表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/90

第四十一話 エムルート島へ

エムルート島はラグド王国領でありながら、冒険者たちの間でもあまり知られていない場所だった。地図上では小さな点でしかなく、その詳細は不明瞭な部分が多かった。


ザインが馬車を出すことを快諾してくれ、2日間かけていく先に件の港がある。

季節は唸るような夏。


港までの道中は何事もなく、進んだ。

日の高くないうちに到着することが出来、安心したのも束の間だった…


「エムルートに行く船?今日はもう出ちゃったよー」と港の管理人が言った。


「でも、昼前にはもう一便出航があるんですよね?」とワタルはメモを出す。


「それ情報が古いね。今は一日一便しか出てないんだよ。次の船は明日の朝だ。」管理人は肩をすくめて答えた。


「明日まで待つしかないってことか。」ファングが不満げに呟いた。


「あら、スノーは?」といつの間にかいなくなっている彼女にハウンが気づき、当たりを見渡す。


その時、スノーが満面の笑みを浮かべながら戻ってきた。両手には色とりどりの水着を抱えている。


「じゃーん!みんなの分の水着、買ってきたよ!せっかくだから海で遊ぼうよ!」


「お金がないって言っていたでしょう!」ハウンが叱るように言う。


スノーの楽しそうな笑顔を見て、サヤが安心したように微笑んだ。「スノーがこんなに楽しそうにしてる。よかった。」とサヤが優しく言った。


「そうね…。確かに、みんながリフレッシュするのも大事だわね。」ハウンはしぶしぶ納得しながらも、内心ではスノーの笑顔にほっとしていた。


「でも、せっかくの機会だし、ちょっとくらい贅沢しても…な?」ファングがニヤリとしながら言った。


「まあ、確かに大事だよな。」ワタルが笑顔で同意する。


「仕方ないわね…」ハウンは呆れたようにため息をついたが、微笑んだ。


「じゃあ、浜辺に行こう!」スノーが楽しそうに言った。


ワタルたちは浜辺に着くと、早速水着に着替え、海へと駆け出した。太陽が燦々と降り注ぎ、海水は輝くように透き通っていた。波が穏やかに打ち寄せる中、彼らの笑い声が響き渡った。


「見て見て!海に浮かんでる!」スノーは楽しそうに浮き輪に乗り、手を振った。


「まったく、お前は本当に子供みたいだな。」ファングは少し離れた場所で泳ぎながら笑った。


「サヤ、泳がないの?」ハウンが近づいて声をかけた。


「私は泳ぐのが苦手だから、ここからみんなを見ているのが楽しいの。」サヤは微笑みながら答えた。


「そう?でも、もし何かあったら声をかけてね。」ハウンは優しく言って、再び海へと戻っていった。


「ワタル!こっちに来て!」スノーが大きな声で呼びかける。


「待ってろ、今行く!」ワタルは駆け寄る。


「砂のお城を作ってたんだけど、面白いこと思いついちゃった。ワタル、ちょっとここに寝転んでみて!」スノーが楽しそうに言った。


「え、なんで?」ワタルは首をかしげながらも、言われた通りに砂の上に寝転がった。


「いいから、いいから!」スノーはニヤリとしながら、手を動かし始めた。ファングもそれに気づいて近づいてきた。


「何してるんだ?」ファングが興味津々に尋ねた。


「ワタルを砂に埋めてみようと思って!」スノーが嬉しそうに言うと、ファングも笑いながら手伝い始めた。


「おいおい、これじゃあ動けなくなっちゃうぞ!」ワタルは半ば呆れながらも、楽しそうに笑っていた。


「大丈夫、大丈夫!」スノーとファングは手早く砂をかけていき、あっという間にワタルの体が砂で覆われていった。


「これで完成!」スノーが満足そうに手を叩いた。


「おーい、助けてくれー!」ワタルは冗談めかして叫んだが、その顔には楽しさが溢れていた。


サヤはその様子を見ながら微笑んでいた。彼女は水辺には近づかず、砂浜でみんなの笑顔を見守っていた。


夕方になり、太陽がゆっくりと沈み始めると、海辺は黄金色の光に包まれた。波が静かに寄せては返し、涼しい風が心地よく吹いている。ワタルとスノーは砂浜に座り、波の音を聞きながら静かに話していた。


「今日は本当に楽しかったな。久しぶりにこんなに笑った気がする。」ワタルが笑顔で言った。


「うん、私も。ずっと笑いっぱなしだったよ。ワタルが砂に埋められるのも面白かったし!」スノーは楽しそうに返した。


「まさかあんなに真剣に埋められるとは思わなかったよ。でも、たまにはこんな日も必要だよな。」ワタルは遠くの海を見つめながらしみじみと言った。


その頃、ファングはまだ遠くまで泳ぎ続けていた。彼は水中での動きを楽しみながらも、ストイックに自分の体力を試していた。疲れを感じることなく、むしろ充実感を味わっていた。


一方、サヤとハウンは既に宿に戻り、体を休めていた。



「私たちって普段はいつも戦いとか冒険とかで忙しいから、こうやってリラックスするのも大事だね。」スノーは砂をいじりながら言った。



「本当だよ。スノーが楽しそうで良かったよ。笑顔を見ると、その…なんだか安心するんだ。」ワタルは微笑みながらスノーに言った。


スノーは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに照れ隠しをするようにして砂を払い立ち上がった。彼女は顔を赤らめ、何も言わずに水を手ですくい、ワタルに向かって掛けた。


「おいおい、いきなり何するんだ!」ワタルは笑いながらも驚き、立ち上がって水を掛け返した。


「やられたらやり返すんだからな!」ワタルも負けじと水を掛け返し、二人はいつしか子供のように無邪気に水の掛け合いを始めた。


水しぶきが飛び散り、二人の笑い声が夕暮れの浜辺に響き渡った。照れ隠しのつもりが、気づけば楽しさが勝り、二人は夢中になって遊んでいた。やがて、二人とも疲れて砂浜に座り込み、息を整えた。


二人はしばらく静かに座り、沈みゆく太陽が空を染める美しい景色を眺めていた。風が穏やかに吹き、波の音が心地よいリズムを刻んでいる。


「ずっとこうしていられたら良いのに」とスノーがつぶやいた。


「本当にそうだな。こうしてみんなで笑い合える時間が、もっと増えたらいいのに。」ワタルも同じ気持ちを込めて答えた。


二人は再び静かに座り、波の音に耳を傾けていた。しばらくの沈黙の後、スノーが突然顔を上げてニヤリと笑った。


「ワタル、今日は私の水着見られて嬉しかった?」彼女はからかうように言った。


ワタルは一瞬驚いたが、すぐに照れ笑いを浮かべた。「え?いや、そんなことないって!」


スノーはさらに笑いながら、「そう?でも、顔が赤くなってたよ?」と続けた。


「そ、そんなことない!」ワタルは必死に否定しながらも、その頬はやはり赤くなっていた。


「やっぱり照れてるじゃん!」スノーは勝ち誇ったように笑い、ワタルに水を掛けた。


「おい、それはずるいぞ!」ワタルも負けじと水を掛け返した。


二人は再び水の掛け合いを始め、砂浜は再び笑い声で満たされた。スノーはワタルの反応に満足しつつも、自分自身も楽しんでいる様子だった。


やがて、夕日の光が完全に消え、夜の帳が下りる頃、彼らはようやく遊びを止めた。



水しぶきと笑い声は止み、穏やかな静寂だけが残った。

そして二人は仲良く並んで座り、今日一日の思い出を語り合った。話しながら空を見上げれば、美しい星々が彼らを見守っているかのようだった。ワタルはふと視線を戻し、隣で笑顔を向けて話しかけてくるスノーを見た。彼女は無邪気に笑い続けながら夕日の反対側にゆっくりと沈んでいく太陽が作り出す美しさに見とれていた。そんな姿を見て、ワタルも自然と微笑んでしまうのだった。

それは楽しかった一日の終わりに訪れる暖かな安らぎの時間だった。


やがて、二人は港近くの宿へと戻ってきた。サヤとハウンが先に戻っていたことを思い出し、部屋に戻ると、すでに二人は休んでいた。


「おかえりなさい。楽しんできた?」ハウンが眠そうな目をこすりながら、笑顔で迎えた。


「うん、楽しかったよ。ありがとう、ハウン。」スノーは少し照れながら答えた。


「ファングはまだ泳いでるのかな?」サヤが心配そうに尋ねた。


「たぶん、まだだと思う。でも、あいつなら大丈夫さ。」ワタルが自信満々に答えた。


「それなら安心ね。」サヤはホッとした様子で言った。


部屋に戻り、ワタルとスノーはそれぞれのベッドに横たわった。疲れが一気に押し寄せ、瞼が重くなった。


「おやすみ、ワタル。」スノーが優しく囁いた。


「おやすみ、スノー。」ワタルも微笑みながら答えた。


その夜、彼らは深い眠りに落ちていった。波の音が遠くで響き、夜空の星々が静かに輝いていた。明日もまた、新たな冒険が待っている。今日の思い出を胸に、ワタルとスノーは心地よい疲労感とともに夢の世界へと旅立った。


翌朝、定刻に余裕を持って港へ向かうと既に船が待機していた。

船長はワタルたちを見ると、笑顔で出迎えてくれた。


その際に添乗員にエムルート島、および悪魔について話を伺った。


悪魔は龍の姿をしており、エムルート島に時折、降りたつらしく、島の住民を襲い、人々を苦しめているそうだ。

これまでも討伐を試みた冒険者はいたものの、誰一人として成功したことはなかったらしい。その恐怖は周囲にも広がり、誰も手を出せずにいる状況だと言うのだ。


「船が襲われるんじゃ…?」ファングが心配そうに尋ねた。


「その心配はありません。」船上員は自信満々に答えた。


「龍は海上までは滅多に現れません。これまでに船が襲われた記録は一度もないのです。それに、我々の船は特別な魔法で守られており、海を渡る間は安全が確保されています。まぁもっとも島を守りきれるほどの強力な結界という訳ではありませんが。」


魔法がかけられたこの船は、荒れ狂う荒波の中でも揺れひとつ感じないようになっていた。


船は静かに出航し、ワタルたちは新たな冒険への期待と共に、船上でのひとときを楽しんだ。波の音が心地よく響き、船は穏やかに海を進んでいった。彼らはエムルート島への旅路を進みながら、再び笑顔と会話が絶えないひとときを過ごした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

↓想実堂『TEAPOTノベルス』公式サイトはこちら↓

”TEAPOTノベルス”
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ