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第四十三話 島の悪魔

一同が森を抜け、険しい山道を進むうちに、徐々に風景が変わり始めた。巨大な岩が露出し、まるで自然が作り出した要塞のようにそびえ立つその場所は、一見しても普通の場所ではないことが明らかだった。


「ここがその場所か…」ワタルが呟いた。


目の前には、岩肌にぽっかりと口を開けた大きな洞窟があった。その入口は、まるで何か巨大な存在が作り出したかのような形状をしており、周囲には奇妙な模様が刻まれていた。模様は古代文字のようにも見え、まるで何かを警告しているかのようだった。


「これは…間違いない。悪魔、つまり龍の住処だ。」サヤが震える声で言った。


「その証拠に、この辺り一帯には魔力の残留が強く感じられるわ。」ハウンが指をかざして周囲の空気を感じ取った。「普通の場所ではありえないほどの魔力の濃度よ。」


「それに、この洞窟の入口には焦げた痕跡がある。」ファングが指差しながら言った。「何か巨大な炎がここを通ったかのようだ。」


「さらに見て、この骨の山。」スノーが指差した。洞窟の周りには、動物の骨や、時折人間のものと思われる骨も混じっていた。それはまるで、この場所が生と死の境界線であるかのようだった。


「ここは危険すぎる。でも、確かにここが悪魔、つまり龍の住処であるという強い証拠が揃っている。」ワタルが冷静に言った。「ここで何かを見つければ、この島の謎を解く手がかりになるかもしれない。」


「でも、慎重に行動しないと。」ハウンが警告した。「一度足を踏み入れたら、戻れなくなるかもしれない。」


「それでも進むしかない。」サヤが決意を込めて言った。「私たちはここまで来たんだから。」


一同は深呼吸をし、覚悟を決めた。そして、薄暗く陰気な洞窟の中へと足を踏み入れた。彼らの冒険は、ますます危険と謎に満ちたものとなっていった。


一同が洞窟の奥へと進むと、空気がさらに重く、息苦しいものになっていった。暗闇の中で足元の石が転がり、音が反響する。進むほどに洞窟は広がり、ついには巨大な空間に出た。そこには、燐光を放つ鉱石が散りばめられており、薄暗い光が不気味に揺れていた。


「気をつけろ。何かがいる…」ファングが低い声で警告した。


突然、巨大な影が動き出し、彼らの前に現れた。それは見上げるほどに巨大な龍だった。その鱗は鋼のように硬く、眼は冷酷な光を放っていた。龍は一同を見下ろし、口を開いた。


大気をつんざくほどの雄叫びを挙げてこちらを威嚇する。ワタルはその迫力に圧倒されながらも、剣を構えて龍に向けた。

龍は翼を広げ、空気を震わせる咆哮を上げた。空気が振動し、洞窟の壁が震え上がる。その轟音は彼らに恐怖心を植え付けた。


「ほぅ…意識を保っていられるとは」龍は低い声で言った。


「今、言葉を話したわ」とハウン

が後退りしながら言った。

龍は目を細め、一同を見回した。

ワタルは龍の視線に身震いした。その目には冷酷な殺意が宿っているように見えたからだ。


「俺たちはお前を倒しにきた。人々を危険に晒す存在として。」ファングは剣を構えながら言い放った。


龍は低く唸り、その鋭い爪をワタルに向けた。「愚かな人間どもめ……我を倒すことなどできぬ!」

龍の咆哮が洞窟内に響き渡った。空気が震え、壁が激しく揺れ動く中、一同は恐怖と緊張で動けなくなっていた。


今にも崩れてしまいそうな洞窟を、龍の巨体が押し潰そうとしているかのようだった。

ワタルは剣を構えながら、龍に立ち向かおうとした。しかし、彼の心は恐怖に支配されていた。彼は自分の無力さを感じずにはいられなかった。


その時、サヤに後ろから手を引かれた。「ここから出なきゃ…洞窟が…!」


ワタルは頷き、仲間たちと共に洞窟の出口へと向かった。龍は彼らを追おうとしたが、その動きをサヤの魔法の壁が遮った。

「逃さぬぞ!」龍は叫び、炎を吐き出して攻撃してきた。

間一髪洞窟を脱出することができ、その数秒後にはそれが崩れ去るのだった。


龍は洞窟の下敷きに…と一縷の望みをかけたが、その期待は裏切られた。


崩れた岩の間から、再びあの巨大な龍の頭が現れた。鋭い眼光が彼らを睨みつけ、その存在感は一層増していた。


「肌を撫でる程度なら誰が死のうか……」龍は低く唸る。


「どうしてこの島の人々を危険に晒すんだ…!どうして命を奪うんだ…!」とワタルが震える手で剣を構える。


龍は冷たい目でワタルたちを見下ろし、その声に威厳と怒りが混じる。「私は何も理由なしに命を奪っているわけではない。かつてはこの島の生き物たちと共存していた。私もまた、島の守護者としてその役割を果たしてきた。しかし、ある時を境に人間たちが私を攻撃し始めたのだ。」


龍は深い息をつき、その目に悲しみが垣間見えた。「彼らは私の力を恐れ、私を征服しようとした。共存の道を選ぶのではなく、彼らは私を排除しようとしたのだ。だから私は、防衛のために戦わざるを得なかった。人間がこの島に住み着き、私を狙う限り、私は彼らを警戒し、必要ならば攻撃する。」


ワタルはその言葉に動揺し、剣を握る手が震えた。「でも…それでも、命を奪うことは…」


龍は威圧的な声で答えた。「立ち去るがいい。私の島から出て行けば、命までは奪わぬ。だが、ここにとどまるならば、その覚悟を持て。」


その瞬間、周囲に轟音が響き渡り、森の木々が揺れた。次の瞬間、木々の間から無数の魔物たちが姿を現した。巨大な蜘蛛、鋭い牙を持つオオカミ、翼を広げたコウモリなど、あらゆる種類の魔物が一斉に集結し、ワタルたちと龍を取り囲んだ。


魔物たちは敵意を剥き出しにし、低い唸り声を上げながらじりじりと近づいてきた。


「こいつら…お前の手下か!」ファングが龍に向かって叫ぶ。


「ふん、何を言う。性懲りもなく…こんな者どもを…。」龍が吐き捨てるように言った。


ワタルたちと龍は互いに疑念を抱きながらも、目前の脅威に対処することに専念した。


ワタルが指示を飛ばし、剣を振り上げて迫り来るオオカミに立ち向かった。剣がオオカミの鋭い牙に当たり、火花が散る。スノーは魔法の氷を使って巨大な蜘蛛を凍らせ、ハウンは素早く動いてコウモリの群れを引き裂く。


龍もまた、魔物を蹴散らしながらワタルたちを警戒していた。「人間ども、私の力を侮るな。貴様らの狙いは分かっている。だが、私を倒すことはできぬ!」


スノーも氷の魔法で敵を凍らせながら叫んだ。「魔物を攻撃している?仲間じゃなかったの?」


龍は再び炎を吐き出し、数匹の魔物を焼き尽くした。「貴様らが連れてきた者どもを排除しているだけだ!」


ワタルは迫り来る魔物を一撃で倒し、息を整えながら叫んだ。「俺たちはお前を倒すためにここに来た。でも、俺たちは魔物なんて連れてきていない!」


龍は一瞬ためらったが、すぐに警戒心を取り戻した。「貴様らの言葉など信じぬ!油断をさせようというのか!魔物を手懐けておるのだろう!?」


戦闘は続き、双方が互いに疑念を抱えながらも、目の前の敵に集中していた。魔物たちの数は減りつつあったが、緊張感は依然として高まっていた。ワタルたちは龍が魔物を引き連れていると思い込み、龍もまたワタルたちが魔物を引き連れてきたと思い込んでいた。互いに驚きつつも、戦闘を続けるしかなかった。


サヤは戦闘の激しさに息を荒げながらも、決して引くことはなかった。彼女は一瞬の隙を見て、手を天にかざし、強力な魔法を唱え始めた。


「みんな、後ろへ!」サヤが叫ぶと、ワタルたちはすぐにその指示に従った。彼女の手のひらに集まる光はどんどん強くなり、その輝きはまるで太陽のように眩しかった。


巨大な砂嵐が吹き荒れた。その渦は周囲の魔物たちを一瞬で包み込み、焼き尽くした。轟音とともに、魔物たちは次々と消滅し、辺り一帯に閃光が広がった。


その威力は凄まじく、周囲の空間を一瞬にして清めた。魔物たちの悲鳴も聞こえないほどの圧倒的な力が発揮され、全てが静寂に包まれた。煙が晴れると、そこには一匹の魔物も残っていなかった。


龍はその光景を見て、目を見開いた。「まさか、このような力を…」と低く呟いた。その目には驚きと一抹の畏敬が宿っていた。


サヤの魔法が炸裂し、周囲は一瞬で静寂に包まれた。地形は劇的に変化し、かつての茂みや岩陰は跡形もなく消え、広大な空間が広がっていた。地面は焦げた匂いとともに、黒く焼け焦げた跡が広がり、空気はまだ熱を帯びていた。かつての魔物の跡形は、何も残さず消え去っていた。


サヤはその場に立ち尽くし、激しい戦闘の後で息を荒げていた。彼女の顔は青ざめ、力を使い果たしたために足元がふらついていた。ワタルがすぐに駆け寄り、彼女を支えた。


「サヤ、大丈夫か?」ワタルが心配そうに尋ねる。


サヤはかすかに微笑みながらも、疲労の色を隠せなかった。「うん…なんとか…」と彼女は答えた。


「貴様ら、ただ者ではないな。魔物を操るだけではなく、これほどの魔法まで使えるとは…」龍は威厳を保ちながらも、その言葉には明らかな疑念が含まれていた。


ファングは龍を睨み返した。「俺たちは魔物なんて操っていない!この島の人々を苦しめる…お前を倒しにきたパーティだ!」と相手に向かって叫ぶ。


サヤは息を整えながら龍に向かって言った。「あなたが島の守護者ならば、どうして人々を襲うの?彼らを守るのがあなたの役目じゃないの?」


その言葉が龍の耳に届いた瞬間、彼の目が激しい怒りで燃え上がった。龍は巨大な尾を振り上げ、地面を打ち砕いた。轟音と共に、地面が震え、裂け目が広がった。


「貴様、何も知らぬくせに口を開くな!」龍の声は雷鳴のように響き渡った。「人間どもがこの島に何をしたのか、お前たちにはわかるまい!」


ワタルは驚愕しながらも、剣を握りしめた。「何を言っているんだ?俺達はこの島の人たちが苦しめられていると聞いて…」


「黙れ!」龍の怒りは止まらなかった。「かつてこの島は平和だった。だが、ある時を境に外からやって来た人間どもが、この島を襲撃し始めたのだ。彼らは私をも狙い、共存の道を選ぶことなく、私を攻撃した。私は守護者としての役割を果たしていたが、彼らの蛮行により、この島は混乱に陥った。」


龍の目はさらに鋭くなり、火を吐きかける寸前まで怒りに震えた。「貴様ら人間が、私の信じたものを全て壊したのだ。私が守るべき存在を狙い、破壊し尽くした。お前たちに何がわかる!」


龍は巨大な翼を広げ、空気を震わせるほどの咆哮を上げた。


その瞬間、優しい声が響き渡った。「それ以上はやめて。」


突如現れた若い女性の姿に、一同は驚きと警戒を隠せなかった。彼女は長い赤髪をたなびかせ、透き通るような白い肌を持ち、穏やかな微笑みを浮かべていた。彼女の存在感は静かでありながらも、圧倒的な力を感じさせるものだった。


「どうしてここに来た?」龍は低く唸りながら問いかけた。彼の目には怒りが混じっていたが、攻撃する気配はなかった。


女性は龍に微笑みかけ、ワタルたちの方へ歩み寄った。彼女は穏やかで優しい雰囲気を纏い、その微笑みは見る者を安心させた。彼女の目には深い悲しみと慈愛が宿っていた。


「さあ、ここでは話が進まないわ。」女性は柔らかく微笑み、皆を促した。「別の場所でゆっくりと話をしましょう。」と両手から眩い光を生み出し、ワタル達を包み込むのだった。


その光は暖かく、ワタルたちを包み込んだ。

光が収まると、そこは鬱蒼とした森だった。鳥や虫たちの鳴き声が聞こえ、爽やかな風が優しく吹いていた。


そこには女性が立っており、スノーが質問した。「貴方が助けてくれたの?龍は?」


すると、女性は一瞬にして態度を変え、明るく元気な口調で答えた。「そうだよ!びっくりした?龍は大丈夫だから、心配しないでね。あ、みんな無事でよかった~!」


その豹変ぶりに、ワタルたちは呆気に取られた。サヤは思わず目を見開き、「さっきの雰囲気と全然違う…」と小声でつぶやいた。


女性は笑顔を浮かべながら、軽く肩をすくめた。「ごめんね、さっきはちょっと真剣だったから。でも、今は大丈夫。あなたたちが嘘をついていないことは、私の能力でちゃんと分かってるから。」


ワタルは不思議そうに聞いた。「能力?」


女性はうなずき、「うん、そう。私には嘘を見抜く力があるんだよ。だから、あなたたちが本当にこの島の人々を助けたいと思って来てくれたってのはわかってるから。」


ワタルたちはまだ戸惑いを隠せなかったが、女性の言葉には真実味が感じられた。その時、女性はさらに明るく話し始めた。「あ、そうそう。紹介が遅れたけど、私のパパがあの龍なの。びっくりでしょ?」


ワタルたちは一瞬固まった。「パ、パパ?」とファングが信じられないように呟いた。


「うん、そうだよ。私、龍の娘なの!」彼女は笑顔で答えた。「だから、パパのことは心配しないで。ちゃんと説得しておくから。」


ワタルたちはその信じられない事実に驚愕した表情を隠せなかった。スノーは口をぽかんと開け、「それ、本当?」と尋ねた。


「さては信じてないなぁ?みてみて!」と青白い光が彼女の足元を照らし出し、彼女はその光の中に飛び込んだ。


その光はどんどん強くなり、彼女の姿を包み込んだ。眩い光の中で彼女の輪郭がぼやけ始め、次第に大きくなっていく。光の中で彼女の体が変わり、長く強力な尾が現れ、巨大な翼が広がった。


光が消えると、そこに立っていたのは、赤い鱗に覆われた巨大な龍だった。彼女の目は以前の慈愛を残しながらも、力強さを帯びていた。


「信じた?」巨大な龍は、同じ優しい声で問いかけた。


ワタルたちはその圧倒的な変化に驚き、言葉を失った。ファングが口を開け、「す、すごい…」とつぶやくと、サヤも驚愕の表情を浮かべながら頷いた。


「この姿…可愛くないからあんまりやりたくないんだけどね…」とあっさり姿を元に戻してすましている。


「貴方が龍の娘だっていうのはわかったわ。だから人々と苦しめるのは辞めるよう説得できないかしら?」とハウンが尋ねた。


「貴方って呼び方じゃなくて、私の名前はミリアよ」と女性は微笑みながら名乗り、手を差し出した。「あなたたちがパパを誤解してるみたいだから、本当のことを見せてあげるね。」


ミリアは手をワタルたちの前にかざし、青白い光が再び放たれた。その光が彼らを包み込み、記憶の断片が共有され始めた。


そこには、島へと上陸する一人の男の姿があった。彼はルシアスと名乗り、冷酷な表情で命令を下していた。彼の背後には、武装した仲間たちが控えており、島民たちを弾圧し始めた。


「この島は我々のものだ!」ルシアスは高らかに宣言し、その手で島民を鞭打ち、恐怖を植え付けた。彼は島の資源を強奪し、反抗する者たちを容赦なく処刑した。


そして、その記憶の中で、ルシアスはエルンという名の男に龍の討伐を命じていた。エルンは暗い瞳で頷き、命令を遂行するために島中を探し回った。


「これが私たちの島に起きたことよ」とミリアは悲しげな目で言った。「パパはただ守ろうとしていただけ。彼が攻撃したのは、この島を侵略してきた人間たちへの報復であり、私たちを守るための行動だったの。」


「パパが罪のない人々を弾圧しているというのは事実じゃないの。彼は侵略者たちに対抗していただけ。島民を守るために、やむを得ず戦ったの。」ミリアは続けて説明した。


ワタルたちはその記憶を共有し、龍の言い分が正しいことを理解した。彼らは島民を助けるために来たが、今や龍の家族と島の運命も担うことになったのだ。


「だから、あなたたちが本当に島の人々を助けたいなら、パパのこともわかってあげてほしい。彼も、この島を守るために戦ってるんだから。」ミリアの声には切実な願いが込められていた。


「このルシアスって…依頼者の…?まさか」とスノー手を口に当てて視線をキョロキョロさせる。


ハウンが眉をひそめながら言った。「そうなると、私たちは利用されていたってことね。」


ファングが疑念を口にする。「いや、待て。これは事実なのか?幻術の類かもしれないだろう?」


ミリアはその言葉に微笑んで、「そんなのじゃないよ」と軽い口調で言ったが、すぐに真剣な表情に変わった。「これは幻術なんかじゃない。パパが受けた傷も、島民たちの苦しみも、全部本当のこと。」


ワタルたちはその言葉に耳を傾け、彼女の真剣な目を見つめた。


「でも、まあ、信じてもらうには時間がかかるよね。」ミリアは一瞬にして明るくなり、肩をすくめて笑った。「だから、これからの行動で示すよ。島を救うために、協力してくれるなら嬉しいな。私もパパも、この島を守りたいって気持ちは変わらないから。」


そう言って腕を後ろで組んで、空を見上げた。


続く




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