第五十二話 逃避行
天泣の幹部の女は市場に到着すると、配下たちに合図を送り、すぐさま行動を開始させた。市場の中で次々と小さな騒動が発生し、人々の間にパニックが広がった。彼女はその様子を楽しむかのように観察し、計画が順調に進んでいることに満足げな表情を浮かべた。
「さぁ、これで少しは面白くなるかな~?」と、彼女は心の中で呟き、次の動きへの準備を始めた。彼女の狙いは、ただ単に混乱を引き起こすことだけではなかった。この混乱の中で、新たな敵を引き寄せ、彼らを待ち受ける罠に誘い込むことが真の目的だった。
女の計画は徐々に進行しており、次なる一手が待ち構えていた。市場の混乱は、その序章に過ぎないことを、彼女は確信していた。
ワタルたちは、その知らせを聞き、すぐに現場へと駆けつけた。市場は混乱に陥り、人々が逃げ惑っている中、ワタルたちは必死に冷静さを保ちながら状況把握に努めた。
「一体何が起こっているんだ?」ファングが周囲を見回しながら言った。
サヤも冷静に状況を分析しながら答えた。「まさか…また天泣が?」ワタルは、街の中心部にある貿易市場という場所を思い出していた。そこは大勢の人々が行き交い、様々な物資が取引される場所だった。もし天泣が再び襲撃を仕掛けてきたとすれば……
「とにかく早く止めないと!」とワタルは叫んだ。「このままだと被害が広がる一方だ!」
スノーも頷きながら言った。「そうだね!まずはこの混乱を鎮めることに専念しよう」と彼女は言った。
ファングは拳を握り締めて言った。「よし、みんな行くぞ!この街を奴らの好きにさせるわけにはいかない!!」
ワタルたちは混乱した市場へと急行した。広場では、人々がパニックに陥り、逃げ惑う中、店舗や商品が破壊され、混乱がさらに広がっていた。市場の中心部に近づくと、天泣の配下が周囲を取り囲み、貿易市場の機能を完全に麻痺させていた。
「みんな準備はいい?」ハウンが声をかける。
「もちろんだ!」ファングは拳を握りしめ、戦いに臨む姿勢を見せた。「今すぐにでも行こう!」
「うん、混乱を収めるために、まずは敵の数を減らさないとね」スノーも決意を固めた。
サヤは敵の配下を見つめながら言った。「私が前に出るから、後ろから援護して。」
「了解!」とワタルが答えた。
ファングとサヤが先頭に立ち、スノーとワタルはその後ろを守る形で進んでいった。ファングは凄まじいスピードで敵の配下に突進し、次々と敵を打ち倒していった。彼の強靭な力と正確な打撃が、敵の陣形を崩していく。
サヤは、巧みな戦術で敵の後ろに回り込み、鋭い攻撃を繰り出していた。彼女の速さと力強さで、周囲の敵たちは混乱し、戦況が次第に有利に進展していった。
スノーは氷の魔法を駆使し、敵の動きを封じるために氷の刃や氷柱を作り出した。彼女の魔法によって、敵の足元が凍りつき、彼らの動きが鈍ると同時に、仲間たちの戦闘がさらに楽になっていった。
次第に、天泣の配下たちも混乱し始め、戦局が次第にワタルたちの有利に進んでいった。ファングの圧倒的な力、サヤの巧妙な戦術、スノーの魔法、そしてワタルの剣が、敵の抵抗を次第に打破していった。
「いいぞ、みんな!」ワタルは戦闘の中で仲間たちを鼓舞しながら言った。「このまま続けて、完全に片付けるぞ!」
戦場は次第に静まり、天泣の配下たちは撤退を余儀なくされた。市場の混乱は徐々に収束し、ワタルたちの努力によって秩序が取り戻されていったかに思われた。
音もなく鮮やかな紫色の髪をした美しい女が、ワタルたちの前に現れた。
「うーわ!まじで強いじゃん」と女は言った。
ワタルは、その女の異様な雰囲気に圧倒された。彼女の目は赤く光り輝き、口元からは鋭い牙が覗いていた。そして何より……彼女はとても美しかったのだ。
その時、倒れていた天泣の配下の一人がよろよろと立ち上がり、「すみません、リンカ様どうか奴らを…」と頼もうとした瞬間、突然、鮮やかな紫の女、リンカの手が振り下ろされた。血飛沫が舞い、配下はその場で倒れ込んでしまった。
リンカの冷酷な一撃に、周囲の空気が凍りついた。彼女は冷徹な視線でワタルたちを見つめ、戦闘の終息を告げるかのように、ゆっくりと歩み寄ってきた。
リンカは冷徹な視線でワタルたちを見つめながら、一歩一歩近づいてきた。その優雅な動きとは裏腹に、彼女の姿には威圧感が漂っていた。彼女はワタルの前に立ち止まり、驚くほど近い距離で彼の顔を見つめながら、左手で彼の頬を優しく撫でた。
「獣人じゃない…アナタがワタルでしょ?」リンカの声は甘美でありながらも冷たく、彼女の瞳には興味深そうな光が宿っていた。
ワタルはリンカの突然の接触に驚き、後ろに下がり距離をとった。
リンカはその問いに対し、口元に冷たい微笑みを浮かべながら答えた。「アタシはリンカ!これでも天泣では結構偉いんだよ!」と異様なほど明るかった。
そして少し首を傾げながら、口元に冷たい微笑みを浮かべた。「あれれ?臨戦体制?ま、そんなに警戒しなくてもいいじゃん。敵対する気なんて全くないからさ。」彼女は続けた。「うちらはただ、ちょっとお話ししたいだけなんだよね。これでも天泣の中ではそこそこ偉いんだから、無駄に争うつもりはないってば!」
彼女はその後、興味深げにファングを指差した。「それより、あなた…アタシのこと覚えてる?」
「なんのことだ…?」
ファングはリンカの突然の問いかけに眉をひそめ、彼女を疑わしげに見つめた。「何のことだ…?」彼の声には警戒と苛立ちが混じっていたが、リンカはその反応を楽しむかのように微笑んだ。
「ええ?ほんとに忘れたの?まぁ…そうじゃなきゃのうのうとパーティなんて出来ないよね。ま、いいや!じゃあアタシが思い出させてあげる!」リンカはそう言うと、ワタルに視線を移し、ニヤリと笑った。「ねぇ?ワタル君……だっけ?」
彼女はそう言ってワタルの顔を覗き込んだ。その瞬間に激痛が走る。
彼女の手には握り拳分ほどのチャクラムがあり、血を滴り落としていた。
ワタルは激痛で膝を折り、その場に倒れ込んでしまった。
リンカはそのチャクラムを指先で弄びながら、妖艶な笑みを浮かべた。
その瞬間、ファングが即座に動き、リンカの手から武器を吹き飛ばす。
リンカは驚いた様子でファングを見つめ、次に冷ややかな笑みを浮かべました。「まーじで覚えてないの…お兄ちゃん?」
ファングはリンカの言葉を聞いた瞬間、怒りに震えた。彼女の冷ややかな笑みと「お兄ちゃん」と呼ばれたことで、かつて亡くした妹の記憶が脳裏に蘇り、心の中で激しい感情が渦巻いた。
「お前…何を言っている?」ファングの声は低く、しかしその中には抑えきれない怒りが滲んでいた。リンカが亡くなった妹と同じ名前を持っていること、そしてその名で彼を挑発するような態度が、彼の心の奥底に触れてはいけない傷を抉った。
認めたくはない…妹が生きていればちょうど同じくらいの年齢で、姿は派手になっているものの、面影がある。
ファングは一瞬、目の前のリンカが本当に妹であるかのような錯覚に囚われたが、すぐにその考えを振り払った。彼の妹はもういない。この目の前にいる女は、妹の名を名乗り、ワタルを傷つけた敵に過ぎない。
ファングは拳を握りしめ、リンカを睨みつけた。彼の瞳には、怒りと悲しみ、そして妹への想いが入り混じった複雑な感情が浮かんでいた。
リンカはファングの反応に満足げな笑みを浮かべつつも、目の前の男の怒りが本物であることを理解し、少しだけ後ずさった。「あら、そんなに怒らないでよ。せっかく再会したんだから、もっと喜んでくれてもいいっしょ…」
ファングはリンカを睨みつけ、彼女の挑発的な言葉に怒りが募っていく。だが、彼がさらに言葉を発する前に、リンカはゆっくりと袖をまくり上げ、手首を見せつけた。その手首には、ファングの目に飛び込んできたのは星形の痣。
「これなーんだ?」リンカはその痣を指差し、冷ややかに笑った。「この痣、そこのワタル君と同じでしょ?」
ファングは彼女の言葉を聞きながら、その痣を見つめていた。星形の痣、転生者の証であった。
「アタシは生まれ変わったってこと。」リンカはそう言いながら、ゆっくりと近づいてきた。
ファングはその歩みに警戒し、身構えた。彼女の言葉と痣が意味すること、その意味を彼は理解していた。
リンカは微笑みながら彼の前に立ち、その冷たい瞳で彼を見据えていた。その瞳には深い闇が宿っており、その奥には何か別の感情が潜んでいるように感じられた。
「アタシが死んだ家で人を集めて、パーティなんか組んでさ……アタシのいないところで、勝手に楽しくやってるなんて」
リンカはファングを睨みつけながら、低い声で言った。その冷たい声には静かな怒りと憎しみが込められているようだった。
彼女はさらに一歩近づき、ファングの目を真っ直ぐに見つめて続けた。
彼女の瞳は深い悲しみと絶望に満ちており、その瞳の奥に宿った闇が彼の心を揺さぶっていた。彼はその闇に飲み込まれそうになりつつも、必死に抵抗した。
しかし、彼女の言葉は容赦なく彼の心に突き刺さり、傷口を広げていくかのようだった。妹の面影がその顔にはあり、彼女が妹ではないと否定したいが、その痣がそれを許さない。
ファングの心の中では葛藤が渦巻いていた。目の前にいるリンカは妹が転生した姿なのかそれとも、彼女が妹の名前を騙っているだけなのか? 彼女の言葉は容赦なく彼の心を揺さぶった。
「ファングから離れて!」とスノーが氷の矢を放った。
しかし、その攻撃はリンカの目の前で弾かれてしまった。彼女はニヤリと笑い、スノーの方を見た。その瞳には冷酷な光が宿り、その視線には恐怖を感じさせるものがあった。
その瞬間、ハウンとサヤが同時に動いた。彼女たちもそれぞれ攻撃を仕掛けるが、リンカはその攻撃をひらりとかわし、素早い動きで二人との距離を取った。
「ちょっとー、アタシが話してる時に攻撃するなんて卑怯じゃないの?」とリンカは笑いながら言った。その口調からは余裕が感じられ、それがより一層彼女たちの怒りを煽った。
しかし、いくら攻撃を仕掛けてもリンカには通用しなかった。彼女はまるで踊るように攻撃をかわし、反撃してくる。その動きはまるで蝶のように軽やかで予測不可能だった。
「ねぇ!聞いてる!?」と叫びながらリンカはファングに向かって突進してきた。彼女の動きはまるで風のように自由奔放で素早く、瞬きの間に彼の目の前まで迫ってきた。
彼は咄嗟に身を翻し、反撃を試みたが、身体が動かない。どうしても脳裏によぎる妹の姿を振り切ることができなかった。
「その程度?」とリンカは嘲笑しながら言った。そして、彼女は指先を軽く振った。その瞬間、凄まじい衝撃が走り、彼の身体は宙を舞った……彼は地面に叩きつけられ気を失ってしまった。
その様子を見て、周囲の人々は息を飲んだ。圧倒的だった……リンカの魔法の威力を目の当たりにして言葉を失ったのだ。
「どう?これがアタシの力だよ!」リンカは得意げに胸を張ってみせた。その姿は自信に満ち溢れていたようだ。
意を決してワタルは身体強化魔法で彼女に突撃する! しかし、リンカは余裕の表情でその攻撃をかわし、逆に彼の腕を摑んで捻り上げた。ワタルは痛みに顔を歪めるが、すぐに体勢を立て直した……足払いをしかけ、尻餅をつかせた。
「うっざ…服が汚れるじゃない!」とリンカは不機嫌そうに言ったが、すぐさまワタルは彼女の喉元に剣を突き立てる。しかし、その剣は彼女の手刀によって弾かれてしまった。
「この程度でアタシを倒せると思ってんの?」とリンカは言った。そして彼女は再びワタルに攻撃を仕掛ける! ワタルも必死に抵抗し、攻撃を防ごうとしたが、彼女の動きには無駄がなく隙がなかった……まるで舞を踊るかのようだった。
サヤとスノーが距離をとって加勢するが、リンカは軽々と避けてしまう。
幸いハウンがファングを回復するだけの時間は稼ぐことができ、立ち上がることが出来るまでになった。
「もうこれが精一杯な感じ?なーんかつまんないから諦めろし。アタシは強いんだから」とリンカは自信満々に言った。
ワタルは悔しさに歯噛みしていた。結局、彼女の強さを認めざるを得なかった……自分たちでは歯が立たないことを思い知らされたのだ。
リンカはその隙を突いて、さらに言葉を投げかけた。「ねぇ、もう天泣に入りなよ。あたしたちと一緒にやれば、こんな無駄な抵抗しなくても済むんだしさ。」
「貴方になんと言われようと私達はその話にはのらないわ!」とハウンは言った。
「はぁ?何それ?勝ち馬に乗らないなんてバカじゃないの!?」とリンカはムッとしたように言った。
そして次の瞬間、素早く動いた彼女は一瞬でスノーの背後に回り込み、その首に腕を回した!スノーは必死にもがくも、リンカの腕はビクともしなかった。
ワタルはその隙をついて攻撃しようとするが……その瞬間にリンカは素早く動き出し、彼の攻撃をかわす! 彼女の動きには無駄がなく、まるで瞬間移動しているかのような速さだった! サヤとハウンは連携して攻撃するが、それでもリンカには通用しなかった。彼女はまるで踊るように攻撃をかわし、反撃してくるのだ。その動きはまるで風のような軽やかで予測不可能だった。
ワタルは身体強化魔法を使って攻撃するが、リンカには通用しなかった。彼女はまるで蝶のように軽やかで予測不可能だった。
ハウンもサヤも必死に攻撃を仕掛けるが、リンカには通用しなかった。彼女はまるで風のように自由奔放で素早く、瞬きの間に彼の目の前まで迫ってきた! 彼は咄嗟に身を翻し、反撃を試みるが……その瞬間に凄まじい衝撃が走り、彼の身体は宙を舞った……彼は地面に叩きつけられ気を失ってしまった。
その光景を見て周囲の人々は息を飲んだ。圧倒的な強さだった。
リンカはワタルの攻撃を難なくかわし、その笑顔のまま、ゆっくりと街の中心部に視線を移した。「ほんと、ウチを舐めすぎじゃない?」
彼女の声は軽い調子だったが、その瞳には冷酷な光が宿っていた。ワタルは戦慄しながらも、再び構えを取る。しかし、リンカはそのまま無防備に周囲の逃げ惑う人々に向き直った。
「これからさ、ちょっと見せてあげるね~。あんたらがウチらに逆らったらどうなるかってやつをさぁ!」
リンカは言い終わるやいなや、チャクラムを鋭く投げ放った。チャクラムはまるで生き物のように飛び、逃げていた一般市民の一人を無情にも切り裂いた。悲鳴とともに、その人物はその場に倒れ込み、息絶えた。
「キャー!」と、民衆の悲鳴が広がる。リンカはそれを楽しむかのようにもう一度チャクラムを投げ、今度は複数の人々が巻き添えになった。混乱と恐怖が広がり、民衆はパニックに陥る。
「ほら、わかったっしょ?ウチらを怒らせると、こうなるんだってさ~」リンカは無邪気な声で続けたが、その言葉には冷たい凄みがあった。
「なんてことを…!」ワタルが怒りで震えながら叫ぶが、リンカはそれを無視して、さらに挑発するように周囲を見渡した。
「これでもまだやる気?それとも、おとなしくウチらに従う~?」
彼女の言葉に、ワタルたちは戸惑いを隠せない。民衆はリンカの凶行を目の当たりにし、恐怖で膝をついている者もいた。
ワタルは立ち上がろうとするが、身体は言うことを聞かず、痛みが全身を貫く。それでも、彼は仲間たちの顔を思い浮かべ、立ち上がらなければならないという意志でなんとか立ち上がる。
「やめろ!」ワタルはリンカに向かって叫んだが、リンカは全く意に介さず、周囲の民衆に向けて声を上げた。「見た?このザマ!こいつら、ウチらに従わないどころか、逆らってくるんだよ?ほんと、呆れるよね~」
民衆の中には、恐怖で震えている者や、リンカの言葉に疑念を抱いている者もいたが、その場の圧力に屈し、誰も声を上げることができなかった。リンカはその様子を見て、さらに畳みかけるように言葉を放つ。
「でもさ~、あんたら、ワタルたちがウチらの仲間だったって知らなかったんだ?今まで黙ってたけど、こいつら、実は天泣の一味なのさ~。だから、ウチらに逆らうなんて、ちょっとおかしいよね?」
その言葉に、民衆の間にざわめきが広がった。信じられないという表情を浮かべる者もいれば、疑念の眼差しをワタルたちに向ける者もいた。しかし、リンカの冷酷な力の前に、誰も彼女の言葉を否定することはできなかった。
「俺たちは無実だ!リンカの言葉に惑わされないで!」ワタルは必死に訴えるが、その声は民衆に届くことはなかった。リンカの冷酷な力を目の当たりにした民衆は、恐怖に支配されていたのだ。
リンカはさらに民衆を脅すように言葉を続けた。「ほら、見なよ。ウチらに逆らったら、こうなるんだよ?こいつら、ウチらのやり方に文句言ってたけど、結局このザマさ~。あんたらも、ウチらに逆らったら同じ目に遭うんだからね?」
リンカの言葉に、民衆の中にはワタルたちを敵視する者が増えていった。それは、リンカに信じ込まされたのではなく、彼女に脅された結果だった。民衆は、リンカの言葉に従わなければ自分たちも同じ目に遭うと恐れ、ワタルたちを非難し始めた。
「なんの騒ぎだ!」兵士団の数名が駆けつけ、騒然とする広場に立ちふさがった。彼らは武器を構え、状況を把握しようとするが、目の前で繰り広げられる光景に困惑の色を隠せない。
「こいつらが街を混乱させてるんだよ~」リンカは一歩も引かず、冷笑を浮かべたまま兵士団に告げた。「見ての通り、こいつら天泣の一味なのさ~」
兵士団はその言葉を聞き、ワタルたちに険しい視線を向けた。「何だと?この者たちが天泣の一味だというのか?」
ワタルは必死に否定しようとした。「違う!俺たちはそんなこと…」
リンカの横暴に民衆は再び恐怖に飲み込まれ、うつむきながらも兵士団に訴えるような目を向けた。「お願いします…こいつらをなんとかしてください…!ここまではみんな殺される…!」
その状況を見た兵士団の団員が、眉間に深い皺を寄せ、ワタルたちに向けて剣を抜いた。「今すぐ拘束する!」
「待って!話を聞いて!」スノーは叫んだが、兵士団はすでに動き出していた。
「民衆を守るため、直ちにこの者たちを拘束せよ!」
ワタルたちは兵士団に包囲され、絶体絶命の状況に追い込まれた。リンカの嘲笑が広場に響き、民衆は恐怖に震えながらもワタルたちを非難する視線を向けていた。兵士たちは武器を構え、ワタルたちにじりじりと迫ってきた。
「このままじゃ捕まる…」ハウンが焦燥の色を隠せないまま、ワタルにささやいた。
「戦っても、この数を相手にするのは無理だ。何か手を打たないと…」ワタルは冷静さを保とうと努めつつも、仲間たちを守るために必死に脱出の策を考えていた。
サヤが目を鋭く光らせ、小声で提案した。「私が砂嵐を起こす。あまり強力にはしないから、兵士たちを傷つけずに目くらましとして使えるはず。準備ができたらすぐに逃げるよ!」
ワタルはすぐに彼女の提案に同意し、全員に合図を送った。「みんな、サヤが合図を出したらすぐに逃げるんだ!」
サヤは集中し、手のひらに魔力を集め始めた。砂嵐の魔法は彼女の得意技の一つであり、何度も戦いの場で仲間を助けてきた。今もその力を最大限に発揮しようとしていた。
「いくよ…!」サヤが力強く叫ぶと同時に、彼女の周囲から砂粒が舞い上がり、瞬く間に巨大な砂嵐が発生した。広場全体が砂に包まれ、視界が完全に遮られた。
「何だ、この砂嵐は!?」兵士たちは突然の嵐に驚き、目を覆いながら混乱した声を上げた。砂が激しく巻き上がり、彼らはその場で動けなくなった。
「今だ、行こう!」ワタルは全員に指示を出し、サヤの魔法の中を駆け抜けるように走り出した。
砂嵐は強力だったが、サヤは兵士たちを傷つけないように魔力を調整していたため、彼らはただ視界を奪われ、動きを封じられるだけだった。ワタルたちはその隙に街の狭い路地に飛び込み、追跡をかわしながら街外れの森へと向かった。
「砂嵐が消える前に、姿を隠すわ!」ハウンが焦るように言った。
街の狭い路地を駆け抜け、民家の陰を縫うようにして、彼らはついに街外れの森にたどり着いた。砂嵐はまだ続いているが、その効果は徐々に薄れてきていた。
遠回りに遠回りを続け、数時間が経過したのち、ファングが秘密基地の扉を開け、全員が次々と飛び込んだ。
「張り込みも追ってもいなかったし…ここで少し身を隠せるけど、時間はないだろうな…」ファングが状況を冷静に分析し、言葉を続けた。
「でも、サヤのおかげで少し時間が稼げたわ。今のうちにこれからのことを考えましょう」スノーが息を整えながら言った。
「この国を出るしかないな…とにかく…あてもなく逃げよう…」とワタルが言った。
「ただ…国境警備を超えるのはキツイだろう…なんとか策をねらねぇとなぁ…」とファングが呟き、手早く荷物をまとめている。
一同は動揺を隠しえないばかりでなく、ファングの心理状態が心配でもあった。
今の彼の前でとても弱音は吐けず、逃避行の準備に勤しむのであった…





