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第四十八話 訪問者

秘密基地へ突如訪ねてきた翼の生えた獣人…

彼の正体はいかに。

その獣人は背が高く、筋肉質で力強い体つきをしていた。翼は白く、光沢があり、その広げた姿はまるで天使のようだった。彼の顔立ちは厳格ながらも優しさを感じさせ、誠実さがにじみ出ていた。金色の瞳は真剣さを物語り、深い青のマントがその高貴さを際立たせていた。


「失礼いたします。私はハースト、ラグド王国の王家の使者でございます」とハーストは礼儀正しく頭を下げ、封蝋の施された手紙を差し出した。


「王家の使者…?そして、獣人…?」ワタルは驚きと戸惑いを隠せないまま手紙を受け取った。サヤもその場に立ちすくみ、驚いた表情を浮かべていた。


「これを我々に?」とワタルは使者に尋ねた。


「はい、確かにあなた方パーティに宛てたものでございます」とハーストは丁寧に答えた。


ワタルは震える手で封を開け、中の手紙を広げた。綺麗な筆跡で書かれた手紙の内容に目を通すと、彼の表情はますます驚愕に満ちたものとなった。


「王様からの手紙だ…信じられない」とワタルは呟いた。サヤも興味津々で手紙を覗き込んだ。


ハーストは続けて、手紙の内容を代読し始めた。


親愛なるワタル、サヤ、ファング、スノー、ハウンへ


私はラグド王国の王、レオポルド・ラグドでございます。あなた方の勇敢な行動と献身により、この国は大きな変革を迎えようとしております。特に獣人たちへの偏見を解き、共に生きる未来を築くための努力には、心より感謝申し上げます。


貴方たちの活躍は、私を含む多くの人々に希望と勇気を与えてくれました。私はぜひともお会いして直接お礼を申し上げたいと思っております。もしお時間が許すのであれば、近々私の城にお越しいただけませんでしょうか。


また、私たちの国が今後どのように進むべきか、あなた方の意見や助言を伺いたいと考えております。あなた方の経験と知識は、私たちの未来にとって非常に重要です。


どうか、この招待をお受けいただき、共に平和な未来を語り合いましょう。詳細な日時は、後ほど調整させていただきますが、あなた方のご都合に合わせたいと思っております。


敬具


ラグド王国王 レオポルド・ラグド


ハーストは手紙を読み終えると、深々とお辞儀をした。「王からの手紙を代読いたしました。勝手ながら、三日後に再度訪問し、ご都合をお伺いさせていただけますでしょうか。それまでに、ご検討いただけますようお願い申し上げます。」


「すごい…本当に王様からの招待だ」とサヤは感嘆の声を上げた。


「俺は新聞でしか王様の姿を見たことがないよ。直接会うなんて、信じられない」とワタルは興奮気味に言った。


一瞬、ワタルは自分たちが何か問題を起こしてしまったのかと心配になり、「何か変なことをしたのかな?」と呟いた。


ハーストは即座に否定し、「いいえ、そのようなことはございません。むしろ、あなた方の勇敢な行動に感謝し、ぜひともお礼を申し上げたいとのことでございます」と優しく答えた。


ワタルは非常に光栄なことですが、パーティ内でも検討のうえ回答させていただきたいと伝えました。その上で、もしも実現したのならばパーティメンバー全員で伺っても良いかと聞きました。


「勿論ですが、というと?」とハーストが聞き返した。


ワタルは兵士団長ギルベルトには一人で来るように伝えられていたこともあり、王様としてもそのような意図がおありになるのではと思ったと説明した。


ハーストは驚いた表情を浮かべ、「ギルベルト団長との接触があったことは存じ上げておりませんでした。しかし、王の意向は全員でお越しいただくことです。そのようなことは一切ございません」と答える。


ワタルは「三日間でみんなで考えておきます」と伝えると、ハーストは深く一礼し、目にも止まらぬ速さで王都の方向へと飛び去って行った。その姿は空に舞う白い矢のようで、ワタルとサヤはその様子に驚嘆の声を漏らした。


「おう、出たぞ…どした?」とファングがタオルで頭をワシワシ拭きながら戻ってきた。


ワタル達は一連の出来事を説明する。

ファングの反応は意外にも肯定的だったのだ。普段から兵士団に不信感を抱いているような発言を聞いていると王家にも思うところはあるのだろうという推測をワタルはしていたのだ。


「ラグド王についてどう思ってるかって…?先代の王が10年前の内戦禍で急死してから即位して…最初は保身のための行動かと思っていたが……結果的には内戦を鎮め、戦後は奉仕活動にも

自ら積極的に参加していて……まぁ…俺自身も悪く思ってねぇよ…」


ファングは爪をいじりながら、国王について語った。

ワタルは安堵したように微笑んだ。


「2人が帰ってくるまでに間に合わねぇから、スノーとハウンのところへ明日行ってみようぜ。」

ファングの提案に、ワタルとサヤは頷き合った。その日は早く就寝し、明日に備えて身体を休めることにしたのだった。


翌日スノーの実家である宿にまずは向かうと両親はあたふたとしていた。

我が娘が王に会いに行くというのだから、やれ粗相のないようにだとか、服装はどうするべきかだとかいろいろ言い合っている。

ワタルたちは困ったように顔を見渡した。

宿を出る間際、心配そうな母親に、また遊びに来てくれよなどと嬉しそうな父親を背にファングたち一行はスノーの実家を後にしたのだった。


ハウンの実家へはスノーが案内をしてくれた。

裕福な経営者の家系の出身であることは聞いていたが、そちらを訪れるのは初めてだった。


ワタルたちがスノーの実家を後にし、ハウンの実家へ向かう準備が整うと、スノーが案内役を務めた。


ハウンの実家に向かう途中、ワタルとサヤはスノーに質問を投げかけた。「ハウンの家って、どんな感じなんだろう?」とワタルが興味津々に尋ねた。


「すごく立派な家だよ。経営者の家系だから、とても裕福なんだ」とスノーは微笑みながら答えた。


彼らがハウンの家に到着すると、その光景はまさに壮観だった。大きな門をくぐり抜けると、広々とした庭が目の前に広がっていた。庭には色とりどりの花が咲き誇り、手入れの行き届いた芝生が美しく広がっていた。庭の中央には噴水があり、水がきらきらと輝きながら音を立てて流れていた。


「すごい…」ワタルは思わず呟いた。


庭を進むと、やがてハウンの家が姿を現した。その建物は豪華で重厚な造りをしており、高い塔がそびえ立っていた。窓には美しいステンドグラスがはめ込まれ、日の光を受けて七色に輝いていた。建物の外壁は白く、所々に彫刻が施されており、その細部まで丹念に作り込まれているのが一目で分かった。


「こんなに立派な家に住んでいたんだね…」とサヤは驚愕の声を漏らした。


ワタルもその光景に圧倒され、「本当にすごいな。ハウンの家がこんなに豪華だなんて思わなかったよ」と目を見開いたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。


サヤは何度も家と庭を見比べ、「夢でも見ているみたいだね…」と呟いた。


スノーは微笑みながら、「ハウンの家族はとても親切だから、きっと歓迎してくれるよ」と言って、彼らを安心させた。


ハウンの家の重厚な扉をノックすると、すぐに扉が開き、美しい女性が迎えてくれた。彼女はハウンの姉であるアイリだった。


「いらっしゃい…あら、みんな。急にどうしたの?」とアイリは驚いた表情で尋ねた。


ワタルとサヤは丁寧にお辞儀をして、「以前はお世話になりました。ありがとうございます」と挨拶を返した。


アイリは微笑みながらも少し戸惑い、「どういたしまして。でも、本当に急ね。何か特別な用事があったの?」と尋ねた。


その時、スノーが笑顔で「アイリさんも帰ってたんだね。久しぶり!」と親しげに声をかけた。


「スノー!久しぶりね。元気だった?」とアイリも笑顔で応じた。


「うん、元気よ。ハウンを呼んでもらえる?」とスノーが頼んだ。


「もちろん、ちょっと待っててね」とアイリは言い、一行を広い玄関ホールに通した。


豪華な内装と広々とした空間に再び驚きを感じながら、ワタルとサヤは待っていると、しばらくしてハウンが現れた。


「みんな、どうしたの?」とハウンは驚いた表情で尋ねた。


「ハウン、今日は急に来てごめんね。でも、ちょっと話があって」とワタルが事情を説明した。


ハウンは少し困惑しながらも、「そうだったのね。じゃあ、中に入って」と言って一行を迎え入れた。


アイリも再び姿を現し、「じゃあ、どうぞお部屋に案内するわ」と言って、一行をハウンの家の中へと案内した。


ハウンの家に通されたワタルたちは、アイリの案内で広々とした居間に座った。豪華な内装に驚きながらも、本題に入ることを決心したワタルが話し始めた。


「ええっ!?本当に王様からの手紙なの!?」とハウンは驚愕し、手元が緩んで座っていたソファからひっくり返ってしまった。


「大丈夫?」サヤが心配そうに駆け寄った。


「ご、ごめん!あまりにも驚いて…」ハウンは少し赤くなりながら、立ち上がろうとする。


「無理もないよ。私たちも驚いたんだから」とワタルは苦笑しながら手を差し伸べた。


その時、ハウンが転げ落ちた音で何事かとハウンの両親が部屋へ駆けつけてきた。敏腕経営者であり理知的な雰囲気の漂う父親と、ハウンに似て気品溢れる母親だった。


「皆さん、こんにちは。お騒がせしてしまいましたね」とハウンの父親は微笑みながら言った。


「いつもハウンが皆さんにお世話になっているようで、本当にありがとうございます」と母親も優しく声をかけた。


「こちらこそ、いつもお世話になっています」とワタルは丁寧にお辞儀をした。


「パパさん、ママさん、お久しぶりです!」とスノーが元気よく声をかけた。


「スノーちゃん、久しぶりね!元気だった?」と母親が優しく微笑んでスノーを抱きしめた。


「うん、元気よ!今日はちょっと大事な話があって…」とスノーが言うと、ハウンの父親がうなずいた。


「それで、今日はどんなご用事で?」と父親が尋ねた。


「実は、王様から手紙をいただいたんです」とワタルが説明を始めた。


「ええっ!?王様からの手紙ですって!?」と父親も母親も驚きの表情を浮かべた。


「それは一大事ですね。失礼のないようにしなければ」と母親が真剣な表情で言った。


「ハウン、もちろん君も王に会いに行くんだよね?」と父親が確認した。


「うん、そのつもり」とハウンが答えると、父親はうなずいた。


「では、皆さんのために正装を仕立てる必要がありますね。王に会うにはそれ相応の礼儀が必要ですから」と父親が言った。


「そんな、ご迷惑をおかけしてしまうのは…」とワタルが遠慮がちに言ったが、母親は優しく微笑んで言った。


「迷惑だなんて、とんでもありません。娘がお世話になっている方々ですもの。ぜひお任せください」


「本当にありがとうございます。感謝しています」とワタルが深々と頭を下げた。


「皆さん、どうぞご安心ください。スノーちゃんも、今日はゆっくりしていってね」と母親が言うと、スノーは「ありがとう、ママさん!」と嬉しそうに応じた。


ハウンの両親は早速仕立師を呼び出し、一同のための正装を仕立てるように指示を出した。

その後、一同は応接間の豪華なソファに座って母親が淹れてくれたハーブティーを飲みながら、談笑していた。

しばらくすると、複数の仕立師が到着を告げ、ハウンの父親に連れられ部屋に入ってきた。彼らは丁寧に挨拶し、早速採寸を始めた。


体型やサイズを丁寧に確認しながら、手際よく作業を進めていった。

約1時間後、仕立師たちは完成を告げ、最後に頭を下げた。

仕立には急ピッチで取り組み、明日の昼までには完成させてくれるという。

半ば押しかけるような形で家に来てしまったのにも関わらず、快く両親は今晩泊まることを提案してくれた。ハウンの家では家政婦を雇っており、夕食を出してもらえることになった。


夕食の時間になると、テーブルには見たこともないほどの高級食材が並んでいた。美しい盛り付けの料理が並び、その香りだけで食欲をそそる。ワタルたちは驚きと喜びを隠せず、目を輝かせながら席に着いた。


「これは本当に豪華ですね」とワタルが感嘆の声を上げた。


「ええ、特別な日にしか出さない料理ですから、どうぞお楽しみください」と母親が微笑んで答えた。


スノーは「ありがとう、ママさん!本当に楽しみ!」と笑顔で応じた。


料理はどれも絶品で、一同は心から食事を楽しんだ。柔らかい肉、香ばしい魚、新鮮な野菜、それぞれが口の中で溶けるようだった。食事の間、和やかな雰囲気が流れ、笑い声が絶えなかった。


食後、一同はリビングに移動し、ハーブティーを楽しみながら談笑を続けた。そこで、ハウンの両親がパーティの活動について色々と質問を始めた。


ワタルたちはハウンの両親に、今までの出来事や活動内容について詳しく説明した。ハウンがどれだけパーティにとって「なくてはならない存在」かということを強調しながら、丁寧に説明した。

ハウンの両親は感銘を受け、娘のことを誇らしく思ったようだった。


「それを聞いて、ますますハウンのことを誇りに思います。本当に皆さんと一緒でよかったです」と父親が感動を込めて言った。


母親も涙を浮かべながら「ハウンがこんなにも素晴らしい仲間に囲まれていることがわかって、心から安心しました。でも、やはり危険を伴うパーティ活動は心配で…」と声を震わせた。


ハウンは両親の心配に直面し、顔を赤くして気恥ずかしくなった。「もう、そんなに心配しないでよ…」と言いながら、その場を退出しようと立ち上がった。


「ハウン、大丈夫?」とスノーが心配そうに尋ねたが、その瞳には揶揄うような光が見えた。「ハウン、待って!」と笑いながらスノーも追いかけ、部屋を出て行った。


残されたワタル、ファング、サヤは、ハウンの両親に視線を戻した。両親はやがて娘の生い立ちについて話し始めた。


「ハウンが獣人として覚醒したのは、まだ幼かった頃のことです」と父親が静かに語り出した。「その時、内戦直後の荒れた社会情勢でしたから、私たちは彼女がどう生きていくべきか、どう守るべきか、悩みました」


母親が続けて、「彼女の力が制御できないことに、たくさんの恐怖と苦悩がありました。夜も眠れない日々が続いたんです」と振り返った。


「覚醒してからの数年間は、彼女にとっても私たちにとっても試練の連続でした。ハウンは自分の力を恐れて、他人の目が気になり、人との接触を避けるようになり、心を閉ざしてしまいました」と父親が説明した。


「実際に、彼女が獣人としての力を持ち始めた頃、私たちの村では差別や偏見がひどかったんです。町の人々が彼女を怖がり、避けるようになり、時にはひどい言葉を投げつけられました」と父親は苦しそうに語った。


「一度、町の広場で彼女が家族と一緒にいるとき、子どもたちが彼女を指差して笑いながら『化け物』と呼んだことがありました。その光景は、私たちの心に深く刻まれています。ハウンはその時、涙を流して家に帰り、自分を隠すようになりました」と母親が続けた。


「また、町の一部では、彼女が何か悪いことを引き起こすのではないかと心配し、家の近くに近づくなと言われることもありました。これらの言葉や態度が、ハウンの心に深い傷を残しました」と父親が説明した。


「さらに、学校に通わせてもらえないこともありました。教師や生徒たちが彼女を受け入れず、彼女の教育を受ける権利すら奪われてしまったんです。学びたい気持ちがあっても、それが許されなかった」と母親が続けた。


「その頃、ハウンは自暴自棄になってしまい、自分の存在を否定するようになりました。彼女がどれだけ努力しても、周囲からは認められず、ますます孤立していきました」と父親が語った。


「私たちもできる限り彼女を守ろうとしましたが、限界がありました。商売に精を出すことで、彼女を支えるしかできなかった。どうしても自分たちの力では彼女の苦しみを全て取り除くことはできませんでした」と母親はしみじみと語った。


ワタルは彼女の生い立ちを聞き、胸が痛んだ。ハウンがどれだけの苦しみを抱えながら生きてきたのかを思うと、胸が張り裂けそうだった。

ハウンはその後、祖母が経営する学校で学び直し、新たな友達と出会い、自分の力を理解し受け入れる人々に囲まれるようになり、スノーもその1人でいつも声をかけてくれては時に一緒に外に連れ出してくれ、ハウンを理解してくれる数少ない友人となって現在に至る。


ハウンの両親はワタルに、娘の過去について知ってもらいたかったのだと語った。そして、今彼女が幸せであることを伝えるために、今日ここに来てくれたことに感謝していた。


スノーに追いかけられていたハウンがようやく戻ってきて食事の場は終わった。

広いお風呂にふかふかのベッドまで貸してもらった。これを幸せと呼ばずして何と呼ぼう。


沈みゆく意識の中でワタルは、スノー、ファング、ハウンのそれぞれの過去を思い返していた。彼らがどれほど強い気持ちで自分を保ち、悪に堕ちなかったのかを考えると、彼らのために出来る限りのことをしたいと思わずにはいられなかった。あの子を見つけることができたら…元の世界に戻るよりも、彼らと共にいることの方が大切なのではないかと思うことがある。


それでもいいのかもしれない……

彼らが必要としてくれる今が好きだ。ワタルは深い眠りについた。



続く


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