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第五十話 謁見

王の謁見の間の扉が開かれた。王座に座る王は、威厳に満ちた表情で彼らを見つめていた。ワタルたちは一礼し、王の前に立った。


王は彼らを見渡し、柔らかく微笑んだ。「立ち話では疲れるだろう。座れる場所でゆっくりと話をしよう」



ハーストが案内し、ワタルたちは座れる場所へと誘導された。豪華な座席に腰を下ろすと、緊張感が少し和らいだ。


王は深い声で話し始めた。「私はレオポルド・ラグド、ラグド王国建国以来8代目の王である。そなたたちの活躍も耳にしている。天泣という組織に対してよくぞ立ち向かってくれた。悪に立ち向かう姿を讃えたい」


ワタルたちは王の言葉に感謝の意を示し、一礼した。


王は続けて語った。「一方で、獣人であることで受ける差別や迫害によって心に闇が生まれてしまった者や、この国、さらには世界に不満を持つ人間たちの受け皿を、天泣が担っている側面もある。彼らをただ攻めるだけでは、根本的な問題は解決しないと思っている」


ワタルたちは神妙に王の言葉に耳を傾けていた。


王は静かに深呼吸し、過去の出来事を思い返すように話し始めた。「先代の王、私の兄は、獣人に対して差別的な扱いをしていた。彼は獣人たちを疎外し、その存在を国の中で抑圧し続けた。私の甥であるハーストも、獣人として生まれたことで、その差別の矢面に立たされることになった」


ワタルたちは驚きと同情の眼差しで王を見つめた。


「先代の王は、息子であるハーストを露骨に無碍にはできなかったものの、軟禁という形で彼を国民の目から遠ざけた。国民からの支持を失うことを恐れてのことだった。しかし、その選択はハーストにとって非常に辛いものだった」


ハーストは静かに頷き、その時の苦しみを思い出すように目を伏せた。


「私はその様子を間近で見ていたが、何もできなかった。兄の決定に逆らうことができず、ただ無力感に苛まれながら、日々を過ごしていた。ハーストが苦しんでいるのを知りながら、手を差し伸べることもできなかった自分がもどかしかった」


ワタルはその話に胸を痛め、静かに言葉を紡いだ。「それは、とても辛いことだったのでしょう。ハーストさんも王も、それぞれの立場で苦しんできたんですね」


「いいえ、私よりも王の方がずっと苦しい思いをされたはずです。内戦を終結させるために奔走されていたこと

、国民の理解を得るために努力を重ねられていたこと……私は間近で見ていましたから」

ハーストは王への尊敬の念を込めてそう言った。


王は深く頷きながら、その当時のことを語り始めた。それは、内戦の終結と獣人と人間の共存への道を切り拓いた物語であった。


「内戦が終わりなおも、差別意識や偏見は根強く残っていた。しかし、私の決意は揺るぎなかった。戦闘の爪痕が残る地へ足を運び、獣人たちと直接対話し、彼らの苦しみと悲しみを真摯に受け止めた」と王は語った。


そして、王は力強く宣言した。「この国はこれから生まれ変わる。種族の差別や偏見を乗り越え、手を取り合い共に歩む国へと変わっていくのだ……」


王の言葉は国民に深く響き渡り、やがてその想いが形となって現れた。獣人たちは王城に集い、王と共に新しい時代への希望を語り合うようになった。


しかし、先代王とは全く異なる姿勢に身内の兵士団を中心に反発が全くないわけではなかった。


先代王との全く異なる姿勢に身内の兵士団を中心に反発が全くないというわけではなかった。ていた。ハーストは深く頷きながら、その当時のことを思い起こしていた。


王が静かに話を続けた。


***********


戦後数年がたった王国の宮殿内、豪華な謁見の間で、レオポルド・ラグドはその威厳を保ちながらも内心では苦悩していた。内戦の終結後、国の再建を進める中で、兵士団との関係が複雑化していた。かつて内戦で名を馳せた兵士たちが高い地位におり、彼らの意見が王国の政策に強く影響を与えていた。


宮殿内の会議室で、レオポルド王と兵士団の指導者たちが集まっていた。王は獣人たちの生活を改善するために、新たにギルドを設立する計画を提案していた。しかし、兵士団側からの反発は予想以上に強かった。


「陛下、このギルドの設立は理想的な考えかもしれませんが、実際には多くの問題を引き起こす恐れがあります」と当時の兵士団の指導者であるダリウス団長が冷静に述べた。「獣人たちが仕事を得るために新たな組織を作ることは理解できますが、内戦で彼らと戦った多くの兵士たちがこの動きに不満を持つことは避けられません」


レオポルド王は眉をひそめながら答えた。「ダリウス団長、その懸念は理解しておる。しかし、我々は過去の敵対関係を乗り越え、共存を目指さなければならない…このギルドはそのための一歩なのだ。」


ギルベルト中将が口を挟んだ。「陛下、私たちの意図は決して反対することではありません。ただ、このギルドの設立が迅速に進められることで、治安が悪化する可能性があります。獣人たちと人間との摩擦が増え、再び内乱の火種となる危険があるのです」


レオポルド王は深く息をつき、会議室内を見渡した。


「この国を再建し、平和を保つために尽力しなければならぬ。ギルドの設立はその一環として重要だ。」


レオポルド王は再び兵士団に向き直った。「ダリウス将軍、ギルベルト中将、そなたたちの意見を考慮し、折衷案を提案したい。兵士団がこのギルドを管轄し、治安の維持とギルドの運営を統括することで、双方の懸念を解消するのはどうか…」


兵士団の指導者たちは互いに顔を見合わせ、考え込んだ。ギルベルト中将が口を開いた。「それは一つの案かもしれません。私たちがギルドを監督することで、治安維持と獣人たちの活動をバランスよく管理できるかもしれません」


ダリウス将軍も頷いた。「その案には賛成です、陛下。我々がギルドを管轄することで、獣人たちと人間の間に生じる摩擦を最小限に抑え、治安の維持に努めることができるでしょう」


レオポルド王は渋々この決断を下した。ギルドの設立は進められ、初めのうちは順調に見えた。だが、ここ数年、状況は変わりつつあった。

***********


レオポルド王は一同に向かって語りかけた。「あの時の決定が正しかったとは今となっては思えない。兵士団がギルドを管轄することで、治安維持と獣人たちの活動をバランスよく管理できると思っていた。しかし、現実はそう甘くなかった」


彼はしばし言葉を選び、続けた。「そなた達も感じているかもしれないが、本来天泣のような巨悪への対処は兵士団のような国の抱える戦力が行うべきで、あくまで民間人のそなた達が担ってしまっていることは…。兵士団が本来の役割を果たさなければ、この国の未来は危うい」


王は一瞬ためらった後、続けた。「ギルベルト中将こそが現在の団長であることで、組織の体質も変わらないだろうということもわかっている。国のあるべき姿を目指したいが、板挟みになってしまっているのだ…話が長くなってしまったな…すまない。」


その時、ハウンが一歩前に進み、深く頭を下げてから口を開いた。「陛下、そのようなご心配を抱えておられることを知り、我々も心から感謝しております。陛下のご決断が難しいものであったことを理解し、そしてその優しさと配慮に敬意を表します」


彼女は一息つき、続けた。「確かに兵士団に対して思うところはございますが、我々もこの国のために天泣という巨悪に立ち向かうことが使命であると感じております。陛下のお考えと同じ方向を向いていることは明らかですので、今後も兵士団との連携を図りながら、共に国を守るために尽力してまいりたいと思います」



ハウンの誠実な言葉が場の雰囲気を和らげた後、レオポルド王は少し微笑み、彼女に感謝の意を示した。「ありがとう、ハウン。我が国の未来のために、共に力を尽くそう。そなた達の協力に感謝する」


その瞬間、宮殿の外から騒音が聞こえ、一同が耳を澄ませる。宮殿の守衛が慌ただしく駆け込んできて、緊急の報告をする。「陛下、天泣の一部隊が王都近くに出現したとの情報が入りました。早急に対処が必要です」


レオポルド王の顔が険しくなり、すぐに指示を出す。「兵士団を緊急招集せよ。そして、ワタル、ハウン、そなた達も準備を整えてほしい。共にこの脅威に立ち向かおう」


ワタルは力強く頷き、仲間たちと目を合わせた。「陛下。我々もすぐに準備を整えます」


緊迫した空気の中で、一同は急いで行動を開始した。ワタル、ハウン、スノー、ファング、サヤはそれぞれの役割を確認し合い、戦闘準備を整える。彼らは再び王国の平和を守るため、天泣との戦いに立ち向かう覚悟を決めた。


宮殿の外では、兵士団が集結し始め、戦闘準備が進められる。ギルベルト中将も兵士団を指揮し、王都を守るための布陣を整えていた。


レオポルド王は一瞬立ち止まり、一同を見渡した。「我が国の未来は、ここにいる全ての者たちの手にかかっている。共に力を合わせ、天泣を討ち、王国の平和を守ろう!」


その言葉に応えるように、皆が力強く頷き、決意を新たにした。


レオポルド王の指示を受け、ワタルたちは急いで準備を整えた。しかし、外に出てみると、予想していたような天泣の幹部たちの姿はなく、そこにいたのは天泣を名乗る獣人の少年少女たちだった。彼らはたいした武装もしておらず、恐らく下っ端であろう。


「ガキども…なにをしていやがる!」


ファングの威圧的な態度に、獣人の少年少女たちはさらに動揺し、一瞬後ずさった。彼らの顔には恐怖と不安が浮かび上がり、武器を持つ手が震えていた。


その様子を見たワタルたちは、少年少女たちの間でも彼らのパーティのことが知れ渡っていることに気づいた。少年たちは互いに顔を見合わせ、低い声で話し合いを始めた。


「もう諦めようよ…あの人たちには勝てっこない…」一人の少女が震える声で言った。彼女の目には涙が浮かんでいた。


「いや、ここまで来て引き下がれるか!」別の少年が反論した。彼の声には必死さが感じられたが、その目には不安が宿っていた。



「命が惜しければ…!金目のものを全て置いていくんだな…!」その言葉は明らかに脅しのつもりだったが、震える声と動揺した表情がそれを裏切っていた。


「こんなことはやめなさい」とハウンが声を張る。その声には優しさと決意が込められていた。


しかし、その言葉に逆らうように、三人の少年が一斉に小刀を取り出し、凶悪な表情を浮かべた。「だったら力づくだ!」彼らの声には恐怖と焦りが混じっていた。


スノーが驚いて声を上げた。「うわ!あの子たち、あんなものを…」彼女の目には不安が映っていた。


少年たちは一斉に散開し、バラバラに動きながらファングに襲いかかってきた。彼らの動きは素早かったが、戦場を幾度も経験してきたファングにとっては脅威ではなかった。彼は冷静な眼差しで少年たちの動きを見極め、軽やかに身をかわしながら対処していった。


最初の少年が小刀を突き出してきた瞬間、ファングは素早く彼の腕をつかみ、勢いを利用して地面に投げ飛ばした。その少年は激しい衝撃を受け、すぐに気絶した。


次に襲いかかってきた少年には、ファングは足払いをかけてバランスを崩させた。少年がよろめいた瞬間、ファングは軽く彼の首元を狙って拳を振り下ろし、正確に打撃を与えた。少年は抵抗する間もなくその場で倒れ込み、意識を失った。


最後の少年は背後からファングを襲おうとしたが、彼の動きを見逃すことはなかった。ファングは素早く振り返り、少年の手首をつかんで軽くひねり上げた。少年は痛みに耐えきれず、小刀を落とすと同時にそのまま膝をつき、ファングのもう一撃で静かに気絶した。


ファングは三人をいとも簡単にいなし、その場に倒れた少年たちを一瞥した。「この程度か…」彼は淡々とつぶやきながら、残る少年少女たちに冷ややかな視線を送った。


ファングが倒れた少年たちを冷ややかに見下ろしながら、「どうだ?まだやるのか?」と震えている残りの集団に問いかけた。彼の声には一切の余裕が感じられ、圧倒的な力の差を見せつけることで、さらなる抵抗を封じ込めようとしていた。


残った少年少女たちは互いに顔を見合わせ、不安そうに震えながら後退した。彼らの間で、これ以上の抵抗は無意味であることが瞬時に共有された。恐怖と無力感が彼らの表情に浮かび、次第にその場にいること自体が間違いであったことを悟り始めた。


ファングの鋭い目が彼らを捉え、動くことすらできないように凍りつかせてしまった。少年少女たちは次々と武器を地面に落とし、静かに降伏の意を示した。彼らの意気消沈した様子を見て、ファングは一度軽く息をつき、肩の力を抜いた。


「賢明な判断だ」とファングは低くつぶやき、再びその冷静さを取り戻しながら、ワタルたちの方に目をやった。


ファングが冷ややかに睨みつける中、残された少年少女たちは武器を落とし、静かに降伏の意を示した。ファングの圧倒的な存在感と力の前に、彼らの抵抗は完全に封じ込められた。


その様子を見届けたハウンが、彼らに優しい声をかけた。「皆さん、何か盗られたものや、怪我をされた方はいませんか?」


彼女の言葉は、場の緊張感を少し和らげるようだった。周囲の人々は恐る恐る状況を確認しながら、互いに無事であることを確認し合った。大勢の人々が一同に感謝の言葉を伝え、安堵の表情を浮かべていた。ワタルたちも周囲を見回し、状況が落ち着いたことを確認した。


ハウンは、少年少女たちに問いかけた。「貴方たち、どうしてこんなことを…?天泣の指示でやったことなの?」


ハウンの問いかけに、少年少女たちは一瞬戸惑ったが、やがて震える声で答え始めた。


「…私たちは、ただ生きるためにやっていたんです…」一人の少女が涙をこぼしながら言った。「家族に捨てられて…行く場所なんて、どこにもなかった。私たちは獣人になったことが原因で、村のみんなからも、家族からも、恐れられて…」


彼女の言葉に、他の少年たちも頷き、続けた。「天泣が俺たちを拾ってくれたんだ。行き場がなくて、腹も減って、誰も俺たちを助けてくれなかった。でも天泣は、俺たちに生きる場所を与えてくれたんだ。それがどんなに危険だって、他に選ぶ道なんてなかった」


その言葉を聞いて、ハーストが静かに口を開いた。「確かに、子供が獣人として覚醒すると、その家系は呪われると信じている地域がラグド王国内にも存在しています。だから、親たちが自分の子供を恐れ、見捨ててしまうこともある。…なんとも悲しい話でしょう。」


ハウンは深い悲しみを感じながら、優しくも毅然とした声で言った。「それでも、こんなことをしていては、もっと多くの人が悲しむことになるわ。あなたたち自身も、もっと危険な目に遭うかもしれない。それに、他にも道があるはずよ…」


彼女の言葉に、少年少女たちは揺らいだ表情を見せ、互いに顔を見合わせた。


しかしその瞬間、気絶していた少年が突然立ち上がり、ワタルに向かって突進してきた。ワタルがそれに気づいたときには、すでに小刀が彼の腹部に突き刺さっていた。鮮血が滲み出し、ワタルは驚愕の表情を浮かべながら、足元に力が入らなくなる。


「ワタル!」ファングは即座に動き、少年の手から小刀を払いのけ、ワタルをかばうように立ちはだかった。怒りに燃える瞳で少年を睨みつけ、彼の逃げ場を完全に塞いだ。


ファングの拳は硬く握りしめられ、彼の目には明らかな怒りが宿っていた。


ファングの言葉が少年たちの胸に響き、場の空気は一瞬、静まり返った。しかし、ファングの怒りは収まらず、彼の拳は再び硬く握られた。少年に対する報復の意図が彼の目に見て取れる。


次の瞬間、ファングがその拳を振り上げた。だが、その手が振り下ろされる前に、ワタルが素早く動いてファングの腕を掴んだ。ワタルの力強い握りに、ファングは一瞬驚いた表情を見せるが、その後すぐに彼の怒りは抑えられた。


「やめろ、ファング。これ以上は必要ない」とワタルは静かに言った。その声には強い意思が込められており、ファングは深く息をついて拳を下ろした。


「…掠めただけだ。だから、大丈夫だよ」とワタルは優しく微笑んで、ファングの怒りを宥めた。


ファングの拳がワタルに止められ、怒りの火が徐々に消えた。その瞬間、場の緊張が緩み、まわりの兵士たちが動き出し、少年少女たちを取り囲んだ。「奴らを捕えろ!」という指揮官の声が響き、少年たちは抵抗することなく捕らえられた。




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