第四十七話 フラハイトのお祭り
今回の顛末をギルドへ報告すると、幾ばくかの補償金が支払われることになった。これは、依頼人が報酬を支払わないなどのトラブルが発生した場合に備えて、ラグド王国のギルドに所属するパーティが積み立てている基金から支払われる、パーティが安心して任務に取り組むことができるようにするための仕組みだ。
当初想定していた金額からは程遠いが成果を評価され、色を付けられた報酬を受け取り、ワタルたちは足取り軽くギルドを後にした。
それにしても外が騒がしい…というより賑やかだった。
曰く夏のこの時期になると祭り
が開かれるとのこと。
ラグド王国では夏至祭と呼ばれる祭りで、一年で最も昼が長く夜が短いこの季節を祝うために様々なイベントが7日間という長期間に渡り催される。
盛り上がりの最高潮は最終日とその前日の週末であるというが、初日である今日、既にそこかしこから商売人の掛け声が響き渡っていた。
特に、ギルドを出てすぐに目に入った大きな広場は賑わいに溢れており、種々の露店が立ち並び食欲を刺激する香りが漂ってくる。
ファングに何か買っていってやらないとな…
この賑わいを知ってか知らずか今日も彼は街へは一緒に来なかった。
ハウンとスノーは最終日だけ見に行ければ良いと帰省してしまったため、ワタルとサヤ2人だけでの祭り見物と相成った。
ワタルとサヤが賑やかな広場を進む中、ふとラグド内戦資料館の前で汗をかきながら飲み物を売っているセレドニオを見かけた。彼の姿を見つけるとワタルは足を止めて声をかけた。
「セレドニオさん!お久しぶりです!」ワタルは手を振りながら駆け寄った。
「おお、ワタルか!久しぶりだな」セレドニオは笑顔で応じ、手に持っていた冷たい飲み物をワタルとサヤに差し出した。「暑いから飲んでくれ」
「ありがとうございます!ちょうど喉が渇いていたところです」ワタルは感謝しつつ、冷たい飲み物を受け取った。
「この祭りの初日から資料館にも観光客がひっきりなしだよ。お前もパーティで忙しくしているだろうに、祭りには顔を出せて良かったな」セレドニオは微笑んで言った。
「はい、パーティの活動も頑張っていますよ。セレドニオさんが教えてくれたことが大いに役立っています」とワタルは感謝の気持ちを込めて答えた。
「そうか、それは良かった。お前が頑張っていることは俺も知っているし、誇りに思っているよ」とセレドニオは褒めてくれた。
ワタルは照れ笑いを浮かべながら、「ありがとうございます。これからももっと頑張ります」と決意を新たにした。
セレドニオはにやりと笑って、「ところで、デートか?」と茶々を入れた。
ワタルは驚いて、「え、いや、そうじゃなくて、ただ一緒に祭りを楽しんでるだけです」と慌てて答えた。
セレドニオは笑いながら、「冗談だよ、冗談。でも、お前たちも楽しんでこい」と優しく言った。
だが、サヤの機嫌が少し悪くなっていることにワタルはすぐに気づいた。彼女は無言で、少し先を歩いている。
「サヤ、大丈夫?」とワタルが心配そうに尋ねた。
「別に、なんでもない…別に…」とサヤは短く答えたが、その声には少し不機嫌さが感じられた。
「もしかしてお腹空いた?」とワタルは冗談めかして言ったが、サヤは顔を背け、「…別に」と短く返事をした。
二人はそのまま歩き続け、祭りの賑わいの中にある伝統衣装のコーナーに到着した。そこで、店主が熱心に勧めてくるので、流されるまま試着体験をすることが決まった。
彼女が選んだのは、細かい刺繍が施された鮮やかな青色のドレスで、上半身には金の糸で縁取られた花模様が施され、下半身は流れるようなシフォンのスカートが優雅に広がっている。腰に巻かれた帯も豪華で、色とりどりの花柄が華やかさを引き立てていた。サヤの髪は高くまとめられ、衣装に合わせた花の飾りが付けられている。
試着を終えたサヤは少し照れくさそうに鏡を見つめていた。ワタルは彼女の姿に目を奪われ、内心で「すごく可愛い」と感じていた。彼の目には、サヤがまるで祭りの主役のように見えた。
店主が写真の現像を勧めると、ワタルは「お願いします」と即答した。写真が出来上がる間、二人は店内を歩き回っていた。
店を出た後、サヤは少しボソッと「高かったね」と呟いた。
彼は少し照れながらも、「その…かわい…よく似合ってると思ったから…」と答えた。彼の言葉に下を向いて「そうなんだ…」と返答した。
しばらく黙って歩いていたサヤは、突然「お腹空いたから、何か食べよう」と提案した。彼女は少し元気を取り戻し、明るい声で言った。
ワタルはその変わりようにほっとし、「いいね、どこか美味しそうな屋台を探そう」と答えた。二人は再び祭りの賑わいの中に戻り、食べ物の匂いに誘われて、楽しそうに屋台を巡り始めた。
日が傾く前まで、サヤは色々な食べ物を堪能していた。ありがたい話しであるが、暴動の鎮圧やシジュウ共和国との国境での一件等パーティとしての活躍が知れ渡りつつあり、その中のいくつかはサービスでもらったものもあった。
これならファングへのお土産にも充分だろう…
そう思っていた時、ワタルは人混みを縫い、1人走ってきた子供にぶつかられた。
「いたた…ごめんなさい」としゃがみ込んだその子供は…
「獣人…?」と思わずワタルは声が漏れた。前の内戦の影響もあり、獣人に対して悪感情を持っている人も少なくないこの国で彼らが出歩いている姿は他国と比べてもあまり見られないので物珍しさがあった。
「ううん、違うよ」と子供は言いながら、尻尾と獣の耳を外して見せた。ワタルとサヤがあんぐりしていると子供はこれがただのおもちゃだと種明かししてくれた。
「実は、憧れのパーティが活躍している姿を見て、僕も獣人になりたくて…」と話し始めた。
その話を聞いたワタルとサヤは不思議に思いながらも、近くにある露店で獣人のつけ耳と尻尾を売っている店主を見つけた。店主は獣人の姿をしており、笑顔で商品を勧めていた。店主はワタルたちに向かって「おや、あんたたちはもしかして…」と声をかけた。
「最近、獣人に対する風潮も少しずつ変わりつつあるんだ。あんたたちが頑張っているおかげでね」と店主は言い、明るい表情で続けた。「実際に、獣人の姿が受け入れられるようになってきているし、子供たちも興味を持ってくれるようになった。」
ワタルとサヤは店主の話を聞いて、心から感謝の気持ちを抱いた。サヤは「こういう話を聞けて嬉しい…」と微笑み、ワタルも感慨深く頷いた。
「おかげでこっちとら商売繁盛よ…この国だってきっと変わるさ。勇気をくれたあんたらに期待しとるよ」と店主は言ってくれた。
「ありがとうございます。これからも頑張ります」ワタルは深く一礼した。
その後、サヤとワタルは祭りの賑わいに戻り、さらに色々な屋台を巡った。
「そろそろ帰ろうか…」ワタルは提案した。サヤも頷きながら、「うん、そうだね。でも、その前に最後にもう一つだけ食べたいものがあるの」と少し恥ずかしそうに言った。
「何を食べたいの?」とワタルが尋ねると、サヤは少し考え込むようにして、「実はね、あそこの屋台で売っているクレープがすごく美味しいって聞いたの。最後にそれを食べて帰りたいな」と言った。
「いいね、それじゃあクレープを食べてから帰ろう」とワタルは笑顔で答え、二人はクレープ屋台へと向かった。
屋台に到着すると、サヤはチョコバナナクレープを注文し、ワタルはストロベリークリームクレープを選んだ。二人はクレープを手に取り、祭りの最後のひと時を楽しみながら歩き始めた。
「今日は本当に楽しかったね」とサヤが言うと、ワタルも同意し、「うん、そうだね。素敵な思い出ができたよ」と答えた。
(また…一緒にね)
サヤは微笑みながらクレープを一口食べた。
二人はクレープを食べ終え、満足そうに祭りの賑わいを後にした。夜空には星が輝き、祭りの灯りが幻想的な雰囲気を作り出していた。
秘密基地に到着したのは完全に日が落ちてからだった。
「ただいま」とワタルが言うと、「うい」とぶっきらぼうに返事が返ってくる。
ファングは祭りのお土産を頬張りながら、今日の様子を聞いてきた。
ワタルは獣人の仮装をする子供がいたこと、獣人の観光客も多く見られるようになったことなど街の変化を伝えた。
「パーティの活動がみんなの心を動かしたんだね」とサヤは言ったが、ファングはどこか冷めたような反応を示した。獣人として虐げられていた過去を持っている彼にとって、この変化を素直に受け入れるのはまだ難しいのだ。
「まぁ、そうだな…」ファングは短く答え、視線を遠くに向けた。
「あんまり、嬉しそうじゃないね。そういう平和な世界を作るためにパーティをやってきたじゃないか。」とワタル。
ファングは少し目を細め、深く息をついた。「もちろん、俺たちの目的はそんな世界を作ることだ。でも、現実はそんなに甘くないってことも知ってる。」
ワタルはその言葉に少し驚きながらも、理解しようと努めた。「でも、少しずつ変わってきてるよ。今日見たあの子供たちだって、きっと未来を変えてくれるはずだ。」
「そうだよ、ファング」とサヤも優しく言った。「これは良い流れだよ…きっと」
ファングはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。「ああ、わかってる。俺も、信じたいと思ってる。水さすようなこと言って悪かったな。」そう言って、彼は食べた後のゴミを片付け、浴室の方へと向かっていった。
ファングが浴室へ向かっていった後、ワタルとサヤは少しの間、その場に立ち尽くしていた。突然、秘密基地の扉がノックされ、ワタルが応答すると、大きな翼の生えた獣人が現れた。





