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第五十三話 モルザッド

玄関のドアを叩く音が聞こえた。恐る恐るドアを開くと…


「久しぶりっす…号外を見たもんで飛んできました。」と馬車を引いたザインがやってきた。


「アンタら…これ本当っすか?」

ザインは号外を握りしめて問い詰めるように言った。



ワタルは慌てて否定した。「違う!俺たちはそんなことしていない!」


ザインはワタルたちの言葉にうなずきながら微笑んだ。「わかってるっすよ。信じてるっすから。危険な状況だと思ったから、助けに来たっす。」


「本当?」スノーが安堵の表情を浮かべながら尋ねた。


「そうっすよ。馬車があるから、それを使って逃げるのが一番だと思うっす。荷物のふりして隠れることもできるから、兵士団に見つからずに済むっすよ」とザインは提案した。


「ありがとう、ザイン…でも、どうやって隠れるの?」とハウンが質問した。


ザインは馬車の荷台を指差しながら説明した。「荷台に積んだ荷物の中に隠れるっす。狭いけど、すぐに発車するから、バレる可能性は低いっす。」


ワタルたちは迅速に準備を整え、荷台に乗り込んだ。ザインが手際よく荷物を積み込んでいき、馬車を出発させた。馬車が静かに街を離れると、ワタルたちは緊張と安堵の入り混じった気持ちを抱えながら、国境へ向かう道を進んでいった。


「ファング…その…大丈夫か?」


馬車の中で、ファングは頭を抱えるようにして沈んでいた。ワタルの問いかけに応えた後も、彼の心は激しく揺れ動いていた。


「どうしても信じたくねぇんだ…」ファングは低い声で呟いた。「あいつが本当に妹の転生なんかじゃないって、そう思いたい。でも…」


ファングは拳を強く握りしめ、悔しそうに続けた。「あの女には、どうしても妹の面影がある。仕草や声、何よりあの目…妹が俺を見ていたあの優しい目に、どこか似てるんだ。俺の中で否定しようとしても、どうしても引っかかって離れねぇ。」


彼の言葉には、深い苦悩が滲んでいた。ファングは妹を守れなかったという過去の後悔と、リンカが妹である可能性への恐怖が、彼の心を締め付けていた。


「俺は…もう二度と大切な人を失いたくない。妹を失ったときの痛みは、もう耐えられないんだ…」ファングは声を詰まらせながら言った。


ワタルはその言葉に胸を痛め、ファングの肩に手を置いた。「ファング…お前の気持ちはよくわかる。でも、真実が何であれ、俺たちは一緒に乗り越える。」

他の3人も同意した。


ファングはしばらく沈黙していたが、やがて力を振り絞って頷いた。「ああ、そうだな。俺たちで何が起きても、乗り越えてみせる。たとえどんな真実が待っていようとも…俺たちで切り抜けるんだ。」


馬車は揺れながら進み、彼らを未知の未来へと運んでいったが、今はただ、共にいる仲間の存在が彼らの折れそうな心を支えていた。



「今日のところは遅いんで、どうか人気のないところで野営するっすよ」

ザインが御者席から声をかけた。彼らは森の奥深くまで入り、周囲に人の気配がないことを確認して馬車を止めた。森の中は薄暗く、不気味な雰囲気に包まれていた。

「誰も住んでなさそうな家を見つけましたんで、そこに隠れ家にするっすよ」とザインが提案した。

一行は荷台から降り、ザインの案内で森の中を進んでいった。しばらく進むと小さな小屋が見えてきた。その建物は荒れ果てていたが、雨風をしのぐには十分な場所だった。

ザインは馬の世話をしに、ワタルたちは家の中に入ったが、そこは埃っぽく、家具や生活用品もほとんどなかった。しかし、何もないよりはましだった。

「さて、これからどうすっかだな……」ファングはため息をつきながら言った。


「サエナ王国やシジュウ共和国じゃあ、距離も近くてすぐに見つかってしまいそうね…」とハウンが地図を取り出す。


「ザイン、今はどこへ向かってるの?何か考えはある?」とスノーが尋ねた。

「南へ向かうつもりっす。少し遠回りになるかもしれないっすけど、モルザッドへ行きたいと思ってるっす」とザインは答えた。


「モルザッドか…」サヤが静かに言った。


スノーが地図を見ながら質問した。「モルザッドって、どういう国なの?」


ザインは頷きながら答えた。「モルザッドは南の砂漠地帯にある国っす。厳しい自然環境で有名だけど、砂漠の中に広がるオアシス都市が栄えてるっすよ。その都市は交易の要所でもあるんで、色んな物資が集まるし、外国人も多いっす。だから、俺たちみたいに逃げてきた者も隠れやすいんすよ。その都市の一部はスラム化してる場所もあるっすから、そこでうまく紛れ込めば、追跡者から逃れるのも可能性が高いっす。」



「なるほど…追跡をかわすには良さそうな場所ね。でも、なんでモルザッドに行くの?」ハウンがさらに問いかけた。


ザインは少し考え込んでから答えた。「モルザッドには昔から知り合いがいるっす。その人が、たしか今でも貿易商をやっていて、影響力があるはずっす。彼の助けがあれば、しばらく身を隠すこともできるし、次の行動のための情報も手に入るかもしれないっす。」


ファングは腕を組みながら考え込んだ。「モルザッドに行くのは確かにリスクがあるが、ここに留まるよりは安全かもしれねぇな。砂漠地帯ってだけで兵士たちの足を止める要因にもなるし、スラム街の中で目立たずに過ごせるなら、それも悪くないかもしれねぇ。」


ザインは申し訳なさそうに、「馬が暑いのが苦手だから、長居は出来ないんすよね…」ザインが静かに言った。「俺としては、できるだけ早くモルザッドに向かって、そこから離れるつもりっす。でも、アンタたちが戻ることになったら、俺が貿易商を通して迎えに行くから、その時は頼んでほしいっす。」


ワタルたちはザインの言葉に、心から感謝の意を示した。「ザイン、すまない…こんな危険な目に巻き込んでしまって。」ワタルは誠実な眼差しで言った。「本当に助かるよ。感謝してもしきれない。」


「時には寄りかかることも必要っす」と、ザインは少しだけ笑みを浮かべて答えた。「それに…実はククリとの結婚を村長さんに許してもらったもんで…友達を助けられないようじゃ、愛想つかされちまいますから…」と頭を掻く。


沈んでいた一同に笑顔が戻る。

このあと数時間ほど惚気話を聞かされることになるが、それが彼らに安心感を与えてくれたのだった。




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