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第六十五話 アルマとワタルたち

「あー、ずーっと森が続いてるね。どこへ行けばいいかわかんない」とスノーは不安を隠しきれずに言った。


「幸い食料は兵士団から分けてもらったもので暫くは大丈夫だろうけど…どれだけの時間がかかるかわからないから、早く脱出しないといけないわ。」とハウンが続けた。


「魔法使ったらお腹空いちゃった。」とサヤは遠慮がちに呟く。


「そうね。体力を温存するためにも、食べながら話し合いましょう」とハウンが提案した。



それを聞いていたアルマは「呑気なもんやな。先も見えへんのに。」と小馬鹿にするように言ったが、心の中では彼らの冷静さが羨ましいとも感じていた。自分が追い詰められている状況に比べ、ワタルたちはなんとか希望を見出そうとしているように見えた。


「何も食べないの?」とサヤは持っていたパンを一つ差し出す。


「恩着せがましいな。いらんわ。」とそっぽを向くも、腹の虫は鳴いていた。アルマは自分が空腹であることを認めたくなかったが、無理に隠すのも難しい。


「ほなら、貰っておくわ。」ただし、ウチはお礼を言うような立場やないからな。」アルマは渋々パンを受け取り、口に運ぶ。


ワタルは首に下げたお守りをじっと見つめた。自身が天泣の幹部ゼフィルと戦闘した際に仲間に窮地を知らせてくれたものだが、今はファングがいなくなってしまった状況で、そのお守りはただ静かにぶら下がるだけだった。


サヤは魔法で大きく飛び上がり、周囲を見渡しているが、森はずっと続き、出口が見えない。


「その…出られないことがわかった」と顔を曇らせるサヤ。

一同はため息をつく。


その時、近くの茂みからガサガサという音が聞こえてきた。

全員が一斉にそちらを振り向く。


バキバキと木を薙ぎ倒すような音が森に響く。

「な、なに?」スノーが怯えた声を出す。

ワタルは剣を抜き、戦闘態勢を取る。


サヤは周囲を見渡しながら警戒する。

その時、木々の間から巨大な影がゆっくりと姿を現した。

それは大猪だった。ワタル達がかつて討伐したものよりも大きな個体が、ワタル達を睨みつけている。


大猪は大きな鼻を鳴らし、地面を踏み鳴らして迫りくる。巨体の威圧感に一同の空気が一瞬緊張で張り詰めるが、サヤは冷静に声を張り上げた。


「私たちで押し切るよ!みんな、準備して!」


サヤは素早く砂の魔法を発動し、砂嵐を巻き起こす。大猪の前脚が砂で絡め取られ、動きが鈍る。


「ここで足止めするわ!」サヤが叫ぶと、次にスノーが氷の魔法で攻撃する。氷の刃が大猪の側面に飛び、鋭く刺さる。


「これで逃げられないはずよ!」スノーが自信たっぷりに言い、氷の拘束が大猪の動きをさらに封じ込める。


その瞬間、ハウンがその隙を逃さず、レイピアを構えて駆け出す。「一気に仕留めるわ!」と彼女は叫びながら大猪の横腹を鋭く斬り裂く。刃が深々と食い込み、血がほとばしる。


ワタルは身体強化で筋力を増強し、全力で突進する。砂、氷、そしてハウンの一撃で弱った大猪は動きが鈍り、ワタルの剣がその頭部に深々と突き刺さった。


一瞬の静寂が訪れた。彼は息を切らしながら、その巨体が崩れ落ちるのを見届けようとした。


「やったか…?」ワタルが一息つく。


だが、その刹那、大猪は激しく鼻を鳴らし、再び目を見開いた。怒りに満ちた瞳がワタルを睨みつけ、巨体が震え始める。倒れたはずの獣が、最後の力を振り絞って反撃の構えを見せたのだ。


ワタルは振り返る間もなく、大猪の大きな口が彼に迫る。獣の巨大な牙が光を反射し、喉元を狙うように開かれた。


(しまった、間に合わない…!)


その瞬間、黒い影が素早く横切った。ワタルは目の前の光景が一変するのを感じ、何が起こったのか理解する前に、大猪が苦しげに呻き声を上げた。そして、ついにその巨体が地面に崩れ落ち、完全に動かなくなった。


「…助かった…?」ワタルが戸惑いながら声を漏らすと、目の前に立っていたのはアルマだった。彼女の手には、血で赤く染まった短剣が握られており、大猪の心臓を一突きにして止めを刺していた。


「ふん…このくらい、朝飯前やわ。」アルマは冷たく言い放ち、短剣を一振りして血を払う。ワタルの視線を感じながら、彼女は少し照れくさそうに肩をすくめた。


「まさか助けられるとはな…ありがとう、アルマ。」ワタルは驚きつつも、素直に礼を言った。


「勘違いせんといてや。ウチはただ、さっき貰ったパンを交渉材料にされとうなかっただけ。これで貸し借りはなしや」アルマはそっぽを向き、冷淡な口調を保った。


「交渉材料?ああ、その代わりファングの居場所を教えろって要求することか。それは思いつかなかったなぁ」とワタルは苦笑しながら答えた。「でも、そんな理由でも助けてくれたことには変わりないよ。助けてもらったのは事実だし、礼を言わせてくれ。」


「ほんま何も考えとらんのか…呆れるわ」と言葉に棘はあるが、アルマの表情にはわずかに笑みが浮かんでいた。


アルマの軽く浮かんだ笑みを見て、ワタルは一瞬彼女と少しだけ打ち解けているのかもしれないと感じたが、すぐに彼女が再び冷たい表情を取り戻したのを見て、気のせいだったかもしれないとも思った。



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