いいよいいよ。本当はアルマも知らないんじゃないの?」とサヤが肩をすくめる。
「そない言うなら見せたるわ。アンタでええから手を貸しな」とアルマはムキになってワタルの方を向き、指示を出した。
「次は塩やけど、森の中やからそんなもんは手に入らんわな。」アルマは少し皮肉っぽく笑った。「その代わりに、木の灰が使える。火で焼いた木の灰を少しだけ混ぜて、臭みを抑えるんや。」
ワタルは驚いた様子で尋ねた。「灰を使うなんて思わなかったな。でも、どうやって混ぜるんだ?」
「灰を手に取って、薄くまぶす感じや。くれぐれも多すぎんようにせえよ。苦くなったらウチのせいにはすんなや。」アルマは軽く目を細め、少し嫌味っぽい口調で答えた。
ワタルはサヤを呼ぶと、彼女はうなずき、手をかざして魔法で小さな炎を生み出した。すぐに木を集めて火を起こし、できた木の灰を少し取り出してワタルに渡す。
「じゃあ、これで臭みを取れるか試してみようか。」ワタルは慎重に灰を大猪の肉にまぶし、アルマの指示通りに臭みを抑える準備を進めた。
「いい匂いになるかなー」とスノーが期待に満ちた表情で火の近くに寄ると、サヤが苦笑しながら「そんなに期待しない方がいいと思うけど…」とつぶやいた。
火がしっかりと燃え、肉がじりじりと焼かれる中、じわりと香ばしい香りが立ち始めた。意外にも大猪の独特な臭みがかなり和らいでいることに、一同は驚きを隠せなかった。
「…まあ、ウチは、食べるものを選べる環境なんてなかったからな。昔はどんなに臭くても、食べられるもんはありがたかったんやで。手に入る材料で、どうにかして美味しく食べようって色々試してたんや。」
ワタルはアルマの言葉に驚き、思わず彼女をじっと見つめた。彼の目には、いつも冷静で強気な態度を見せる彼女の新たな一面が映っていた。アルマの話し方や振る舞いからは普段感じられない、どこか温かさが垣間見えるようだった。
アルマはワタルの視線に気づくと、少しむっとした表情を浮かべた。「そんなに意外やったか?」と問いかけ、ワタルを見返す。その黒い瞳は、深い闇の中にかすかな灯りがあるようで、強さと同時にどこか孤独さも感じさせるものだった。
彼女は短めの髪を無造作に後ろへ撫でつけ、粗野な身なりにかかわらず、不思議と洗練された雰囲気を持っていた。長い戦いの日々が残した筋肉の引き締まった体は、しなやかさと力強さを兼ね備えている。日焼けした肌は、その過酷な生活を物語っており、彼女がどれほどの経験を重ねてきたかを感じさせた。
サヤはアルマとワタルのやり取りを見つめ、どこか不満げに顔をしかめた。彼女は一度視線を逸らし、「アルマ…美味しく焼けたよありがとう」とボソッと口にした。
「随分生意気な口をきいとったもん
なぁ…今どんな気分や?」アルマは少し皮肉めいた口調で笑う。
サヤは眉をひそめ、少し悔しそうに口を尖らせた。「…別に。感謝してるって言っただけだし。」
アルマはサヤの反応にクスクスと笑い、ふっと肩の力を抜いて座り直した。「そうやろ、もっと素直になれって。何でも強がるのは疲れるで。」
サヤはその言葉に一瞬むっとしたが、反論せず、黙って火を見つめるだけだった。
火がぱちぱちと音を立て、夜の静けさの中に小さな温もりが広がっていく。大猪の肉から立ち上る香ばしい匂いが、彼らの空腹をさらに刺激していた。
「うわっ、ほんとに美味しい!これならいくらでも食べられそう!」スノーが嬉しそうに言い、大猪の肉を頬張った。
ワタルは大猪の肉を焼き上げている火のそばに座り、熱さに耐えながらも、服の袖をまくっていた。その動作が何気なく目に入ったアルマの視線は、ふと彼の手首に止まる。
「その痣…」
転生者の証。それを彼女は指差していた。





