第六十一話 夢
ワタルが深い眠りに落ちると、目の前に広がったのは静かな森だった。柔らかな光が木々の間から差し込み、風が木の葉を揺らす音が心地よく耳に届いてくる。足元には青々とした草が広がり、どこか懐かしい匂いが漂っていた。
だが、周囲に漂う不安な感覚は、現実と同じようにワタルの胸に残っていた。
「ここは…?」
自分の声が虚空に吸い込まれるような感覚に包まれながら、ワタルはゆっくりと前に進んだ。木々の間を抜けると、突然目の前に大きな湖が現れた。湖面は鏡のように穏やかで、周囲の風景を完璧に映し出している。
ワタルは湖のほとりに立ち、しばらくその美しさに見入った。しかし、湖面の奥から何かが動いているのに気づき、目を凝らす。
ゆっくりと近づいてくる人影――それはファングだった。
「ファング…!」ワタルは声を上げ、湖の向こうにいる彼に手を伸ばそうとした。しかし、何かが引き止めるようにその手は動かなかった。ファングは湖の反対側に立ったまま、じっとワタルを見つめている。
「戻ったら話すと言っただろう?」ファングの声が静かに響いたが、その言葉にはどこか寂しげな響きがあった。
「お前は一体どこに行ったんだ?」ワタルは必死に問いかけたが、ファングの姿はだんだんと霞んでいく。湖面に映った彼の影が揺れ、やがて水の中に溶け込むように消えていった。
「待ってくれ…ファング!」
ワタルは焦って湖に向かって一歩を踏み出すが、足元の地面が突然崩れ始め、身体が深い闇に落ち込んでいく感覚に襲われた。
「ファング――!」
その瞬間、ワタルは目を覚ました。胸の鼓動が早く、冷や汗が額に滲んでいる。夢の中の光景は、まるで現実のように鮮明だったが、夢から覚めてもファングの行方は依然として謎のまま、空のベッドが横にある。
「夢か…」ワタルは乱れた呼吸を整えながら、再びファングのことを考えずにはいられなかった。
空はまだ暗い。ワタルは再び横になり、ファングが無事に戻ってくることを祈りつつ、眠りにつく。
その瞬間、ワタルは目を覚ました。胸の鼓動が早く、冷や汗が額に滲んでいる。夢の中の光景は、まるで現実のように鮮明だったが、夢から覚めてもファングの行方は依然として謎のまま、空のベッドが横にある。
「夢か…」ワタルは乱れた呼吸を整えながら、再びファングのことを考えずにはいられなかった。
その瞬間に目の前が真っ暗になり、ワタルの視界が突如として真っ暗になった。まるで意識が再び夢の中に引き戻されるような感覚だ。暗闇の中で、彼の鼓動が耳に響く。
「今度はなんだ…!?」と辺りを見渡すと一つの光が見えた。
「久しぶりね…」と女神レフレが現れた。彼女の姿は、周囲の暗闇を一瞬で照らし出し、まるで星が瞬くかのように煌めいていた。
「レフレ様…!力を貸してほしいことがあって…。」ワタルはその言葉を続けることができなかった。
「探している子供の居場所のこと?」と彼女は返す。
それがワタル自身が転生した目的だ。もちろんそれは気になる。
「いや、そうじゃないんだ。今はファングのことが心配なんだ。」
あの子のことがどうでもよくなったわけじゃない。
「ただ、ファングがどこにいるのか、それが分からないのが耐えられない。」ワタルは言葉を続けた。胸の内に渦巻く不安を吐き出すように。
「それは…元の世界に帰れなくなるとしても知りたい?どうにかしたい?」レフレの問いかけに、ワタルは一瞬戸惑った。
どんな理屈でそんな選択を迫られるのかわからなかったが、彼女の口ぶりはファングに何かあったことを示唆しているように感じられた。
「あいつが1人で困っているならなんとかしたい。大切な友達だから。」とワタルの言葉には、揺るぎない決意が込められていた。
「なるほどね。」とレフレは表情をほとんど変えず淡々と頷いた。
「元の世界に帰れなくなる覚悟は出来てるんだ…ただ、どうかあの子の居場所だけは教えてほしい。この世界に1人きりでいるなら、あの子だけでも帰してあげたいんだ…!お願いします…!」とワタルは頭を下げた。
「……本当にいいのね?」とレフレが念を押すように聞き返すが、ワタルはただ真摯な瞳で頷くだけだった。
レフレは口元に微笑みを浮かべたまま、軽やかに続けた。「なんてね、帰れないなんて嘘よ。アンタの決意を確かめただけ。あの子の居場所なんて私にはわからないの。ただ手首の痣が前よりも濃くなってる。実感はないかもしれないけれど近づきつつあるみたいね。」
ワタルは少し安堵の表情を浮かべながらも、まだ彼女の言葉の真意が掴めずにいた。「じゃあ…ファングの居場所を教えてくれるのか?」
レフレは再び真剣な表情に戻り、静かに頷いた。「ええ、教えてあげる。ただし、先に忠告しておくわ。彼が今いる場所は、普通の人間が踏み入れることのできる場所ではない。そこは心の闇と向き合う場所。ファングが今その場所にいるのは、自分の中にある葛藤と対峙しているからよ。」
「葛藤…?」ワタルは眉をひそめた。ファングが何を悩んでいるのか、彼には思い当たる節がなかった。
「ええ。彼自身もその答えを見つけ出そうとしているところなのかもしれないわ。でも、あなたが彼を助けたいと思うのなら、その闇に足を踏み入れる覚悟をしなさい。」
ワタルは一瞬、レフレの言葉の重みを感じたが、それでも決意を新たに頷いた。「分かった。どんな場所でも、どんな闇でも、俺はファングを助けるために行く。」
レフレは微笑み、手をかざすと、彼女の周囲に光の粒が集まり始めた。「この先に進むための道を示すわ。ただし、忘れないで。彼を救うためには、あなた自身の心も試されることになる。」
「それでどこへいけばいいんだ?」とワタルは聞く。
「一瞬で姿を消す魔法を使う女がいたでしょう?」とレフレは言う。
それが指し示すのは叢雨のアルマのことであろうか。「あいつに協力を仰ぐのは流石に……」とワタルは口を濁す。
「この際は利用してやればいいのよ。守りたいものがあるならある程度の手段は…ね?」とレフレは意味深な笑みを浮かべた。
「まさか…アルマがファングを捕らえているってことじゃないよな?」とそう尋ねようとした瞬間、レフレはまた姿を消した。
「待って!」ワタルは慌てて後を追ったが、すでに彼女はいなかった。そして再び彼女の声が聞こえた。
「ファングを救いたいなら……そうね……叢雨のアジトに行ってみなさい」とだけ言い残して消えた。





